⑪ 寝付けぬ宵の刹那 ~夢未の語り~
暗がりの中、ベッドに横たわってじっと目の前の壁を見つめてる。
電気を消してだいぶ経つけど、今何時くらいかな。
ふいにがちゃりと、玄関の扉を開ける音がして、ちょっとほっとする。
星崎さんがお仕事から帰ってきたんだ。
足音がそのまま近くなって。
え。
こっちにくる?
わたしはあわてて布団をすっぽり頭にかぶった。
同時に、扉が開かれる。
ほのかな明かりを感じて、机の上にある小さな電気がつけられたのがわかる。
カレの足音がベッドに近づいてくる。
わたしはぎゅっと目をつぶった。
頭の上の掛布団をそっとめくられる。
がんばって眠ってるふりをしたら、星崎さんが椅子に腰かけたのが気配でわかる。
ほっとしていると、ふいに声がする。
「眠っているふりをするなら、瞼はもっと軽く閉じなくちゃ」
あっさりバレた!
しかたなく、ふとんから出て、ベッドに腰かける。
「やっぱり、そうすぐには薬も効果出ないよね」
わたしの勉強机の椅子に座ってこっちを見る彼からさりげなく視線を外して時計を見てみたら―― えっ、今、夜の三時!
思ったより長く時間が経ってたみたい。
星崎さんがの帰りが最近、ますます遅い。
気づいてるの。
わたしの病気がわかってからだって。
たぶん、治療経過も、いいとは言えない。
薬があわないらしくて、飲んでもなかなか寝付けないことが多いんだ。
そのことを、カレが気にかけてないはずがないことも。
「星崎さん。あの」
やっぱり言っておかなくちゃ。
「もしわたしのことでがんばってくれてるんだったら。むりするようなことはしないでください。星崎さん最近、疲れてそうで」
彼はふっと笑った。
「そうだね。オレまで身体くずしたらもともこもないもんね」
意外にも肯定してくれた。
椅子から手が伸びてきて、頭にのせられる。
「夢ちゃんは考えすぎなんだよ。最近夜遅いのは仕事の残業だから」
そっかぁ。
「よかった。だったらいいんです」
そう言って笑うと、彼の視線が少しだけ下がる。
「夜きみが悪夢にうなされたときに、真っ先に覚ましてあげたいのに、心苦しくはあるけど。あまり怖いときには連絡するんだよ」
星崎さん……。
耳に、唇の感触を受ける。
「おやすみ」
言葉が感触をもって優しく耳をなぞっていくようで、わたしは自然と毛布をかぶって横になった。
朝まであんまり時間は残ってないけど、ひょっとしたら今から、ちょっとは眠れるかも。
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