王女殿下
改築作業はおよそ一週間ほど続き、主に設備を中心に寮は変わった。まず街中にあるモールまで繋がる地下が出来て、その通路にはビアガーデンが入った。
演習場も変わり、以前よりも頑丈になり、より高度な魔術の練習や実験を行えるように変貌を遂げている。
「ジャンバのお陰だな。マジでありがとう!」
「これからは”様”づけで呼ぼうと思う。ジャンバ様」
改築がよっぽど嬉しかったようで、僕は寮生からもの凄く感謝された。
特にビアガーデンが皆のお気に入りになったようで、入り浸るような人も出始めている。
「ビアガーデンから部屋に女を連れ込めそうだな……」
「言い方が悪いなぁ。ビアガーデンで酔った女を介抱する為に仕方なく部屋に連れて行くんだ。な?」
「そうだな。仕方ないんだ。決して寮則に違反しているわけではない。救命の為に仕方なく介抱する必要に駆られてなんだ。俺たちの本意ではないんだ」
上級生を中心に、女性絡みで喜んでいる人が多いのは考え物だけども……しかし、寮則違反については僕に何かを言える権利はなかった。
赤ずきんちゃんを部屋に隠しているからだ。僕も寮則を破っている側の人間であるので、綺麗事を言う資格などないのだ。
※※※※
寮の改築が終わり数日が経った。そんなある日、僕は新しく頑丈になった演習場に赴いていた。
試験対策で勉強していた魔術式の中に、面白い改変が出来そうな魔術を見つけたので、色々と試してみたくなったのである。
今回改変しようと思っているのは、小規模の帯電の魔術だ。
この魔術は、”魔術を扱う”、という事に慣れる目的で作られた簡易な魔術式であり、規模も威力も低く、使用の用途はほとんどないものである。
しかし、これは改変次第で化けそうな魔術式に僕には思えた。初歩的で単純で簡易な術式であるからこそ、改変する為の余白が非常に多いのだ。
僕が早速魔術を構築していくと、小太陽の時と同じように式の全てを瞬時に感覚で理解することが出来た。
さて……これをどう作り変えようか?
僕は色々と考える。
そしてその結果、電気を発生させる、という一点以外の全てを置き換えてみることにした。
早速この新たな魔術を使ってみると、部屋中に格子のように連なる雷が満ちた。
「……なんだか小太陽の時みたいに凄いことに」
まるで雷の中に来てしまったかのような、そんな錯覚さえ覚える光景が眼前に広がっていた。
「これに触れたらどうなるんだろうか?」
そんなことが気になった僕は、近くに転がっていた小石を電気の牢獄に放り投げてみた。
――次の瞬間。
小石が音もなく塵と化した。
凄い……特別な防壁でも張っていない限り、あらゆるものを塵にするであろう域にまで昇華できてしまっている。
ただ、この魔術は一歩間違えば自分自身も危ない代物だ。それぐらいの威力がある。指向性を持たせて自在に動かせるようにするか、あるいは特定の対象には効果が無くなるような改変もした方がよさそうだ。
※※※※
魔術を面白い、と僕は今まで以上に思えるようになり、どんどん熱中する日々を送ることになった。
学徒として充実した時間を過ごせる喜びを、僕は感じ始めていた。
しかし、時間というものは有限であり、つまり魔術に没頭すればした分だけ、別の時間が減っていることになる。
具体的には赤ずきんちゃんの相手をする時間が減った。肉欲的な意味での繋がりはもちろん僕も大事にしているものの、普通の世間話のようなものをする時間がどんどん少なくなっていった。
そのせいか、日に日に、赤ずきんちゃんが徐々にストレスを抱えるようになった。そうしてあくる日に、赤ずきんちゃんはジタバタと暴れ出した。
「ねーねージャンバ」
「ん? どうしたの」
「暇だからお話しようよ。勉強よりお話優先。お話お話お話」
僕とて、赤ずきんちゃんの心情は理解はできている。赤ずきんちゃんは基本的には部屋の中で一人で過ごしており、仮に暇つぶしに実体化して外に出たとしても、知り合いや友達がいるわけではなく寂しく虚しい時間が過ごしている。
美少女だからナンパはされるだろうけど、そういうのを相手にする性格でもないのも知っている。
要するに、ストレスが非常に溜まりやすい状況に置かれている。そうした前提を考慮するなら、”お話をして欲しい”という赤ずきんちゃんの要求は決して我儘ではなく、むしろ控えめですらあった。
まぁそういうわけなので。
僕は勉強をキリの良い所で切り上げ、普段我慢をしている赤ずきんちゃんのストレス緩和の為にお話しをすることにした。
膝の上に乗せて、太ももを触ったりしてイチャイチャしながら、とりとめのない話を続ける。
来客が訪れたのはそんな時だった。ガンガン、と玄関のノッカーを叩く音が聞こえてくる。
「誰だろう……赤ずきんちゃん、ちょっと透明になって」
「はいはい」
赤ずきんちゃんに透明になって貰いつつ、玄関を開ける。そこには困ったような表情で頬を引っ掻くゴルドゴが立っていた。
「ゴルドゴ先輩……僕に何か緊急の用とかですか?」
「いや、俺が用事があるわけではなくてだな……その、なんというか」
「……?」
「王女殿下がお前に会いたいらしくて……な。案内しろと、そう言われたわけだ」
ゴルドゴの後ろから一人の女の子が現れた。それは見間違えようもなく王女殿下であった。
対抗戦の時に戦った王女殿下ご本人だ。
「ご機嫌よろしゅうございますか?」
僕の額にじんわりと油汗が噴出し始める。なぜ王女殿下が……? もしかして、白濁液まみれにしたことを怒っていたのだろうか? いや、でもあれは故意ではないからなにも問題がないという話で終わったハズで……。
僕の胸中に不安が渦巻きはじめる。
しかし、そんな僕の懸念は杞憂だったようで、王女殿下はどうにも恨み事を言いにきたわけではないらしく、改めるように一度咳払いをすると、
「突然の申し出にはなるのですが、ぜひとも、あなたのお力を貸して欲しいのです」
そう言った。
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