② ナンバーワンがご案内

 というわけで話は冒頭に戻り、たった今、わたしたちはホストクラブのエントランスをくぐったっていうわけなんだ。

 黒を基調とした空間に、カウンター。

 エントランスの柱には、大きな写真があって、そこに男の人の写真が大きく飾られてる。

 肩までの髪を巻き毛にして、胸元の大きく空いたダークレッドのスーツ。華やかな感じの外国の男の人だ。

 ナンバーワンって書いてある。

 あっけにとられていると、奥からスーツを着崩した人が現れた。

「こんにちは~っ!」

 元気のいい挨拶。

 首には何重にもつらなったネックレス。

 黒いスーツの中にのぞく、赤いシャツ。

 そして、肩にかかるきれいな巻き毛。

「あれーっ? ずいぶん小さいお客さんだなぁ」

 彼は片手でおでこのあたりにひさしをつくると、大げさにわたしたちを見下ろした。

「きみたち、すっごくキュートだねーっ」

「うわ、なんかさっそく、いかにもな人でてきた!」

「ももぽん、声が大きいわよ」

「この人、柱の写真の人と一緒だよね」

 わたしの声が聴こえたらしく、彼は手をくるり回して一礼した。

「おおっ、気づいちゃったかー☆ 僕こそが、当店のナンバーワンホスト、パーシーでーす、いえーい」

 ええ、これは、なんて答えたらいいの?

 夢未ですいえーいちぇけら、とか、返すべきかな?

 横をさぐると、ももちゃんはきゃっきゃとうけていて、せいらちゃんはついていけないといわんばかりに頭をかかえている。

「ところでスモールプリンセスたち、ご指名はあるのかな?」

「はじめてなんです」

 ももちゃんが言うと、

「おっ、じゃあ運命の出会いのルーレット、回しちゃう? フーッ」

 ももちゃんはおかしそうに笑ってるけど、わたしには彼が最後なんで叫んだのか、よくわからない。せいらちゃんにいたっては頭痛がするようにこめかみをおさえている。

「まぁ、ルーレットっていっても、僕が運命の神となって、お相手を決めてあげるって意味なんだけどさっ」

 パーシーさんは、胸元から小さなベルを取り出すと、チリンチリンと鳴らした。

 二人のお兄さんが新たに奥からやってくる。

「エドはポニーテールのチアフルな彼女を。シドニーは、サイドの編み込みがキュートなお嬢さんのお相手をしてあげて」

 エドと呼ばれたグレイのスーツに輝く金髪のお兄さんはももちゃんの手を取った。

 失礼します、そう言って、シドニーと呼ばれた茶色の髪のお兄さんが、わたしの腕をとる。

 そして、残ったのは――。

 にっこりと、パーシーさんは笑った。

「ストレートロングヘアの大和なでしこさん。きみのお相手は僕。ヨロシクね」

「げっ」

 せいらちゃん、声に出してるってば!

「いいでしょ? 僕と話してくれるよね」

 せいらちゃんが黙っていると、パーシーさんはぐっと顔を近づけて、甲高い声で、

「『ええ、喜んで』。ほんと? 嬉しいな。ハイ決まり。じゃ、みんなで楽しい夜を過ごしましょ~。三名様ご来店で~す」

 わたしたちはソファーが並んだ席へ歩いていく。

 これからそれぞれ相手のお兄さんたちと話すみたいだ。

 だいじょうぶかな。

 とくにせいらちゃん。

 パーシーさんて、あきらかにせいらちゃんの好みじゃない……というか、苦手なタイプだよね。

 ひしひしと不安を感じながら、わたしたちは、丸くなっているソファ席にみんなで向かった。

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