第13話 イケメン家系
カウンターに戻ると返却図書がたくさん……やらなくては。そうすれば雑念は飛んでいく、はず。
仙台さんはあれから一回来てわたしに会釈してくれた。ふと手にした本、繊細さんがよく読んでいた自己啓発の本。わたしに未練たらたらなんて。ふられた相手を忘れる方法の本読んだら? それとも新しい出会いの本とか、未練を断ち切る本、ん? 諦めきれない恋を成就させる方法? 恋人のいる彼女を振り向かせる方法とかさ、なんでこんな本が世に出回ってるのかしら。
仙台さんと常田くんの取り合い……あの時も常田くん、僕の女ってすごく主張してて可愛かったし。
なんかそれに挟まれてるわたしもなんだか……楽しいわねぇ。ふふふ。
ダメだ、この作業は尚更妄想を生み出してしまう! 雑念雑念! わたしは啓発コーナーを後回しして日本文化コーナーに向かった。
ここなら変な妄想できないはず。……男の和服、常田くんも似合うかな……ああああ、どこ行っても妄想しちゃうわたしってぇ。
もぉっ! て本を入れ込んだ。
「あった、あった……この本」
とわたしが入れ込んだ本を手にする男の人。
「今検索したらあるって書いてあったのに無くてさ。作業中だったんだね」
ヒョイっと大きいその本を手にした男性。ニコッと微笑んでくれた。
「す、すいません……お待たせしました」
「いえいえ、あちらで読ませてもらうよ」
とスタスタとソファーに行ってしまった。
「カッコいい……」
とつい声が漏れてしまった。でもなんか見たことあるのよね、あの笑み。
それよりもまたわたしは惚れてしまった……。もう、ダメよ。わたしは頬を叩いて再び作業に移る。
「あの、すいません」
「は、はい!」
振り返ると常田君! そして横にいる笑顔の人は……。
「君か、倅と付き合ってる……」
「倅……て、まさか」
常田君は頷いた。
「あ、おとん……こちらが東雲梛さん」
「シノノメナギ、梛さんか。浩二が言ってた通りべっびんさんやないか」
常田君のお父様ーっ! 顔は似てないけど素敵なジェントルマン。笑顔も素敵。
ああ、短時間で二人も惚れてしまうなんて! しかも常田くんのお父様に……。
「なーぎっ」
しまった……常田君の笑顔が消えてる。ああ、もう。そういえばお兄様も来るとか聞いてたけど?
「浩二、その子かぁ」
振り返るとさっきのかっこいい人! って、まさか!
「兄貴、どこいったかと思ったよ」
「悪い悪い、この本を探しててな。そしたらこのべっぴんなお姉さんが持ってたんや」
……わああああっ、お兄様っ! この笑顔見たことあると思ったら常田君の……わたしったら恋人の家族に何一目惚れしてるのよ。
「なーぎっ」
怒ってる、常田君。怒ってる顔も可愛いんだけど……いい加減わたしの惚れやすい性格も何とかしてほしい。
「あー、なんとなく浩二が惚れるのもわかるわ。オカンに似とる。オカン大好きやもんな」
「やかましいわ、オカンと梛はまったくちゃうて」
「梛さん、っていうのかな。弟、すっごく甘えてきません? べったり甘えて、泣き虫で……」
「やめぃ、これ以上!」
掛け合いが漫才みたい。確かに甘えてくるよねぇ。……しかし常田くんのお母様とわたしが似てるだなんて。
「遅くなりましたがこちら、いつもお世話になっております、図書館の皆さんで食べてください」
とお父様から渡されたお土産。わたしも頭を下げて手に取る。……そうだ、普通にここにきたわけじゃないのよ。わたしと会うためじゃなくて……。
「あ、はじめまして。夏目と申します。常田くんのご家族……」
後ろから夏姐さんがやってきた。なんかさっきより目頭また赤くなってる気もするけど。
「館長が応接室にいますのでご案内します」
そう言って常田くん、常田くんの家族を連れていく。
「梛もあとできて」
と、夏姐さんは言う。わたしも? 常田くんは去り際に小さく手を振ってくれた。
……病院ではなんて言われたのだろう……。
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