XX年生まれは50%を下回ったので年代全滅してください

ちびまるフォイ

年代全滅はふとしたときに

「うぇーい! XX年代生まれ、かんぱーーい!!」

「かんぱーーい!」


XX年生まれといえば、誰もが記憶に残る宇宙人との大戦争が起きた年。

今となっては当時のことを振り返る人もいない。


「覚えてるか? あのとき、俺はまだ小学生で科学準備室にあった試験官で宇宙人を倒してさ」

「そうそう。あったなぁ」


同級生同士で集まった飲み会も自分の武勇伝に花が咲く。

飲み会が終わるとすっかり深夜になっていた。


「じゃーな! また今度飲もうぜ!」

「ああ」


友達と別れた先でおじいさんが急に倒れた。

ついさっきまでは元気にランニングしていたのに。


「おじいさん、大丈夫ですか!?」


一瞬にしておじいさんは息を引き取っていた。

かけつけた救急車に俺も乗って病院へいくと、遺族が泣きながら言った。


「しょうがないんです……主人も〇〇年生まれですから……」


「〇〇年生まれになんの関係が?」


「〇〇年生まれの人が50%以上死んだので、主人も死んでしまったんです……」


「はぁ!?」


その病院ではじめて年代別淘汰のことを知った。


同じ年代の人達の総人口50%以上が死ぬと、生き残った50%も死ぬ。

そうすることで、年老いた人が威張り散らすような世界を防ぐというものらしい。


「お、俺は大丈夫だよな……大丈夫……」


言い聞かせるようにして病院を去った。

今日飲みにいったXX年代生まれはたくさん生き残っている。

50%以下になることは年齢的にもまだ大丈夫だろう。


翌日、ニュースでは絶望的な報道をしていた。


『ただいま入ってきた情報によりますと、謎の即死ウイルスが蔓延しています』


「はい!?」


『即死ウイルスは予防接種を受けなかった人にのみ作用し死に至らしめます。

 具体的にはXX年生まれの人は予防接種を受けていません』


「うそだろ!? 50%下回っちゃうじゃん!!」


慌てて予防接種を受けに行ったがすでに年齢的にNG。

予防接種を受けても自分の免疫が対応できずに死んでしまうとのこと。


今こうしている間にも、自分の年代の人口が減っている。

50%を下回ればどんなに元気であっても自分も共倒れで死ぬ。


「なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ!」


ウイルスも許せないし、50%以下でまとめて死ぬことも許せない。

なんとかできないかと探しに探した結果、肉体の移動手術が見つかる。


「こ、これだ!!」


どうせこのままじゃ死ぬんだからと全財産を投じて、若い体に乗り換えた。

乗り換えた直後にXX年代生まれは、同年代の人口50%を切ったのでまとめて死亡した。


「あ、あぶなかった……間一髪だ」


すんでのところで肉体を乗り換えたので一命をとりとめた。

この体は▲▲年生まれになるので、人口は気をつけなければならない。


「せっかく新しい若い体を手に入れたんだし、楽しまなくっちゃな!」


命を救うために選んだ肉体転換だったが若い体になったのはケガの功名。

若い人と友だちになって、若い彼女と一緒になれたりできるかも!


「ねぇそこのナウい彼女、俺と最高のアベックにならない!?」


「え゛……なんなのこの人」


「アイムソーリーひげソーリー。ちょっと声かけただけじゃないか。

 迷惑だったらドロンするよ。なーんちゃって、冗談はよしこちゃん」


答えを聞くよりも早く女性はスマホを操作。

若い警察官が秒ですっ飛んでくる事態になった。


「いたぞ! 貴様、年齢詐称しているなーー!!」

「XX年生まれは全滅したはずだ!! この精神老害めーー!」


「ちょっ……話をしてただけじゃないか!」


「ナンパなんて古い文化を未だに地で行くやつなんて

 XX年生まれなんだよ! ▲▲年生まれはそんなことしない!!」


あっという間に羽交い締めにされてしまった。

精神年齢センサーを通されてXX年代生まれであることを暴露される。


「やっぱりだ! こいつ体の年齢を偽ってやがった!」


「すみません……XX年生まれが50%以下に下回るのを見て怖くなって……」


「お前みたいなやつがいつまでもこの世界に居座っているから

 オレら▲▲年代生まれが自由にできないんだよ!! 早く自分の年代に戻れ!」


「そんなことしたら死んじゃうじゃないですか!」

「死ねよ!」


このまま生きたところで中身の年齢がバレている。

かといってもとの年代に戻れば死んでしまう。八方塞がり。

神に助けを乞うように空を見上げたときだった。


「あれは……?」


「おい、なに見上げている。早くもとの体に……」


「そうじゃない! 空を見ろ!!」


空からは雲をつきぬけて宇宙船が現れていた。


「な、なんだあれは!?」

「宇宙人だ! 宇宙人が下りてきたぞ!!」


一瞬にして周りは大騒ぎになり、冷静なのは自分だけになった。

冷静さを保てたのもXX年生まれは自分だけだったからだ。


「あれは……昔にやってきた宇宙人……!」


▲▲年生まれにはまるで知らない未知の存在かもしれないが、

XX年生まれの自分にはすでに一度撃退している存在。

警察官の腕を振り払って走った。


「おい貴様! 逃げるつもりか!!」


「このままだと▲▲年生まれも50%を切るぞ!」

「そんなわけあるか!」


「良いから早く!」


近くの研究室に入ると試験官の中身を捨てて、中に水道の水を入れていく。


「あんたいったい何をしてるんだ!?」


「宇宙人はこれに弱いんだよ!!」

「そんなバカな!?」


水の入った試験官をさながら水戸黄門の紋所のように掲げた。


「ピキィーー!!」


宇宙人たちは水入り試験官を恐れて身動きが取れなくなった。

やっぱりXX年代に馴染みのあるあの宇宙人のようだ。


宇宙人たちは過去とまったく同じ方法で撃退され、世界にふたたび平和が訪れた。


あれだけ目の敵にしていた警察官も優しい表情になっていた。


「あんたのおかげで助かったよ。あんたがいなかったら宇宙人に殺されていたかもしれない」


「先人の知恵ってやつさ。ところでひとつ気になったことがあるんだが……」


「なんだ?」


「俺が50%の人口を切るって話をしたとき、速攻で否定しただろう?

 そんなわけあるかって。なんでそう思ったんだ?」


「そうか。XX年代生まれだから知らないのか」


若い警察官は今の時代の当たり前を伝えた。


「オレ達、XX年生まれは人工が50%を下回らないように

 常に50%以上の命を試験官の中で保存しているんだ。

 どんなに地上に出ている人間が死んでも、試験官の命には下回らないってわけさ」


「なるほど。賢いなぁ」


半数以上の命を常に隔離しておけば年代全滅は避けられるという理屈。

目に入ったのはとっさに中身を水道水に入れ替えたたくさんの試験官。





「……それじゃ、まさかこれって……」


俺が手を滑らせ、中身を入れ替えていない試験官を足元に落とした。

地面で中身が散った瞬間、▲▲年生まれはすべて死に絶えた。

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