第3話
◇◇
小部屋を出てモエッチと別れた私は、校庭の脇にあるベンチに座り、ボケっとサッカー部の練習を見つめていた。
オレンジ色に染まった校庭に、部員たちの影が右へ左へせわしなく動いている。
止まってしまった私の心とは正反対だ。
「はぁ……」
大きなため息とともに、自然と視線が落ちていく。
……と、その時。
「おい、琴音ってば」
前方から私の名を呼ぶ声がしてきた。
はっとなって顔を上げると、
サッカー部のエースにして、新しい生徒会長、さらにテストでは常に学年一位。
あの神楽坂さんですら「デートできるなら、なんでもする」と公言している、学校一のイケメン、
でも生まれた時からお
「ああ、なんだカズくんか」
「なんだ、って言い方はないだろ? せっかく心配して声かけてやったのに」
「別に。なんでもないから」
ふいっと顔をそむけた私に対し、カズくんはグイッと顔を近づけてきた。
「琴音はいつまでたっても変わらないな」
「なによ? それ」
「ウソつく時に鼻の穴が広がるクセ」
「んなっ!」
慌てて鼻を両手で
「ここにいたってことは、俺に何か話したいことがあるんだろ」
「別にそんなんじゃ……」
「ちょっと待ってて。すぐに着替えてくるから」
「ちょっと! だから違うって!」
私の制止など無視して、更衣室の方へ駆けていくカズくんの背中を見ているうちに、こわばっていた肩の力が抜けていくのが分かった。
きっと無意識のうちに、彼に話を聞いてもらうことを期待していたのかもしれない。
「お待たせ。じゃあ、帰ろっか」
学校から家までは歩いて10分。
その間に私はこれまでのことを包み隠さずカズくんへ打ち明けた。
「なるほどね。琴音は神楽坂さんに追い込まれちゃったわけだ」
「そうなの……」
家の近くの公園で、ブランコに並んで座る。
うつむいた私をじっと見つめていたカズくんは、しばらくしてからニコリと微笑んだ。
「一つ聞きたいんだけどさ。琴音はどうして、塩屋さんのために頑張るんだ? そんなに仲良くないんだろ」
ズンと胸を強く打つ問いだ。
ほんのちょっとだけ、どう答えようか迷ったけど、どんなに言葉を飾ってもカズくんには通じない。だから素直に答えた。
「認めてほしいから」
「誰に、何を?」
「みんなに……。私は名探偵の名を継ぐのにふさわしい人だって。それに困ってる人をそのままにするのは嫌だし……」
「そっか。琴音らしいな」
ますます口角を上げたカズくんが私に手を差し伸べる。
「協力するよ。俺も琴音が名探偵になるのを助けたいから」
ドキンと胸が高鳴り、とっさに動けなくなってしまった私の右手を、カズくんはぎゅっと掴んで、私を立たせた。
彼の大きな瞳を見つめるうちに、腹の底から消えかけた火が再び燃え上がってくる。同時に一つの『賭け』が、ふわっと脳裏に浮かんできた。
私は彼に向かってぺこりと頭を下げた。
「お願い! 明日の昼休みに、神楽坂さんを呼び出して!」
「どういうことだ?」
この賭けしか、手立ては残っていない。
私は空に輝く一番星に祈りを捧げた後、カズくんに作戦を告げたのだった――。
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