壱番寮代表

 対抗戦の会場に辿り着くと、引率生たちが僕を待っていた。観客席には応援団も配置済みで、あとは試合を待つだけ、という具合だ。

 対戦方式はトーナメント戦で、引率生の一人がくじを引きに行くらしく、ゴルドゴが向かった。

 僕はじっと、静かに、対戦相手の寮がどこになるのかの報せが来るのを待った。

 まもなくして、バン、と扉が力強く開く。

 息を切らしたゴルドゴが、ニヤリと笑って言った。

「――弐番寮は初戦! 相手は壱番寮だ! 連中は代表を直前まで隠すつもりらしくてどんなヤツかは不明だが、お前なら大丈夫だろ! 目にもの見せてやってくれ!」

 どうやら、一発目から大当たりを引いたようだ。僕は力強く頷くと、控室を出て、戦場へと向かって歩いて行く。

「負けんなよ新入生! あいつらマジでぶっ殺せ!」

「弐番寮の意地を見せろ意地を!」

 廊下を進んで行くと、激励と共に背中や肩を叩かれた。

 ――絶対に勝って欲しい。

 そんな想いが込められているのが分かった。これは負けられない戦いだ。


※※※※


 対抗戦の会場は広めに作られていた。

 それは、会場が大規模な試合や演習演舞の時などにも使われるので、どのような用途にも使えるようにした為だそうだ。

 天井は無い。

 明るい陽射しが会場を照らし、歓声と応援団の叫び声が鳴り響いている。

 僕は、そんな会場に足を踏み入れた。

「……」

 ずっと控室にいたせいか陽の光を眩しく感じて、僕は思わず手で日傘を作る。

『――新入生対抗戦! 初戦はなんと、貴族寮同士! 先に会場に足を踏み入れたのは、弐番寮代表のジャンバ・アルドードだぁぁあああ!』

 僕の入場を知らせる報せが響き渡る。随分大きな声だな……と思っていたら、拡声魔術を使っているとかなんとか。

『――ジャンバ・アルドード新入生は、なんと、父親があの”狼男爵”! 貴族でありながら、常に前線へと出撃し勇猛果敢に戦って来たその経歴! 知る人ぞ知る英傑の中の英傑! その息子が満を持して登場! これは期待が出来そうだぁああああ!』

 その解説は、僕というよりほぼほぼ父上の説明では……?

 僕自身がまだ新入生で、何の結果も残していないから、どうしてもそういう説明になってしまうのかも知れないけれど……。

 なんとも言えない気分になりつつ、僕は、解説をしている魔専生を胡乱げに見つめた。

「……うん?」

 ふと、視界の端に、僕の名前が書かれた旗が振られているのが映った。

 ティティとミアだ。

 笑顔で旗を振ってくれている。

 ぐるりと会場を一望すると、いつの間にか観客席側に移動していた赤ずきんちゃんの姿も見えた。

 僕と目が合うと、赤ずきんちゃんは、にこっと笑ってピースをしてきた。

 そして、近くの人がそんな赤ずきんちゃんを見てもいて、美少女だからか特に男の子の視線が集まっている。

 どうやら……実体化……している……らしい。

 てっきり、他の人には姿を見せないように応援するのだと思っていたから、少し驚いた。

 でも、よくよく考えたら、チア姿で来ようとしていた時点でこの事態は予想は出来たことではあった。

 僕にしか見えない状態で来る気をしていたのなら、別に服装はいつも通りでも良いのである。

 わざわざチア服を着たということは、もうその時には人前に出る気をしていた、ということなのだ。

 まぁ、本人がそうしたいというのであれば、別に構わないと言えば構わないけれど……。

 寮の中でもないから、規則が云々ということも無いのだ。

 ただ、人混みが苦手なのにこんなに密集している所で実体化なんかして、具合が悪くならないと良いけれど、という心配はした。

 ので、早めに終わらせて、寮に戻れるようにしてあげようと思う。

『――さぁお次は壱番寮の代表だ!』

 いよいよ、相手が出て来るらしく、ここで僕は一旦思考を切り替える事にした。

 相手側の出入り口を見つめる。

 いつでも小太陽を出せるように準備をする。

 それから。

 まもなくして。

 ゆっくりとした足取りで、一人の女生徒が出て来た。

 こつ、こつ、と靴音を響かせながら現れたのは――

『――本年度の壱番寮代表は、こちらは恐らく一番のインパクト! 国民ならば誰もが一度は名前を聞いた事があるハズだ! ――アルフリードリヒ国王が息女! ディアドラ・アルフリードリヒ王女殿下だぁぁああああ!』

 会場が一瞬で静まり返り、僕も頬も引き攣らせていた。

 王女殿下は、静寂となった会場を一瞥しながら、最後に僕を見据えた。

「……今は私もただの一介の魔専生にございます。ご心配も忖度も無用。個人的にも、後で『王女相手だから手を抜いてやったんだ』等と言われるのも癪です。どうぞ全力でお相手下さいませ」

 ちょっと待って。

 王女が出てくるとか、聞いてない。

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