⑥ もも叶とせいらの敵地潜入会議 ~もも叶の語り~
本言葉祭りで、ブラックブックスのボス、ルーシュンを見つけて夢がかけ去って行ったあと。
みんなで探しまわって、木陰の下で眠ってたところを発見して連れ帰ってこれたのはいいけど。
夢はあれからなにがあったのか、一言もいわない。
一人にしてほしい。
そう言って部屋にこもりっきりだ。
要するに行き詰まり。
しびれをきらしたあたしは、せいらをそそのかして立ち上がった。
ここは夢のマンションのリビング。
インターホンを押したら夢はなかに入れてくれたけど、それっきり大好きだった彼の部屋に閉じこもってしまった。
夢を救うべく、あたしはせいらにある提案をするつもりだ。
ブラックブックスのもとへ行った星崎王子にはきっとわけがあるんだ。
こうなったら、まずあたしたちがそれをつきとめてやる。
そうすれば。
もし万が一そうじゃなかったとしても、夢を傷つけずに済む。
――とはいうものの。
「ねぇせいら、だいじょうぶ?」
ソファでとなりに腰かけるこの子のこともけっこう問題だ。
いつも涼やか小公女子の瞳の下にはクマ。
自慢のストレートヘアにはいつものつやがない。
となりでぐったりしていたせいらがぴんと跳ね起きる。
「だい、じょうぶよ。ももぽんが思いついたことって?」
せいらのだいじょうぶを多分に疑いつつ、あたしは切り出した。
「『秘密の花園』でモンゴメリさんからディナーベルを貸してもらったらどうかと思うんだ」
ディナーベルは、本の中の登場人物を呼び出せる便利グッズだ。
あたしたちのあいだではおもに、『クリスマスキャロル』にでてくる過去の幽霊を呼び出すのがお決まりになっている。
うやむやになってしまった過去を知りたいとき、彼に過去の世界を見せてもらうんだ。
わけあって、星崎王子がブラックブックスに入ったのなら、ボスのルーシュンと、過去になんらかのコンタクトをとったはず。
そう。あたしの狙いはつまり――。
「さぐるようでちょっと気は引けるんだけど」
おそるおそる見ると、せいらはじっと目を閉じて考え込んでいた。
だけど、静かに目を開いた表情は、決然としていた。
「いいえ、ももぽん。素晴らしい計画だわ」
「そ、そうかな?」
そう言われると照れる。
「つまり、ディナーベルを使って、星崎さんが、どうしてブラックブックスの一味になったのかさぐるってことね」
「ぴんぽん」
本調子じゃないとはいえ、さすがさえてる我がチームのブレインは、あごに折り曲げた人差し指をあてて、考え込んだ。
「……ただ問題は、今、本の中との連絡手段が、かんぜんにとだえているということね」
「あっ……」
そうだった……!
星降る書店の入っているブックマークタワーが、ブラックブックスに占領されてからというもの、とうぜん本の中の世界への入り口は使えず、あたしたちをサポートしてくれてるケストナーおじさんたちとの連絡もとだえていた。
本の中ワールドに行けないんじゃ、秘密の花園に行けない。モンゴメリさんとも会えない。
「だめかぁ~。くっそ、頭ひねって考えたのに」
「いいえ」
目の前のガラステーブルを見つめたまま、せいらは断言する。
「本の中への道が、敵のガードの奥にあるなら、突破するまで」
せいらのひらめきとやる気のメーターが、目に見えて上がっていく。
「ももぽん」
猪突猛進な我らがブレインは、ついに立ち上がった。
「さっそく乗り込みましょう。ブラックブックタワーへ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます