この歳でパパとママになっちゃうかもよ?

 化け物を構成する人々が全員――ベニスも含めて元の姿に戻り、気を失った状態で倒れている。

 僕が”魔法”を使った結果、何の副作用もなく、合成魔術を無かったことにして誰一人として傷つけずに救うことができていた。

 壊れた街並みも一瞬で全てが元通りになった……その一方で、僕自身に変化が起きていた。”魔法”を使った反動がきてしまい、僕という一個の存在が人間から逸脱しようとしていた。

 世界そのものを彩る”魔法”に成ろうとしているのが分かる。指先から徐々に粒子となり、砂のお城が崩れるように、僕が消えていくのを感じる。

 存在から概念への変換が起きていた。

 ――人間をやめる気は無さそうに思ってたんだけど……?

 赤ずきんちゃんの声が聞こえた。

 同じ存在である”魔法”に至ろうとしている僕の状態を、赤ずきんちゃんは離れていても察知したらしくて、性質が近づいたことで、意識だけでの会話も可能となったようだ。

 ――こういう風に事態にならないように、念のために”おまじない”もしてあげたのに。あの”おまじない”は、ジャンバが危険な時に必要な現象を一度だけ起こすものだったんだよ?

 そんな凄い”おまじない”をして貰っていたのに、こんな結果になってしまったのは、弁解の余地もない。”おまじない”で助かった後に、そのまま”神”を追いかけるか逃げるかしてあの場から離れていれば恐らく僕はこんな目に遭わなかった。

 でも、後悔だけはしたくなかったから、見過ごすことができなくて”魔法”を使う判断を下した。

 ごめんね……。

 ――”ごめんね”って言われればなんでも許すような、安い女じゃないんだからね、わたしは。

 本当にごめん。

 ――もうちょっと後先を考えて行動しようネ?

 そんなに怒らないで欲しい。

 僕が”魔法”になれば、赤ずきんちゃんと同じ存在になるのだから、そういう意味では別に悪くないかもしれないって思えなくもないんだ。

 駄目かな?

 ――駄目じゃないけど、でも、そうしたらもう”えっち”できなくなるんだよ? 魔法は概念だから複数存在できるとかそういうものじゃなくて、つまりわたしと混ざり合って一つになる。

 そっか……”魔法”という概念として統合されてしまうから、もう”えっち”ができなくなるんだ。

 あんなに気持ちいいこと他にないから、凄く残念だ。

 ――でしょ? 私もまだまだ”えっち”し足りないんだから。だから、ジャンバが人間でいられるようにしてあげる。まだジャンバは”魔法”に至る途中だから、今なら間にあうしね。

 赤ずきんちゃんがそう言うと、暖かい温もりが体に染みわたり、気がつけば崩壊が収まり人間という存在を僕は保持していた。

 何が起きたのかを僕は理解できていた。

 僕が”魔法”になることを、”魔法”である赤ずきんちゃんが否定してくれたことで、まだ人間でいられるようになったのだ。

 ――まぁまぁ色々と世界を歪ませてるから、人間に戻してあげるのは何回もできることじゃないってのを覚えておいてね。次から気をつけて。

 魔法への変革途中から人間へ戻す行為は、そう何度もできることではない……それは僕もよくわかる。一時的にでも本質が非常に近づいたからこそ凄くよく理解できる。

 赤ずきんちゃんには迷惑をかけてばかりで、だから、何かしらの形でお返しをしてあげたいという気持ちが自然と湧いてくる。

 ――お返しがしたいなら、毎日必ずわたしとえっちすること! それでじゅーぶん。

 可愛らしい、お安い御用なお願いだった。

 赤ずきんちゃんにも満足して貰えて、僕も沢山気持ちよくなれる――凄く最高なお返しである。

 僕は短く頷いて、それからゆっくりと意識を失った。


※※※※


 瞼を上げると、見慣れた弐番寮の自室の天井が見えた。

「……あ、起きた?」

 赤ずきんちゃんは僕が目覚めたことに気づくと、すぐさまに馬乗りになって、ちゅっとキスをして来る。

 とりあえず、僕は赤ずきんちゃんの腰に手を回して、今度はこちらからキスをしてあげることにした。

 お互いの吐息を何度も感じあって、僕らのそうした接触は、少しばかり乾燥して冷えていた室内に潤いと熱を与えた。

「……僕はどれぐらいの間寝ていたのかな」

「三日くらい、かな?」

「そっか……」

 今回の出来事を総括すると――ベニスたちを助けることはできたけど、一方で”神”は見逃してしまった。

 ひとまず、王女殿下に諸々の説明をしたり、僕の心配をしてくれたミアに無事を伝える必要もある。

 けれど、今はそれよりも、優先的に行うべきことがあるのだ。

「……」

 赤ずきんちゃんは頬を朱色に染めながら両手を広げた。

 何を言いたいのかは分かる。

 お返しとして、沢山毎日えっちをすると約束したのだから、早く早くと言っているのだ。

 僕は赤ずきんちゃんを抱きしめて押し倒すと、耳元から首筋にかけて舌を這わせながら、服を脱がせていった。

「ぁ……ん……」

「ここが赤ずきんちゃんは弱いんだ」

「む……? ジャンバ、いつも以上にわたしの弱い場所探り当ててる……?」

 僕は”魔法”になりかけたことで、赤ずきんちゃんの意識が分かるようになった。そのお陰で、どういう風にすると赤ずきんちゃんが気持ちよくなるのか、どこを攻められると弱いのかが手に取るようにわかった。

「……そっか、わたしの意識がわかるからか」

「バレちゃった?」

「まぁね。でも、それをわたしも同じだよ?」

 赤ずきんちゃんは妖しく笑うと、一気に攻守を逆転させに来た。僕にできることが赤ずきんちゃんにできないわけもなく、僕の意識を基に僕の弱い部分を即座に見つけてくる。

 僕は負けてなるものかと耐えようとする。

 しかし、激しい赤ずきんちゃんの攻めに屈し、幾度となく負けてしまうのだった。

「赤ちゃんできたらどうしよう。この歳でパパとママになっちゃうかもよ? ……えっちをいっぱいして欲しいとは言ったけど、ここまでの勢いでとは言ってないんだけどなぁ~?」

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