キスにも慣れてきました

 あっという間に次の日がやってきて、赤ずきんちゃんとのお楽しみも終え、振替休日も終わってしまった。

 さらにその次の日。僕がいつも通りに登校すると、ティティとミアの二人と会った。

 一緒に講義を受けて、お昼を食べて、あとは帰るだけのなんてことはない日常が過ぎる。ただ、その一方で、僕はティティをついつい注意深く様子を窺ってしまうようにもなっていた。

 忘れてくれているだろうか……?

 そんな心配をしていると、ティティが僕の視線に気づいた。

「どうしたの……?」

 ティティは小首を傾げており、この反応から察するに、どうやら覚えていないようだ。

 僕はホッとして胸を撫でおろす。

「……変なジャンバ」

 そう言ってティティが肩を竦めると、事情を知らないミアも賛同するかのように頷いた。

 大丈夫だと判明したのだから、様子を窺うのは、もう止めた方がよさそうだ。

 と、その時だ。

 ティティがぼそっと呟いた。

「……もしかして、あの夜のこと、思い出しちゃってたのかな? ふふっ」

 それは一瞬の呟きであり、僕の耳では捉え切れなかった。

 なんて言ったんだろうか?

 それは分からないけれど、ただ、何かの拍子に肌を重ねたことを思い出されても僕としては困る。

 だから、ティティの無意識の記憶からもその事が消えるまでは、なるべく距離を保った方が良いと考えてスルーすることにした。


※※※※


 学校で行われる講義を受ける度に、少しずつ自分自身が成長し学べているという実感が湧いた。

 充実感があって勉強は楽しい。気が付けば今日の講義も終わってしまったくらいだ。

「……それじゃあね。二人とも気をつけて」

「うん」

「また明日です」

 ティティとミアとも分かれ、僕は自寮へと戻る。講義が終わった後に街で遊ぶ学生も多いけれど、僕は基本的には直帰なのだ。

 理由は、入学してから最初のテストが一カ月後にはあるからである。今のうちから対策をやりたいのだ。

 こういうのは毎日の積み重ねが大事だと個人的に思っている。

「ただいま……」

 自室に入ると、すぴーすぴーと寝息を立てる赤ずきんちゃんがいた。

 人混みが苦手だから外には出ないけれど、かといって部屋の中で他に特にすることも無いせいで、赤ずきんちゃんは僕といちゃつく時以外は寝ていることが多いようだ。

「……お腹出てるよ赤ずきんちゃん」

 腹部の白い柔肌が露わになっていたので、僕はそっとシーツをかけてあげてから、それから勉強を始めることにした。

「さて……」

 鞄の中から僕が最初に取り出した教科書は、魔術式学のものだ。

 結構配点が大きい教科であると同時に、僕自身の実になる教科でもあるので、重点的にやるつもりだ。

 僕は魔術式の改変を行えるので、既存の式を覚えれば覚えるほど、改変の出典のレパートリーや幅が広がって行く。

 試験勉強をすれば、それがそのまま僕にとって実学的な利益にもなるのだ。もちろん、改変とは別に、僕自身が原典の式を開発をする、という方法もある。

 でも、既存のものをイジる方が基本的に楽だったりもする。オリジナル魔術の研究に没頭するのは、学校の勉強がある程度進んでからでも遅くはないハズだ。

「えっと、この式は……」

 ぺらぺらと頁をめくりながら勉強を進めていく。

 すると、赤ずきんちゃんがふと目を覚まし、僕の腕を引っ張ってベッドに倒れこんだ。

「どうしたの?」

「……寝起きのちゅっちゅっ」

 勉強したいのだけども……物憂げな赤ずきんちゃんの表情を見ると、僕も我慢が出来なくなって来る。

 勉強は少しの間お預けになりそうだ。


※※※※


 ――がががが。

 そんな音が響き渡ったのは、学生寮で出される夕食を食べている最中であった。

 一体なんだろう、と僕が怪訝な顔をしていると、夕食の乗ったプレートを持ったゴルドゴが隣に座った。

「隣座るぜ。……にしても音が響くな。もう改築始まったのか。早いな」

「改築……? いつ決まったことなんですか?」

「対抗戦でジャンバが優勝した日だ。改築は一位の特典なんだ。寮の設備やらがグレードアップするんだよ」

 特典……そんな話もあったような無かったような。まぁ理由はともあれ、寮がグレードアップすると言うのは喜ばしいことだ。

 どのようになるのか少し楽しみである。

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