シーズンⅡ 第3話 わたしはジュリエット? 海岸でロマンス対決

① 付箋コメントは”大好き”

 少しだけ開けた窓から、涼しい風が舞い込んでくる。

 三日月と金星がデートしてるみたいに仲良く並ぶ、夏の夜。

 みなさん、こんばんは。

 露木せいらと申します。

 年齢:十三歳。栞町中学一年生。

 趣味:アニメと漫画。一人旅。

 特技:勉強全般。特に社会。

 親友:夢っちとももぽん。三人で恋とすてきな本を守る“チーム文学乙女”を組んで、日々活動中。


 という、ごくフツーのあたしだけど(え? フツーじゃない? 自覚はないけど、そうかしら??)唯一、ほかの子にはあんまりないかなっていう、最大の特徴と言えば――。

 そこででてくるのは、あたしたちの担任兼社会科の神谷先生。さらさらの黒髪に、いつもびしっとスーツできめている。かっこいい先生なの~。

 小学生のときから、ずっとカレに片想いしてきたあたしは今、念願かなってカレと――恋愛中だったりするの。きゃーっ! バタバタっ(暴れる音)。

 でもこれはあくまでひみつ。親友の夢っちとももぽんのほかは、学校で知ってる人は誰もいない。

 あたしは社会の宿題の授業ノートを整理する手をとめた。

 鉛筆のさきであごをつつきながら、社会の教科委員の御用聞きで授業終わりカレのところへ行ったときのことを思い出す。

『次回の授業に向けて、クラスに伝言はありますか、神谷先生?』

 わざとすまして聴くあたしに、カレは答える。

『んー、そうだな。授業ノートまとめる宿題ぜったいに忘れんように。忘れたら縛り付けのうえ磔刑と伝えてくれ』

 さらっと言われた冗談だったけど、カレの口から聴くと不覚にも、危険な響きを感じてしまって赤くなってしまったの。

 そしたらカレったら、ぐっと顔を近づけてきて。

『縛られたいからってわざと忘れんなよ? せいら』

『!』

 あたしはあわててふりむいて、教室内のだれもこっちに注目してないことを確認する。

 ばか。こういうこと、ほかの子もいる前で言うなんて――。

 かみやんたら大胆すぎるわ。

 表情からカレはあたしの心中を読み取ったらしい。

『かわいい冗談だよ。おもしろいくらい反応しやがって。じゃな、次B組の授業だからもう行くわ』

 やっとのことで、あたしは小声で言いかえす。

『み、見てなさいよ。今回の提出ノートも、びっくりするくらい美しく明瞭にまとめてみせるから』

 後ろ手をひらひらふりながら、カレは答えた。

『それに関しちゃ一ミリも心配してねーよ。期待してるぜ』

 

 回想終わり。

 服越しにそっとおさえた胸を見やる。

 もう。

 なんでいちいち相手の言動にドキドキしなきゃなんないのかしら。

 これじゃ心臓がいくつあっても足りないわよ。

 目の前には、自慢のかわいいノートや文房具たち。

 その中で、眺めのハート柄の付箋に目が留まった。

 ちょっぴり芽生えたいたづら心。

 あたしはボールペンをもってそこに書いた。

“かみやん、だいすき♡”

 書き終えたちょうどそのとき、スマホが鳴ったの。

 かけてきた番号は1044(としょ)、これは本の中の世界から。

 となれば、十中八九――本をこの時代から盗む盗賊集団ブラックブックスが現れたんだわ。

 通話ボタンを押すと、切羽詰まったケストナーさんの声がする。

「事件だ。せいら嬢」

 用件だけ聞いて通話を着ると、あたしは星降る書店に向かった。

 机を離れるとき、開いたままのページがちょっと気になって。

 とっさに、さっきの付箋をそこに挟んで、閉じた。

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