第7話 変化の自覚
そのあと数日、星はあの場所に現れなかった。
いつものポイントにビークルを停めて、いつものとおりオレンジから藍色にグラデーションを描く空を眺める。これまではそれだけで満足だった。空が移り変わっていく様子をただ見ているだけで。しかし、今となってはそれで満足することはできなくなっていた。私は変わってしまった。
太陽が沈み、空の色が変わりきってしまうと興味を失って引き上げていたのが、最近はそのまま星が輝き始めるのを眺めていた。
星が教えてくれたシリウスは、自力では見つけることができなかった。ずっと探している。もう一度教えてほしい。
このまま二度と会えなかったら、どうすればいいのだろう。放棄された砂漠とは言え、ここは戦場だ。どんなことでも起こりうる。もしかして星は…。いや、ここ数日の気象データ、地表データ等、基地で収集できるあらゆるデータは調べ尽くした。戦闘が行われたような形跡はなかった。何度も確認した。
私の毎日は不可逆的に変化してしまった。
私は首を振って、ビークルに乗りこんだ。発進させる。昇り始めた月の光に照らされた砂の波の上を走ると、見たことがないはずの海のことを思う。もちろん、海も戦場だった。この星で戦場でない場所などない。
ふと自身のビークルとは異なるモーター音を感じた。4時の方向から接近してくる車両がある。月が昇り始めたので、ヘッドライトなど点けなくてもお互いを視認することができる。車両はベテルギウスのものだ。期待に胸が躍る。しかし運転しているのは? 片手でステアリングを操作しながら、もう片方の手でコンソールを操作する。後方のカメラを作動させる。僅かな明かりでも対象を鮮明に映し出すことのできるカメラは、ビークルの運転手の姿を捉える。星。見られていることがわかったのか、彼女が手を振るのが映った。ビークルを停止させる。星も速度を落としてビークルを寄せて停めた。
「やあ、久しぶり。何も言わずにしばらく来なくて、済まなかった」
笑っている。良かった。この不可逆に変化してしまった日常に、取り残されてしまったのかと。
もどかしいような気持ちでビークルから飛び降り、駆け寄る。
「わ、えっ!? ちょ…っ」
星が戸惑いの声をあげて、我にかえる。気がつくと、腕の中に彼女を閉じこめていた。
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