現代ダンジョンは何でもござれ

ZE☆

プロローグ

『始まりのコドウ』

 世界各国のあらゆる場所に地下迷宮ダンジョンが出現してから数十年が経った。

 迷宮調査を生業とした冒険者なる職業も、今ではすっかり立派な職種のひとつとして世間に認められている。小学生の憧れの職業ランキングでも上位に食い込むほどである。

 地下迷宮が世界に出現し始めてからしばらくの間、冒険者という職業は存在しなかった。主に各国が編成した調査隊が迷宮の調査を行っていたからである。それに加え、当時の迷宮は特に危険な場所ではなかった。

 地下迷宮が出現してから数年の月日が経った頃、魔物モンスターは突如現れた。北欧の調査隊の数人が行方不明になるニュースを皮切りに、迷宮調査へ向かった人間が行方不明となる事件が相次いだ。

 この事態を重く見た欧米が大規模な行方不明者捜索隊を迷宮に向かわせたところ、ようやく世界は魔物の存在を認知することとなった。数十を超す調査隊員の内、残った僅か数名が持ち帰った魔物の遺体の写真や映像が電波に乗り世界中に発信された途端、世界は大きな混乱に包まれた。


 魔物の存在は有史以来の脅威として受け止められ、各国の首相たちは直ちに対策本部を立ち上げ、国の垣根さえも度外視してこの脅威に対する有効手段を模索、検討した。

 応急処置として、確認できている迷宮の入口を各々の方法で塞ぎ周囲を二十四時間体制で各国の軍や自衛隊が見張り、米国は万が一の事態に備えて核の使用さえも示唆していた。

 人智を越えた脅威を前に不安な日々が続いた或る日、光明は突然にして差し込んだ。


「このままではいつ暴走するかもわからない相手を前に、怯え続けながら生きて行かなくてはならなくなる」

「国の長が雁首揃えてお手上げか、情けない」


 いずこかの国の首相がため息と共に辟易を吐き出したのとほぼ同時だった。

 会議室の重い扉が音を立てて開かれる。


「これはこれは、皆さんお揃いで」


 困惑顔の黒服数名を引き連れて扉を潜って来たのは、スーツ姿の白銀髪の若い男だった。

 男は黙っていれば女ウケの良さそうな顔に軽薄そうな笑みを浮かべ、舞台俳優さながらの大袈裟な所作で会議室の一同へ向け一礼を披露して見せた。

 男の登場に困惑と怪訝を浮かべるのが大半を占める中、日本と米国の長だけはウンザリとした顔のまま互いに目配せして席を立つ。始めに口を開くのは日本の方だった。


「君を呼んだ手前、強く咎めることができないのが腹立たしいが、最低限のことは言わせてもらおう。場を弁え給え」

「これはこれは首相さん、ごきげんよう」


 日本の長は頭に手を添えながら項垂れる。


「全く……驚かせてすまない。彼は日本からの協力者、ミスターコドウだ」


 米国首相が助け舟を出す。


「それで、そこの男が何だって言うんだ?」


 中東系の顔立ちの男があからさまに苛立ちを顕わにして問う。


「彼は今回の事態の収拾に際して有効的な手段を編み出したのだよ」


 米国首相のその言葉に、一同は鈍い反応を示す。

 煮詰まっていた議論に一石が投じられようとしている事を素直に歓迎したい反面、その相手が如何にも胡散臭い日本人である、という懸念が勝ってしまっているのは明白である。


「ノープロブレム——世界を救ってみせましょう」


 一同の目が再び自分へと向いたのを確認すると、胡堂コドウは再び笑ってみせた。

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