第3話 ただし、イケメンに限る。

「ハルくん、七夕のお願い事書けた?」


「うん。」


「わあ!見せてみせて!」


遥と兄弟になって2年が経っていた。七夕の日に短冊や手作りの飾りを笹に飾る。これを、私のおばあちゃんの家でやった。


 遥は、お婆ちゃんにとっては実の孫じゃなかったが、お婆ちゃんは私と同じように、遥をとても可愛がってくれた。


「いいよ!はい!」


遥に短冊を見せてもらうとそこには、


「何これー!」


短冊には『お姉ちゃんは、いい子なので、サンタさんがお姉ちゃんのところにもちゃんと来ますように』と、書かれていた。


「だって、お姉ちゃんが、たぶん自分にはサンタさんが来ないって言ってたから・・・。」


私は12歳で、その時もうサンタクロースが、空想の産物であることを知っていた。


 けれど、遥はまだ、幼いためにその存在を信じ切っていて、「お姉ちゃんはサンタさんに、今年は何をお願いするの?」と聞かれ、まさか、『いない』とは言えなくて、とっさに、自分には来ないと言ってしまったのだ。しかし、その事を、遥はずっと気に病んでいたらしい。


 私は、胸がぎゅううううっと締め付けられる思いがした。・・・相変わらず、何て天使なの!?この子。


「ハル君・・・お姉ちゃんは、大丈夫だから自分の本当のお願い事を書いて?折角年に一度の七夕なんだから・・・。」


そういうと、遥はえーーーっと言いながらも、渋々新しい短冊を書いた。


「また、見せてもらってもいい?」


「うん、いーよ!」


見せてもらうとそこには、「お姉ちゃんと、ずっと一緒にいられますように。」と書かれていた。本人を見ると、遥は恥ずかしそうに、赤くなって、照れている。


 私は思わず次の瞬間、そんな遥をぎゅうっと抱きしめていた。


「お姉ちゃん!!?」


遥は、びっくりしていたが、こんなこと書かれて、じっとしていられるわけがない。ブラコンなめんな!


「・・・ずっと一緒だよ!・・・もちろんずっと一緒!!」


それを聞いて、遥は嬉しそうに、えへへへっと、笑った。






 私はその日、3度つまづき、弁当をひっくり返し、犬に吼えられ、からすに何故か襲われた。




 弱り目に祟り目とは、まさにこの事ではなかろうか??


私は、先日両親の離婚が決定し、かつて、ずっと私と一緒にいたいと言ってらした天使様(義理の弟)に「姉だなんて思ってない。」と言われ、挙句、うるさくて黙らせたかったのか、その弟に口を口で塞がれた。


 神様、もう私のHPは底をついています。私のライフはもうゼロよ。


 お弁当が無いため仕方なく、私は、生協に向かった。学食は混んでて苦手だから、パンでも食べよう・・・。しかし、そこで、私は新たな不幸に気付いた。


「・・・ない、ないない・・・財布が無い!!」


・・・財布を・・・落としてる。


ちーーーーーーん。終わった・・・。


あんまりにも不幸過ぎて、涙が出そう。その時


「電子マネー決済で。」


頭の上から声が振ってきた。


「!!先輩」


声を降らせたのは同じフォトサークルの先輩だった。



「ありがとうございました。・・・すみません、奢っていただいて。」


私は、先程の救世主、玉木先輩に頭を下げた。


「別にいいよ400円程度の奢り、数にも入らん。」


私は、今日のお昼は、サークルの部室で取るつもりでいたのだが、何だか流れで、先輩もそれに付き合ってくれて、部室で一緒にお昼を食べることになった。


「でも、本当、今度良かったら、何かお礼を・・・あ、良かったらお弁当を作ってきてもいいですか?


って、気持ち悪いですよね。さすがにそれは。」


いくら一人暮らしでも、人に作ってもらったものは嫌がる人が多いだろう。しかし、先輩は、


「え!!いいの?めっちゃ嬉しいけど。」


と、素直に喜んだ。


「え、いいんですか?無理しないでください・・・。」


先輩は優しいから、無理をしている可能性が高い。それに、先輩はくしゃりと笑って


「どうして?俺、人の作った飯大好きなんだけど。」


と言った。何だかそのセリフは好感度がすごく高い。・・・流石さすが、イケメンは違うわ。


「・・・でも、いくら地味女でも他の女子にお弁当作ってもらっただなんて、きっと彼女さん気分を害されますよ?」


私は当然、玉木先輩には彼女がいるものと掛かってそう言うと、先輩は何故か色素の薄い目をきょとんとなされた。


「・・・俺、彼女今いないけど?」


そのセリフに、私は心底驚いた。


「え!?週に一度は告白されて、バイト先でしょっちゅうナンパされている先輩が!?」


また、何で!?


「何でと言われても・・・それより、西園寺は自分が地味だと思ってるんだな。確かに洒落っ気は少ないけど。」


そう言って、じっと私の顔を見た。うっ・・・イケメンにこう見られるといたたまれないのですが・・・。


そして、いきなり先輩の手がのび、ひょいっと私の髪が解かれた。


「!!」


上げていた髪のバレッタを取られると、私の伸び切った髪は、はらりと落ち、背中の半分が真っ黒く覆われてしまった。


「ちょっと、先輩!」


私が文句を言うと、先輩はからからと笑い。


「西園寺、可愛いのに確かに洒落っ気無いのはもったいないよな?」


「え、いやいや、何を世迷いごとを先輩ってば・・・。」


イケメンに不意打ちでそんなことを言われたら、どきどきしてしまう。例え本気でなくとも。


「眼鏡も外してみたら?」


「いや、外しませんよ?イケメンだったら何でも言う事聞くと思ったら大間違いです!」


私は、シャーっと威嚇して見せた。それに、先輩はまたからからと笑った。


「でも本当、西園寺のお弁当楽しみだよ。たまに部室で食べてるの見て、いっつも綺麗で美味しそうだったから。」


「そ、そうですか・・・あんなの有り合わせですよ、単なる。」


「そうかな?だって冷食とか入ってなさそうだし。まあ、入ってても別に悪くないけど。」


「家に常備菜があるので、わざわざ冷食は確かに使いませんね、・・・私も冷食を使う事自体を悪い事だとは、思っていませんが。」


「でも、そんなお弁当に400円じゃ割に合わないよな?」


そう言い、先輩は、意味有り気に、さっき買ってもらったメロンパンの封を開ける私をジッと見てきた。


「じゃあ、お礼に今度映画行こうか?」


「え!?それこそ割に合わないでしょう?!それに聞く人が聞いたら、まるでデートのお誘いですよ?もお。」


そう言い、私がメロンパンにかじりつくと


「うん、そう、デートのお誘い。」


そう言い、にっこりと笑った。


「・・・まふぁごほーはんほ(また、ご冗談を)。」


信じられなくて、お行儀悪くもパンにかじりついたまま、私はツッコんでしまった。


「俺、本気だけど・・・だって、正直、西園寺が洒落こんだ姿も見てみたいし。」


私は、パンを噛むのも忘れ、先輩を見つめ返した。それを先輩は更に見つめ返し。


「と言うわけで、今度の日曜日空いてるか西園寺?」


そう言うイケメンの真剣な視線の圧に耐え兼ね、つい、私は頷いてしまったのだった。

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