第3話 イニシエーション終了の祝いおよび送別会

「ソーセージっていうのはさ」

「腸に刻んだ肉や香草を詰めて湯がくんだ。残酷だと思うか?」

「いいや」

料理についての話は何度も聞かされている。人が手間をかけて料理をするには理由がある。保存が効くだとか、儀式のためとか、おいしいとか。「ぼくにはおいしいという感覚はわからないけど」

「地上に行けばわかるぜ」

「そうさ。料理ってのはつまりそれが目的なんだ」

「当然保存の工夫もあるけどな。なんせ都市には腐るほど食い物があるんだから、味がもっとも大事だ」

「豆だけ食って満足する、とはいかねえんだな。人間ってやつは」

「おまえも死ぬまでにうまいものをいっぱい食っておけよ」

「死んでからしばらくたって、生きている間の俺はなんて馬鹿だったのかと思った。星の巡りあわせで人を殺すような悪党だったんだ、俺は。それからもっと経ってみると、死んでからの俺も大して変わりがないことに気が付いた」

「愚かさの根っこは、肉体からくる感情とか欲とかじゃない。偶然に支配されていることだ。コイン投げの結果で行いが決まるようなもんさ。だから安い方へ流される」

「そうさ。確かなものを持たなきゃならんよな」

「地上の音楽を教えてくれよ。今の流行りってどんなだろうな」

「あんたの時代はどうなの?」

「子供をつくってこいよ」

「俺はあの晩、本当に自殺したのかどうか覚えていないんだ」

「もう絶対にあんな無茶はしないでね。シェルウ」

「地上には病気があります。老いも痛みも。風邪を引かないように」

「飲み水に気をつけて」

「苦しみに打ちひしがれても、すぐに主を頼ってはいけません。まずは隣人と分かち合ってください。おじいちゃんになるまで帰ってきちゃ駄目ですよ」

「そうさ、たっぷり楽しんでこい」


 シェルウが守り人たちと共にある眠りから覚めると、リエムメネムの聖域は静まり返っていた。忘却の神殿は朽ち果て、宿舎も、図書館も、工房も焼き窯も消え去り、バーディーナムの花畑が広がっていた。守り人たちもどこにもいなかった。夢とともにかき消えたのだ。

 全てはリエムメネムが預かった記憶の中から、シェルウのために見せていた、遠い昔に過ぎ去ったものだ。そしてそこは、地上で生きる者の場所ではないことを、旅立つシェルウに教えたのだ。

 あらかじめ用意していた背嚢は、忘却の彼方から持ち出しを許された品物だ。杖、守り人のランタン、短刀、外套、アムリタを入れた水筒、少しの金貨、遺灰が入った白磁の壺。香木。旅人の荷物としては明らかに不足だろう。しかし冥府から持ち出すものとしては多すぎる。

 冥府の出口へ向かう道すがら、シェルウは滅多にない雨に足止めを受けた。遠くにかすんでルビーアイの巨人たちの行進が見える。

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