心拍計

@yokiam

雑記1


私の頭の中で何かぐるぐると渦巻いているようでしたので、観察をしてやろう思いと小さな望遠鏡を手にとり、ジャングルジムのてっぺんに登りました。

ちょこんと腰をかけ懐の時計を見るとそろそろ頃合いだなと分かりましたので、望遠鏡を目に当ててじーと私の頭の中を覗き見ることにしました。


捉え所のない雲のようにふわふわと形を変えていく私の頭の中は、夕焼け小焼けに照らされてオレンジ色に染まっているのでした。

時期は秋の中頃でしょうか。

馴染みのあるメロディが聞こえました。

公園に設置されているチャイムから流れているのは、5時を知らせる童謡でした。


私の頭の中に渦巻くものは郷愁の念だったのかと一人得心し、しばらくの間、私は私の頭の中を観察することに夢中になってしまいました。


はっと気がつくととうに日は暮れており、あたりは真っ暗になっていました。

ジャングルジムのてっぺんからぴょんと飛び降り、さて家に帰ろうかなと思ったものの、私の家は果たしてどちらにあるのでしょう。

来た道を引き返せば分かるだろう歩き出そうとしましたが、私にはどちらから歩いてきたかも分かりかねるのでした。


これは困ったことになったなと独りごちてみたものの、本当は少しも困っていないことに、なんだかおかしくなってしまって私は声を上げて笑ったのです。


先程まで見ていた私の頭の中に触発されたのか、私はやけに冒険をしてみたい心地になっていました。

あたりは真っ暗で進むべき道も分からない、まるで自分が古代の冒険家のような気持ちになり、大変愉快なのでした。


見よ!西方より来たりし獅子の玉歩なりて、黄金の夜明けをもたらすものなり!


私はいつの間にか靴を脱いでいました。

土を踏み締める感覚がやけに懐かしい、私は首をくるくると回して、辺りに人がいないことを確認すると、地に手をつけ四つ足になって思うがままに駆け出したのです。

力一杯に地面を蹴りつけ時にはおーんと雄叫びをあげました。


遠くに見える山の縁がうっすらと白くなる頃には、私はちっとも愉快ではなくなっていました。

けれども不愉快でもなく、さっぱりとした気持ちで柔らかな草の上に伏していました。


ゆっくりと昇る太陽に目を細めていると、朝露に濡れる一輪の白い百合を見つけました。


なんだ、こんなところにあったのか。

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