第3話 嫉妬深いのよ、常田くん
今日はわたしが早番だったから先に家に帰って洗濯物をしまって畳んで晩ご飯の支度。
仕事も終わってウイッグを外すとショートカットに戻る。これも悪くはないけど……やっぱり切りすぎたというか刈りすぎたかな。
生姜焼きを作る。常田くんの大好きな料理。千切りキャベツも添えてあげるとすっごく喜ぶ。
ツリーの存在感はやっぱりすごい。ここ一角だけ洋風である。
「そろそろ時間かな」
メールも来てたし、常田くんを迎えに行く。歩いて帰って来れる距離だけど遅番の時は夜暗いしわたしはやっぱり心配になるから駅まで迎えに行くの。
あれ、もう一つメールが入ってる。……! 独身会の年末恒例報告会のお知らせ!
大学時代の友達で作られた独身会も35歳の年になるとわたし含め3人になった。結婚して子供ができた人たちもそうだが皆それぞれ全国、世界で飛び回って活躍しているから沢山であるわたしたちでさえも年に一回しか集まれないのだ。
一番忙しいはずのメイクアップアーティストの薫子(本名は薫)幹事。薫子とは女装同好会での仲間でもあり、彼女も女の子として生きていきたい人間。
メイクのセンスがとても良くてサークルでリーダーとなってメイクを教えてくれたんだよね。
もう一人はヨガ講師のサアヤ。この子は正真正銘の女子なんだけど女装同好会に飛び込みできて私たちに姿勢やウォーキングや仕草を教えてくれた。一度結婚したけどすぐ離婚して独身会にすぐ仲間入り。
候補日を見るとこの日だったらーわたしだけ休みで次の日遅番。常田くんはお休み。他はわたしが遅番の日だもんなぁ。
にしても二人に彼氏できたこと報告したらビックリするかもーっ。ふふふ。
今までみんなの話についていけなかった。恋人とのデート、キスの話、そしてセックスの話。
ある程度の知識は独身会のみんなから聞いたことも多い。全く話についていけなかったけどぉ、もうあんなこともそんなこともついていける。なんならあーして、こうして……ふふふ。
あ、またメール。
『梛、どこ?』
あら、いけない! 色々考えてたら。わたしは慌てて駅に向かった。
迎えに行って、作っておいた料理を常田くんに出す。その時に独身会の話をする。
「大丈夫。ご飯は自分でどうにかするから。楽しんでおいで」
「ありがとう」
「梛含めて3人なんや。どういう人?」
ほーら、きたー。常田くんの独占欲。わたしはそう思って薫子の仕事のページを出した。
「モデルの子や大女優さんとかのメイクをやっててお化粧品のプロデュースもしてるの。彼女もわたしと同じで……見た目でわかるでしょ? ガタイはいいけど心はわたしより乙女。それにネコだから」
「……ネコ?!」
ベッドの上では女役という意味。つい薫子がそう自分で言ってたからその通り話しちゃった。
「あ、わたしみたいに受け身ってこと」
「そうなんや。で、もう一人は」
「サアヤは女だけどバツイチ、恋愛対象は男のみ。わたしたちみたいないわゆるゲイは対象外。さっぱりしてる」
サアヤは宝〇系の男役みたいできれいなのよね。昔からの憧れ。
「そうなん。わかったわ」
……もぉっ。やきもちも程々にして。にしても美味しそうに生姜焼き食べてる。作った甲斐があったわ。
わたしは希望の日程を送ったらすぐ決まった。お店は前わたしと常田くんと夏姐さんが行ったあのバー。
ワイワイしてても大丈夫そうだったしご飯美味しかったし。
あそこの店長イケメンだったしー。ふふふ。ついでによ、ついでに。
「たぶんさー夏姐さんからそろそろ年末の飲み会誘いありそうやな」
「たしかに」
「姐さん深酒して大変な目に」
「毎年恒例ですから……」
「そやな」
常田くんと、毎年夏姐さんの泣上戸に付き合ってたけど今年は私たちカップルになったからどうなるやら。
「そや、映画見よか」
「もうそろそろ時間?」
わたしは映画を見るのも好きだから映画専門チャンネル契約してるんだけど、常田くんもわたしに合わせて時たま夜に一緒に見ることがある。
小説が原作だとなると原作と映画の違いを見つけたくなるのよね。
「年末になるとな、ラピュタやると思うが今年はちゃうか」
「バルスって言わないと気が済まない」
「僕も」
「言いたかったー一緒に見てバルスって叫びたいわ」
「近所迷惑、常田くん」
「そやな」
二人で寄り添って映画を見る、これも幸せなんだな。
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