11話 第3回 Teens Music Survival
「さあ始まりました、『第3回
十月三十日(土)・午後十六時。『第3回
審査員の倉霧は、まだ誰も立っていないステージに目を配り、
(トリの【ストロベリー・シロップ】が最有力だろう。技術面は高校生離れしている。東京のオールスターバンドという評価は決して過大ではない)
その【ストロベリー・シロップ】に唯一対抗できそうなのは、西の【ドラマティックピエロ】くらいと聞く。余程のことがない限り【ストロベリー・シロップ】優勢という話が審査員の間でもあった。無論、全バンドの演奏を聴いたうえで公正に審査するつもりだ。
しかし、倉霧にはこんな考えもあった。
(確かに演奏力は申し分ない。現段階でもプロとして十分通用する。が、売れるものだろうか? 『高校生離れした演奏力』という謳い文句で注目は集められそうだが、……曲が弱い印象がどうしても拭えない)
ロック要素を押した、演奏を際立たせることを前提にした曲。その曲のおかげで演奏が映えている点は評価できるが、一般受けする曲ではない。審査員の間で曲に触れる者はいなかったが、倉霧はその点がどうしても気がかりだった。
「厳正なる審査をしていただくのはこの五名です!」
審査員の紹介が済んだあと、過去の大会の模様をVTRで振り返り、ルール説明が司会の園村からされ、さっそく一組目のバンドが登場する。
一組目はプラスワン枠を勝ち取ったバンド。今年から採用されたルールで、動画共有サイトに全国のバンドを掲載することで大会を盛り上げる意図もあるが、
(二次選考を通過した一組目が不利にならないように、前座としての意図もある。グランプリを競うのは、あくまで本選を勝ち抜いた五バンドだ)
ちなみに倉霧はどのバンドが勝ち抜いたのかを知らない。本選に出場するバンドの詳細は、初見でのインパクトが薄れるため極力調べなかった。
「トップバッターの登場です! トップバッターはこの二人組!」
司会がそう告げると、モニターにVTRが流れる。二次選考で敗退したバンドの様子やプラスワン枠に賭ける想い、総再生数が百万を突破した情報など。そして勝ち上がったバンドのメンバーが最後に映る。その名は――【
(聞いたことがない。……二人?)
ステージにライトが当たり、ボーカルのショートヘアの女と、ギターのロングヘアの女という二人組が照らされる。倉霧は手元の資料と、ステージに立つ二人を見て最初に思ったことは、
(見かけのレベルは二人ともかなり高い。格好や雰囲気は様になっている)
資料にはメンバーの情報。曲の詞とメロディ譜。
ボーカルのリカはアイドルグループ【まどもあぜるⅡ世】のセンターとして名高い新橋怜那の姉。一方でギターのなこは、かつて【パラレルタイム】というバンドのギター&ボーカルで、高い人気にもかかわらずバンドを解散した経緯があるそうだ。バンド結成三ヶ月での本選出場は、昨年出場した【
(外見と妹や本人の知名度で勝ち上がったのか? 動画の再生数での評価となると、どうしてもそうなりがちなのは否めないが。音楽面が無視されていたとしたら、来年はルール変更を検討する必要がありそうだ)
ため息をつく倉霧。
しかし演奏が始まると、倉霧は思わず息を呑んだ。
「この曲は……!」
作詞者・作曲者を確認すると、作詞はギターのなこが、作曲はボーカルのリカが担当している。綺麗なメロディラインで、ポップ寄りなアレンジは万人受けする、近年のアニメ映画にも流れていそうな曲という印象を受けた。コード進行も定番のカノン進行を使用した耳に残るメロディだ。作曲の基礎ができており、何よりもジャンルを問わない曲に触れてきた過去を感じ取れた。
(【ストロベリー・シロップ】が演奏を押し出すための曲とすると、このリズは演奏を重視せずに曲そのものを押し出している。詞の世界観も……面白い)
離ればなれになった友に逢いたい少女の物語。宇宙や惑星を背景に、切なく仕立て上げた世界観は他バンドにはない特色だろう。恋愛要素を排除してこれだけの詞が書ける能力は、審査員席に座る作詞家のオノダショウイチの胸にも刺さっているに違いない。
(バンド構成をギターとボーカルに留めて、他を打ち込みでカバーするのは思い切ったな。売れるバンドに演奏は重視されない、というわけか)
倉霧は軽く笑った。
(決して歌唱力も、ギターの演奏力も優れてはいない。ボーカルについては高校生のカラオケがうまい程度。テクニック面を見れば二次選考で落とされたのも納得だ。だが、この本選の場にいるのも納得できる)
一度は敗北したというのに、彼女たちの堂々たる立ち振る舞いは、そして彼女たちが奏でる“音楽”は、
「このうえない魅力だ」
もっと、見たい。
もっと、聴きたい。
◇◇◇
ステージの上で懸命に歌う中で、リカは思う。
(私、全国の前で歌ってる。私たちで作った歌を――歌ってるんだ)
四分十五秒で紡ぐ一つの
イコール、二人がステージの上で立つことを許される時間。
たったそれだけの瞬間を噛み締めながら、彼女たちは歌を届ける。
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