第20話 うちから飛び出ていく

 夜。昼間とは違って蒸し暑い。ずっと人に見られていたから姿勢良く立っていたのと慣れないヒールに緊張で変なところの筋肉を使っていたせいかどっと疲れが出てしまった。


 常田くんとまたしばしのお別れだって言うのに風呂上がりにゴザの絨毯の上でベターんとうつ伏せになってしまった。

「梛、お疲れ様」

「おつかれー」

 4文字の言葉を言うのもだるい。すると常田くんがわたしの身体を優しく撫でる。もぉ、イチャイチャする体力残ってないよ。

 と思ったらマッサージしてくれているのだ。気持ちいい……。

「ふくらはぎが張ってるね。腿もすこし硬い」

「すごく上手。ありがとう」

「どういたしまして。おかんが失明したときのためにマッサージの資格も取ったらーって、昔取ってたんや」

「だったらなんでもっと早くからしてくれなかったの?」

「へへへ、鷹の爪隠しとっただけや」

「そうなの……あーっそこそこっ」



 夜は特にイチャイチャはせずにピロートークのみ。常田くんも疲れていたのかな。


「明日にはまた離れ離れになるけど、梛は今の仕事大切にして欲しい」

「……うん」

「寂しいけどなぁ……梛の力を出せるところに今はおってほしい。でも大阪の方でも子供図書館とかで募集があったらええんやけど」

「あったらすぐにでも行く……」

「年明けには出るやろ。その頃には今の日本もすこしは変わってるとええな」

「だよね。きっと変わってるよ……」

 すると常田くんがいきなり笑った。


「今日は笑ったなぁ。お寺でご祈祷してもらう時にキスしようとしたら怒られたこと」

「そりゃそうよ、教会式じゃないんだから……」

 常田くんに頭を撫でられる。

「ほんまこんな時でも来てくれたし、祝福してもらったし幸せやったわ……」

「うん。でも本当の結婚式じゃなかったけどね」

「そやな……でもさ」

「ん?」

 常田くんはわたしの左薬指の指輪を触る。

「梛も大阪に来たらな、パートナー協定結びたいと思っとる」

「パートナー……協定、聞いたことはあるけど」

「そや。それになったら入院しても家族だから会えるし、死んだら一緒の墓に入れる」

「やだ、縁起でもない」

「もし梛が今死んだら一緒の墓に入れんのや」

 ……そうよね、あのばあちゃんと母さんの墓に入ることになる。

 常田くんは大阪だし、もし彼が死んだら大阪のお墓に入る。遠い……。


 でもあの世のことなんてわからないし。


「おかんも言うてたけど結婚したら一つの家族ができる。実家とは切り離せって」

「そう言ってくれた時なんか心がすっとした」

「とか言うても助け合いは必要かな」

「そうねー、でも依存はダメ」

「うむ……」

 常田くんの手が止まった。


「僕は梛に依存しとるか?」

「そんなことないわよ。あなたはちゃんと一人でできてるじゃない、色々と」

「そか」

 また手が動いた。


「梛はもっと僕や周りに頼ってええんやで。梛は親や親戚おらんしさ。夏姐さんも、言うてたけど一人で背負いすぎやで」

「大丈夫よ、それでなんとか今まで生きていけたから」

「……梛、僕と家族になるの嫌?」

「そう言うわけじゃないけどさ。今までは一人でなんとかかんとかでうまくいってよかったけど……そろそろ作った方がいいかなって」

「一緒になるまではお互い死なんとこうな」

「また縁起でもない、死亡フラグたったよ今のセリフで」

「ピコーン! てか?」

「なにそれ」

「ピコーンっ!」

「って言いながら変なところ触らないでって」

「へへへっ」

「馬鹿ぁっ」

「あほやろ、僕」


 って常田くんに抱きしめられてやっぱりしばらくのお別れの前に一つになった。


 ほんま、アホやなぁ。


 常田くんの言葉で言えばそんな感じ?

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