9話 2次選考 結果
全組演奏終了後、参加した十七バンドの前で通過バンドが発表される。選ばれたのは【ストロベリー・シロップ】、【なつみかん】、【ドリーマーズトレイン】の三組。リズの名は呼ばれなかった。
「始めて二ヶ月ちょっと……、無理だったかな」
「ちょ、リカちゃん……!?」
目を狭めたリカは、ショートの髪を振りまくように会場を出て行った。
「レベルが違いすぎる……。あれが優勝候補の演奏……」
外の階段の端に座って、膝を抱えてうずくまるリカ。横を通る者たちの数は次第に減っていく。すべて敗退バンドだ。勝ち残った三組は本選の説明を受けている最中だろう。
「うまくいったと舞い上がってた私が……バカみたい」
リカが弱々しく呟くと、
「落ち込んじゃってる? こんな所でうずくまってさ」
なこの声。落ち込んでいる音色ではない。
「あの演奏を間近で聴けばこんな気持ちになるのも当然でしょ」
顔を上げたリカは、ギターケースを背負って真正面で立つ相方にそっけなく言った。
「そっか」
返答は、怒っている口調ではなかった。
「そういえばリカちゃんには【パラレルタイム】を解散した理由を話してなかったよね」
「……? 今、話すの?」
なこは黙ってうなずいた。
「二年前に友達に誘われてバンドを組んで、順調だったんだ。ファンも増えたし、バンドも知られるようにもなって。けど、あたしだけが注目されるようになったのも事実、かな」
ふいに、【ストロベリー・シロップ】の瑚南の言葉を思い出したリカ。
「“なこバンド”だとか、“なこのワンマン”とも言われるようになったなあ。メンバーは気にしないって言ってたけど、つらそうな顔してたのは……気づいてた」
「解散はなこから切り出したの?」
「うん。メンバーのあんな顔を見てたら、ね。一緒にやり続けられる雰囲気でもなかったし。解散を提案したらあっさり受け入れてくれたよ」
「そうなんだ……」
「その時にこう言われたんだ。『なこなら一人でもやってける』って。でも、そうは思わなかった。“何か”が物足りないとは思って。その“何か”はしばらくわからなかったけど、リカちゃんと出会って気づいたんだよ」
「私と?」
「うん、リカちゃんの作った曲を聴いた時。あたしにないものを持ってるって」
そうしてなこは、愛嬌のあるくりっとした瞳に力を込めて、
「あたしだってリカちゃんに負けないくらい音楽が好きだから、音楽を職業にしたい。でも、一人じゃ足りない。だから……リカちゃんが隣にいてほしい」
「なこ……」
「リカちゃんが隣で歌ってくれて、いい曲を二人で作れて、思ったんだ。リカちゃんと組んで本当によかったって。音楽の神様がリカちゃんと出会わせてくれたんだって」
恥ずかしくなるほどの真っ直ぐな想いに、リカは目頭が熱くなる。ぐっと涙を堪えて、なこの顔を改めて見たら、
「あのさ、売れるバンドに必要なのは演奏力だっけ? いや、違うでしょ」
「うん」
「“演奏”で世界を変えるんじゃない。“音楽”で世界を変える、でしょ?」
「うん」
「リズの曲は何度でも聴きたくなる曲。だからリズは何度でも聴いてもらえる、そんなバンドだって証明しようよ」
「うん!」
リカが失った自信は、まだ完全には取り戻せていない。けれどハートに熱が入る。
「まだ選考は終わってないよ。やれることがあるよね」
二次選考は敗退した。しかし本選に選ばれるのは二次選考を突破した五組のほか、一組がプラスワン枠で返り咲ける。二次選考での演奏が動画共有サイトに投稿され、最も再生されたバンドが勝ち上がるルール。二十五組のうち、たった一組の狭き門。
「そうだね、リズをもっと知ってもらわないと。ストリートでも高校でも、どこだっていい。私たちの曲を聴いてもらおう」
リカは立ち上がった。冴え冴えしたツリ目がキラリと反射する。
そんなリカの手を取ったなこは笑顔で、
「うん! やってやるぞ!」
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