時よ戻れ
洗脳済み捕虜
時よ戻れ
リッツという、この16歳の少年は所謂いじめられっ子であった。
先程も、親の仕事の手伝いでやっと貯めた30ドルを持って
出かけた先の古本市で不運にも同級生に見つかり
連れ込まれた路地裏で、
殴られ、蹴られ、眼球をライターで炙られ、
所持金の全てを奪われた
元々、治安の悪い地区で、警察も当てにならず
自衛をする以外にやりようも無いのであるが
リッツは幼い時から
それこそ、もう10年以上も前の昔から他者から虐げられ続けており
骨の髄までいじめられっ子というものが染みついていた為
うまく事の対処ができずに、やられ放題となっていた
勉強して、この町を出て、立派になって、
お金持ちになって、見返してやる
そう思っていた矢先、前述した出来事が起きてしまった為に、
結局、彼は勉強するための本を買うこともできず
視力のほとんどを失い
残っていたほんの僅かな自尊心までも粉々に砕け散ろうとしていた
いっそ自ら命を絶ってしまおうか
そう頭を過った瞬間、見えずらかった目の前が更に真っ暗になり
その闇の中から、毛むくじゃらな悪魔が顔を覗かせた
「おいおい、そんな簡単に死ぬなんて考えるなよ」
悪魔はリッツの肩をポンポンと叩きながら励ました
「もう…嫌なんだよ」
リッツは泣くばかりであった
悪魔は少し考えると、リッツにこう言った
「お前が死んだら魂は俺が食ってやる、でもまぁ、死ぬのはもう少し先にしようぜ、特別にお前の願いをなんでも一つ叶えてやるからさ」
リッツはどんな願いが良いかと考えを巡らせ、
同時に過去の自分を振り返った
思えば6歳の時、初めての学校で緊張して、
クラスの全員の前で脱糞してしまったことが、
そもそものいじめの発端であった
臭いぞ、汚いぞ、こっちに来るな、うんこがきたぞ、
などとからかう同級生にも恥ずかしさのあまり、うまく対応できなかった
あの時、僕が皆と変わらぬ普通の子供であったなら
こんなにいじめられてはいないだろう
友達もできていたかもしれない
少なくとも、こんなに人を憎んだりはしていなかったはずだ
あの時に……戻れたのなら………。
そして、リッツは悪魔にこう願った
「時を戻してほしい、10年前まで」
悪魔は目を丸くして
「時間の逆行かよ、大層な願いをするもんだな、並の悪魔じゃ無理かもしれねーが、まぁ俺はできるぜ、すごいだろう、ふふん」
と、鼻息荒く自慢げに言うと、手を高く掲げた
そして、リッツの願いは叶えられた
しかし、都合よく現在の記憶を持ったまま
10年前に瞬間的にワープするなんてことは起こらなかった
なんと時は逆さまに流れ出したのだった
「でま前年01、いしほてし戻を時」
逆再生の声がリッツの口に戻っていく
逆向きに流れる時間をリッツのみ観測している、
という状況が生まれた
だが、いままで起きてきた出来事に抗うことはできない
「よだんな嫌…うも」
一倍速で時は戻り続ける
「!はははははあ、!なとがりあ、君ツッリ」
所持金を奪われるところまで戻ってきた
「…ぅぅぅぐ、!てめや!…い熱」
ライターで目を焼かれた
「っごお…っが…っいぎ…ぅすでい痛…ッスグ」
腹に鈍い痛みが返ってきた
時は3日前まで戻った
ヘラヘラ笑う同級生たちが集まってきた
「ぜたっがやい食に当本」
「ハハハハハャギ」
突如口に言いようのない苦みが現れ
リッツの口からコガネムシが取り出された
一週間前まで戻った
好きだったあの子が後ろ向きにこちらに歩いてきて
「でいな見ちっこ、らかい悪ち持気」
と言って、冷たい目でこちらを見つめた
10日前まで戻った
生臭さと胃液の入り混じった、床にぶちまけられた白濁液が宙を舞い
喉の奥までに戻っていき、嫌悪感でいっぱいになったところに
同級生の兄が口にペニスを突っ込んできて
口内の精液をストローのように吸い取っていった
哀れリッツは10年分の自身の身に起きた不幸を
もう一度逆再生で体験することとなった
普通に暮らしている時でさえ、
口から出たゲロを食卓に並べるような感覚や
糞が肛門に入っていく感覚に、精神は削り取られる
抗えぬ時の逆行に、リッツの心は破壊されていった
そして、ついに6歳に戻り、
時間は逆行することを止め、時計の針は正常に動き出した
しかし、リッツは激しい心身の消耗により、
肌をかきむしったり、髪の毛を引きちぎったり、
何かブツブツと言いながら糞尿を漏らしていたりしていたが
幸か不幸か、自ら命を絶つ気力さえ、もう持ち合わせてはいなかった
そして、そこから、悪魔に魂を喰われるまでの
数十年の人生のほとんどを、彼は病院で過ごすことになったのであった
因みに、やり直した後の人生のほうが、家族にすらも嫌がられ
より一層ひどいことをされることになるのであった
…というのはまた別のお話
時よ戻れ 洗脳済み捕虜 @0519930408
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます