元底辺が魔専学校でがんばるお話

わっしょい

　えちえちな格好で気絶した王女殿下が運び出された後、他の寮が一斉に棄権したことで、僕は不戦勝で一位になった。

　新入生だと言うのにあれだけの魔術を行使し、王女殿下をとんでもない姿にしたそのイカレ具合に腰が引けたとかなんとか。

　控室でその報せを聞いた、僕は、ただただ真顔であった。

　自動的に1位になれたのは嬉しいけれど、それよりも、王女殿下の卑猥な姿を観衆に晒させてしまったのが心配でならなかったからだ。

　白い粘液まみれのドロドロ……。

「ははっ！　最高だぜジャンバ！」

　控室でゴルドゴが嬉しげに大笑いしつつ、僕の体を叩いて来た。

「出てきた相手が相手だったからな。さすがに肩書的にこれは……と思っていたが、そんな不安も一瞬で消し飛ばしてくれた。全く怯まず、それ所かあんな姿にするなんて中々できる事じゃない」

「いや僕は別に……」

「壱番寮の連中も、王女をまともに相手なんか出来ないと高を括ってたハズだ。そして金と権力にものを言わせた補助具を使って俺たちを嬲ろうとした。それをものともせずに瞬殺……スカッとしたぜ。それにしても、あんなエロい格好で辱めるなんて、大人しい顔してジャンバも中々に男だな」

「だからその……」

　僕が「わざとではない」と口にしようとする度に、それに気づく気配のないゴルドゴが矢継ぎ早に畳みかけてくる。

　そして「皆も喜んでる」と、控室の扉を開いた。

　次の瞬間。

　どどどどっと弐番寮の面々が姿を現わし、僕の体を掴み、そのまま胴上げしながら急発進した。

「勇者だぜコイツ！」

「我らが弐番寮の誇り！　見た事ない魔術だった！　天才降臨！」

「まさかの不戦勝で1位！」

「つか、他の寮が一斉に棄権とか伝説になるだろ！　まぁ卒業した後に死刑になって別の意味でも伝説になるかもしれねぇけど！」

「銅像作ろうぜ！」

「エロイ格好、眼福になった！　ありがとう！」

「「「「「わっしょい！　わっしょい！」」」」」

　ちょっ……。

　突然の事態に僕が困惑していると、ふらりと、赤ずきんちゃんが僕にだけ見える姿で現れた。

『……もう、ジャンバったら』

　赤ずきんちゃんはなぜか頬を膨らませていた。

　応援してくれていたのだから、勝ったら喜ぶかなと思っていたのだけど……どういうことだろうか？

『あんなにえっちな格好にさせるなんて……。ああいうのが見たければ、わたしにやりなさい。わたしに』

　赤ずきんちゃんは、腕を組んでぷいっと横を向いた。どうやら、王女殿下をああいう格好にさせた事が気に食わなかったようだ。

　でも、だからそれは誤解なんだ。

　僕は別に、相手をああいう姿にしてやろう、と思っていたわけではないのだ。

　それはそれとして――ところで、今考えるべきではないのは理解しているものの、少し気になったことがあった。

　赤ずきんちゃんは今、やるなら自分にと言った。

　それって本当かな……？

　あとで改めて確認してみようと僕は思った。

※※※※

　何はともあれ、弐番寮の面々に胴上げされつつ、僕が連れて行かれた先は試合会場であった。

　なぜ再び……と思っていると、どうやら表彰式があるそうで。

　壇上に来るように、と言われて僕はゆっくりと向かった。トロフィーを手に僕を待っていたのは教頭だった。

　入学式の時にちらりと見たくらいで、よく覚えていないので断定はできないけど、恐らく教頭だ。

「いやはや、まさかこのような結果になるとは、思っていなかったよ。それにしても凄い魔術だね。私も目にしたことがない。あれが普通の魔術ではないことは、一見しただけでも分かる。私は学生時代、魔術式構造学を専攻していたから、特によく君の魔術の凄さが分かる」

「は、はぁ……」

「……それから、君が王女殿下をあのような格好にしたことについては」

　あまりしたくない話を振られた。

「やっぱり問題になります……？」

「い、一応我が校の理念上はどの生徒も対等であり、それは王女殿下であっても例外ではない。それに、あくまで試合中のアクシデントであったように見えたので、学校としては咎めるつもりはない。わざとではない、で合っているかな？」

　僕は力強く首肯する。本当にあれはわざとでは無いのだ。信じてくださいお願いしますから。

「であれば、魔専学校としては問題としない」

　ほっとした。学校側から何かしらの処分が下されたり、そういうことは無さそうだ。

　となると、あとは王女殿下個人がどう思っているかだけど……それについては、本人の言っていた「忖度も心配も無用」を信じるしかない。僕も言質を取ってはいたし大丈夫なハズだ。

「少し、話が長くなってしまったね。……1位おめでとう！」

　トロフィーを受け取ると、ずっしりと重みを手に感じた。純金で出来ているのが分かる重さである。

　僕はゆっくりと会場を一望しながら、自らの勝利を示す為にも、トロフィーを持ち上げて見せた。

　壱番寮の人たちの怨嗟の声と、変態野郎というヤジが一部あったけれど、大多数が賞賛である歓声が一斉に沸き立った。

　――かくして、今年の新入生対抗戦は終わった。

　後は、今日いっぱい行われているという、この対抗戦にかこつけたお祭りを楽しむだけとなった。