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いろはよりも数秒さきに襷を受けると、華はいきなり4人の集団の先頭にたった。風避けに使われてしまうので、先頭は不利であったが、とにかく序盤からある程度スピードにのっていなくては、いろはとは競えない。

まわりも所詮みんな同じ高校生。負ける気もしなかった。


するとしばらくして、案の定いろはは追い付き、華と並走を始めた。後ろにつけば風よけができるのに、わざわざ並ぶいろはに対して、三年生の意地だとか言う解説者もいたが、そうではなかった。レースはまだ二回目だが、これまでに何度か一緒に走り、ともに意識しあっていた二人である。お互いの様子を一番近くで探るための位置取りだった。


コースは4キロ。中盤は無理しないスピードだったが、全国レベルである。2人が落ちていき3キロちてんでは3人になっていた。

そろそろ、である。

ここまでくると、最後の曲がり角が勝負どころかのように見えたが、2人にとっては違った。お互いのリズム、自分の感覚、レースの雰囲気、それらを冷静に感じとる。

そして、そのときがきた。

一見なにもないコースだったが、小さい上りを感じた。一瞬いろはの息が静かになる。ここだ、と華は感じたが、一瞬加速がいろはの方が速かった。華もいろはの後ろに続くようにして加速する。

冷たい風が頬を叩くようだ。それでも気持ちがいい。このままどこまでも走っていきたい。

加速を落とすことなく、最後の角を曲がる。次の走者が見える。

全力で駆ける。

それでも、いろはの背中は掴めなかった。

その差は数メートルだった。


レースを終えて、いろはと華はお互いに握手で称えあった。

この先一年間は、高校生と大学生、競うことはない。寂しさもあった。そんな華に対していろはは言った。

「華のお陰で、最高に楽しい一年だったよ。」

早田先輩にも燈真先輩にも同じようなことを言われたが、それよりも、華の心にずしりと重みをもって響いた。

「先輩の記録、全部塗り替えて行くんで、まっててください!」

かつて、斎藤がインターハイ後に燈真先輩に言ったような言葉だった。絶対に言えない、とあのときは思った言葉だった。

「うん、待ってる」

いろははそう言って笑った。




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