オタクコンテンツ未経験者の俺、異世界転生するもテンプレが分からず槍スキルに全振りする

氷堂

序章 転生

未開の地

 「これ終わったかも」


 喧騒けんそうな都会の中心で一人のえない男が呟いた。


 苦笑いを浮かべる彼の突き出した腕の先には一人の女性の背中。

 そして頭上には巨大な鉄骨が迫る。


 らしくないことなどするものではなかったと、今更ながら後悔していた。


 人助けなんてものは正義感溢れる晴れたイケメンや実直な警官にでも任せておけば良かったのだ。

 高校生、ましてや何事に対しても意欲も興味もない、ただただだらしなく日々を生きているだけのダメ学生が出しゃばるべきではなかったのだ、と。


 いよいよ頭上から影が迫る。


 突き飛ばしたビジネススーツの女性がこちらを振り返った。

 どうやら自分は超絶美女を助けることができたようだ。


 不幸中の幸い――という言葉が合っているのかどうかは分からないが、とにかくそこら辺のおっさんを助けて死ぬよりは幾分いくぶんマシなような気がした。


 これでもう悔いは――いや、めっちゃあった。


 十七年間生きてきたのに結局好きなことを一つも見つけられなかった。

趣味もない、彼女もいない、友人もそう多くない。

 夢も輝かしい未来も何もない。

 青春など謳歌おうかした記憶は片鱗も見当たらない。


 てか普通に童貞だ。


 こんなことなら百八十センチの身長と多少大人びた顔面を利用して年齢を偽り、ピンクなお店で卒業式を上げればよかったのだ。


 周りで流行っていたゲームや漫画、アニメも結局手を付けなかった。


 あれ、でもこんなダメ人間の命で美女を救えたなら万々歳なんじゃ?


 世の中の為になったんじゃ?


 え、でも俺死ぬけど、それはいいのか?


 美女の為に俺ここで終わるけどいいの?


 世界が微笑むの?


 いやいやいやいや。


 「さすがに良くはな――」


 そこまで言うと、とんでもない衝撃と共に彼の視界は黒く染まった。


 そして、ほんの゙一瞬゙だった。


 瞬きのように眼を開けると、そこには青い草が映っていた。

 顔面の半分を芝生に埋めた彼は、何が何だか分からない様子で目をバチバチとさせる。


 「あれ……俺、どうなったんだ……?」


 手を付いて身体を起こす。

 そして眼の前の光景に眼を見開いた。


 どこまでも続く草原。

 くねくねとうねった見たことも無い木々に、崩れかけた石の建物。

 透き通るほど綺麗な水が川を流れ落ち、日差しを受けた滝がキラキラと輝いている。


 都会とはまるで違うクリアな匂いの風が全身を撫で、早く起き上がれとうながすように包み込む。

 今までに見たこともない雄大な光景がどこまでも広がっていた。


 眼を見開いた彼は、半開きの口を震わせ、ゆっくりと呟いた。


 「ここは、まさか――――」


 ごくりと唾を呑み込み。


 「――――群馬県か?」


 こうして彼、仰木大和おうぎやまとは異世界転生を果たした。


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