殺人演技
ミナワライ
第1話人物紹介・待ち合わせ(1)*改訂前版
胸が高鳴る。待ち望んでいた。遂にここに来たんだ。ドアをノックし、返答など待たずに部屋に入る。
「失礼します、今日付けで捜査本部に配属されました立原警察署刑事課の沢田力巡査です。」
「よろしくお願いします。」
頭を上げると何人もの刑事達がこちらを凝視している。だがその視線もすぐに自分のデスクへと移していった。
「沢田君だっけ、人事については後で説明するから、その時に自己紹介するから、今はいいよ。」
髪が腰まで着くぐらい長い女性、落ち着いてお姉さんって感じの女性だ。
「君、捜査本部に配属されるのは初めて?」
「はい、初めてです!」
「そっかぁ、じゃあ大変だよぉ。」
「頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
いたずらっぽく笑って女性は出ていった。僕はそれを見送ってお辞儀をした。出鼻を挫かれた、というより勝手に躓いて挫いた感じだったのにフォローして励ましてくれる。これが大人の余裕か。
初対面の人にこんなことどうかと思うが、タイプだ。年下より年上の方が好きだし、優しいし、美人だし、なんか良い匂いしたし。大変だって言ってたけど、あんな人と一緒の職場ならぜんぜんオッケーだ。
あぁ名前聞いときゃよかった。まあでも憧れの職場で素敵な上司と仕事ができる。そう思って僕は浮かれてしまっていた。
女性が部屋から出て20分ぐらい経つと、厳ついスーツを着た集団がぞろぞろと捜査本部の中に入ってきた。
「来たぞ。」
先輩の立川巡査の声は震えていた。しかしどちらかと言うと武者振るいの方が近いだろう。
集団の先頭に立つアラフィフ(多分)の男が一歩前に出て話し始めた。
「本日付けで胸部穴あき連続殺人事件捜査本部部長を務めさせていただきます、県警本部刑事部長の、
「一刻も早く、この町にもとの平和な日常を取り戻すため、全身全霊を捧げて、事件解決に挑みます。」
「よろしくお願いします。」
この人、スゴい。言葉の一つ一つにとてつもない威力がある。まるでこれから起こる全てのことを知っていて、全部その通りにやれば上手くいく。だから何も心配することなんて無い、みたいな無限の湧水量を誇る井戸のような自信だ。この声量に立ち姿まったくもって年相応ではない。度肝をぬかれた。
周りも僕と同じ印象を持ったようで呆然としていた。
「あー、橋舘署署長の千田と申します。副本部長を務めさせていただきます。」
「今回、松中刑事部長に来てもらったこと、大変心強く思っております。よろしくお願いします。」
硬直していた僕達を意識しながら署長も挨拶をした。その後は人事について色々話しをされた。
捜査は県警本部の刑事と所轄の刑事がバディを組んで行う。僕は幸崎くじら警部補という男性の刑事とバディになった。
「幸崎くじらだ、よろしく。」
「沢田力です。よろしくお願いします。」
「刑事になって何年目だ。」
「2年目ですけど?」
「じゃあ捜査本部での捜査は?」
「初めてです。」
あっちから聞いといて幸崎さんにはリアクションが無い。いやあるにはあった。小さな溜息一つだ。
無表情だし、全然可愛い名前とは似ても似つかない男だ。
そういえばさっき話し掛けてくれた女性はどこにいるんだろう。橋舘署の人ではないから県警の人じゃないのか。さっきの人事紹介の時も見かけなかったし、どこに行ったんだろう。
「行くぞ。」
考えていると、幸崎さんへの反応が遅れてしまった。
「おい、何ボーっとしてんだ。行くぞ。」
「行くってどこですか?」
「何処って、」
呆れられている。見下している目だ。もうそういう奴と位置づけされてしまっていらのだろう。
「捜査に決まってるだろ。」
言い終わるとすたすたと歩いて行った。幸崎さんは歩くのが速くて付いて行くだけでも結構大変だ。
「うわっ!」
幸崎さんが急に止まったせいで背中に激突しまった。
「あ、すまん。」
そう言いながらポケットからスマホを取り出し、電話をかけだした
「プルルルルルっプルルルルルッ」
30秒ほど待っても相手は出ない。
「先に車乗ってろ、青いのだ。」
車に乗って2、3分でくじらさんは来た。
誰に電話したのか聞きたかったけど、多分、答えてくれない。そのぐらいの性格はこの短時間でも分かった。
無言のまま車は動き始めた。
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