第7話 スローな夜に
とある夜。次の日が二人とも休みだととてもリラックスした気持ちになる。そして自然と交わる二人。
たくさんキスをしてキスをしてベッドの上に座る常田くんに乗っかる。
「スローセックス実践入門」というのをこっそり図書館から借りてきた彼。こんな本が図書館にあるのか? 新書だからあるのよね。本屋でも似たような本はいくつか見たけど買うにも買えないし、図書館も置かない。
「ああいう本こそ点字とかオーディオ図書にすべきや」
ニヤニヤ笑ってる。チャラいとはわかってたけど、意外とエロいというか変態というか。健康的というか。何というか。
もし常田くんの目が見えなくなったらどうするんだろう。オナニーとかさ。
彼は大人になってからの失明になるから今までの想像でやれるのかもしれない。でも生まれてから見えない人は? 考えるにも考えられない。
「最近、梛は暗がりでしかしてくれんからなぁ」
「嫌だもん……」
「顔が見たい、感じてる顔見てたら興奮する」
「相変わらず変態だよね。でも見えなくなったら……」
「確かに見えなくなったら完全に見れなくなるわ、やっぱ今の顔、見せてや。焼き付けて思い出して……」
照明のスイッチのリモコンに手を伸ばそうとする常田くんの手を握った。そしてわたしは彼を押し倒す。そしてキスをする。
「あー、あかん。見れんかったわ……」
見られなくてよかった。恥ずかしもん。わたしたちは長ーくキスをした。
彼は浴室に行った。そうだ、そろそろ……クリスマスの夜に着る下着を新調しようかな。その日くらい特別なセクシーな下着に。初めての彼氏のいるクリスマスナイト……。ホテルのクリスマスディナーは食べに行って、そのまま夜はそこのホテルで泊まって……と考えてたんだけど11月の時点でどのホテルも予約で埋まってたし、レストランも同じく。恋人のあるクリスマスは互いにはじめてでその辺の事情知らなさすぎて……。
自宅でクリスマスディナー……でもいいかな。ってずっとクリスマスの過ごし方ばかり考えてるし、スマホでもずっと検索しては妄想している。
「梛、さっきから何キャッキャしとる」
しまった、また……。わたしは寝るときはナイトキャップを被ることにした。寝癖もつきにくいよ、とネネにほぼ押し売りされたけど確かに優秀っ。だけど常田くんの表情がなんか険しい。
「あとさ、また洗濯物に紙もの入ってた。こないだなんたけど渡すの忘れてたわ」
「ごめん。……っ!!」
わたしは隠した。しまった、あの時の! 次郎さんが、本に残していた名刺。わたしは忙しくて後で読もうと思ってたけど忘れてて。名刺を出して見ると
『あの時の返事はどうですか。連絡先はこちらです。』
「あのジローやろ。そんなのもらって……一度話したるわ。僕の女になにするて」
「そ、それはまずいんじゃない? 利用者さんだし」
常田くんは顔がムッとしてる。てか、僕の女って……かなり強気。でもさっきより顔が険しくなってる。
「梛、自分の部屋で寝ろや。一人にさせてくれ」
怒っちゃった……。まだこないだの顔から落ちた時の頬の赤みが残ってる。少し青くなってる。
また一人で寝て怪我するかもしれないしダメだよ。
「はよ行けや、もう明日は僕一人で病院行くで」
「でも……危ないよ」
「……どうせ家族やないんやから来ても意味ないやろ。無理してついてくんな」
口調が荒くなってる。てか、家族じゃないって改めて言われると傷つく。言い返せばいいのに返されない。わたしの悪い癖だ。
「わかった……あっちで寝るね。明日はわたし出かけるから」
「朝ごはんも用意せんでええ」
わたしは常田くんの部屋から出た。久しぶりに自分の部屋で寝る。しばらくこの部屋で寝てないから布団が冷たい。
でもあんなに怒ることないのに。わたし、常田くんだけ好きなのに。髪も切って証明したよね?
確かに妄想の中では浮かれているけど、あなただけなのよ。
自分だってパートの若い子と笑って仕事してたのにっ。
冷たい、冷たい。シーツの上が冷たい。目から涙出てきた。
常田くんと喧嘩した。意外とこれが初めてなのかな。拗ねられることや、注意されることはあったけどあんな怖い顔した彼は初めてだ。
にしても関西弁は普通よりも結構グサグサくる……。
そしてわたしはふと次郎さんの名刺を見た。電話番号とメールアドレス。
……。
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