白灰のペルリナージュ

呑川つつじ

第1話 モータル・マジック・エクスプローラー

 八度目の遠征時、少年のシェルウは冥府の荒野にてひとりの幽霊に出会った。

 幽霊はシェルウがリエムメネムの神殿から来たこと、シェルウの白髪が元は黒かったこと、ただれた皮膚が生まれるより前に焼かれた痕であることを言い当てた。それだけではなく、幽霊は冥府の隅々まで知っていた。白亜の荒野にかつてあった聖域、朽ちた建造物、そこで働く代々の守り人たち、彼らの生前の趣味にいたるまで。

 冥府の幽霊のほとんどは現れては消える過去の”こだま”である。その幽霊ははっきりと、しかし瓶に詰めた砂のようにくぐもった声で、自身を未来の幽霊だと語った。「いずれ人々はこのように知ることができるでしょう。”かたち”や”時間”といったことばが、”前歯”や”セメントの壺”といった物質と完全に合致し、ひとつになって河のように流れるのです」

「あなたはいったいどこへ行かれるのですか」シェルウは予言者の幽霊に尋ねた。シェルウが死ぬとき、彼は彼自身が仕える忘却の神の御許へ帰る。その後に守り人として再び肉体を与えられるか、祝福を受けて塵となるかは御心次第だ。

「今この時が結末であり、どこへも行くことがありません。わたしたちは神を持ちません。神の霊性も神秘も、ことばによって記述し尽くしてしまったからです。死も同じです。冥府にありながら、その主のもとへ行く必要もない」

 シェルウは訝しんだ。神が明らかになることで、その神性は減じるだろうか?シェルウにとって、忘却の神の慈しみの深さを知れば知るほど、崇敬の念は増していくものだった。

「決して現在の神々を軽んじているわけではありません。未来においては、それらはことばに包有されるものなのです。もちろんわたしとあなたをも含めて」

”おまえも冥府の風に渇け”という遠い未来のことばが、今現在この場、幽霊とタスとの出会いを象るのだという。”ナイフ”ということばが闘争と悲劇を、血糊を拭きとるためのウェス、やがて復讐に打たれる運命を象る。

「証拠というわけではありませんが、これを差し上げます。バーディナムという名前の、地上の花です」

 冥府において神のゆるしがない物質はたちまち腐り落ちてしまう。シェルウの両手に渡された青い花は、いずれの神のゆるしもなく、朽ちることなく咲き誇っていた。

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