シーズンⅡ 第2話 本とカレは渡さない!? ガードなお泊りデート
① 園枝家の朝の一コマ
窓の外は新緑薫る、五月の真っ盛り。
時計を見ると、朝六時。いつになく早起きできた! よっしゃ。
うーんと伸びをして、あたし、もも叶はベッドから跳ね起きた。
脱いだパジャマをぱぱっとベッドに投げ捨てると、お気に入りのぶたさん抱き枕が窒息しそうになってたので、あわてて救出してやる。
ごめんぶー吉。さみしいとき、いつも独り言の相手してくれてるのにね。
鼻歌交じりにひまわり柄のちょっと大胆なカットソーと、オレンジのタイトスカートに着替える。
いつもポニーテールにする髪はコテで巻いて、右上で一つに結んでみた。
仕上げはショッキングピンクのシュシュ。
ジュリエットの唇という香水を、耳の後ろにひとふきしたら完成だ。
名付けて、中学生になって初のゴールデンウィーク、デートコーデ。
♡
朝ごはんを食べにキッチンに行くと、すでに用意はできていた。
「おはようママ」
「あらもも叶。自分で起きるなんて珍しいじゃない」
ママが仕事用の黒い大きなバッグにファイルを詰めている。
「今日出かけるんでしょ? あんたが言ってた白のサンダル、出しておいたわよ」
「ありがと」
食パンにマーマレードを塗ってパクつきながら、あたしは言う。
「ママは仕事? ゴールデンウィークなのに?」
「まぁね。有能だとあちこちから求められて休ましてもらえないのよ」
「ふーん」
よしできたと、ママがバッグを肩にかけて、こっちを見て――ちょっと、眉をひそめた。
「もも叶、そのかっこう」
そう言われてぎくりとする。
「へんかな? お出かけ用に選んだんだけど」
「ちょっと刺激的すぎるわね」
あたしは思わず、大きくあいてる肩を覆った。
「い、いいじゃん。ママだって、いつも肩や背中が見える服着てるくせに!」
「おバカ。あれはヨガウエアだからいいのよ」
どう違うのさ。
「あたしももう中学生だよ? ちょっとは大人っぽいかっこうだってしたいよ」
「うーんそうね」
ママはちょっと考えて、
「上になにか羽織っていくこと。これで手を打ちましょう」
「わかったよ」
はーやれやれ。
「いい? ゲームセンターには不良もいるかもしれないんだから、カレシのそばを離れるんじゃないわよ」
思わず、あたしはパンの塊をのどにつまらせてごほごほいった。
「ちょ、もも叶、大丈夫?」
水であわてて流し込んで、きっとママをにらむ。
「なんで、カレシとゲーセン行くって……知ってるの?」
ママがしまったというように口を手で覆って、それからごまかすように笑う。
「あ、えっと、勘? お休みの日にいきなりそういうかっこしてたら、母なら気づくわよ。ほほほほほ」
「……あたしの交換日記、見たんでしょ」
「あらぁ」
ママは悪びれもせず、ショートカットの茶色い髪をかきあげる。
「テーブルの上に見てくださいとばかりに広げておいてあったのが悪いんでしょ?
ちょーっとのつもりでちらっと見たら、『今日は会えなくて寂しかった。マーティン欠乏症になりそうだよ~』とか書いてあるんだもの。親としてはそりゃ気になって読むでしょ」
かぁぁっと顔に血が上る。
「『今度のデートどこ行くー? 前のページに公園や静かなところでって書いてあったけど、あたしはゲーセンがいいにゃー。プリとりたいし、エアホッケーとかユーホーキャッチャー、マーティンとやってみたい! ね、いいでしょ、もも叶一生のお願い!』」
「やめてよママ!」
「あんたねぇ、別にいいけど、一冊のノートの中で一生のお願いが数えきれないくらいあったわよ。いったい何回生まれる気? にゃとか多用してたし、ひょっとして妖怪ねこまたなの?」
「マ・マっ!」
まったくひどすぎる。
日記を勝手に見てしかもからかうなんて!
「はい。ごめんなさい、ママが悪かったです」
「反省してよね」
「は~い」
ちょっとしょぼんとうなだれたあと、ママはふふっと笑った。
「でもいいカレじゃない。カノジョのあんたの申し出を受け入れつつ、休み中のゲーセンは混んでて危ない人もいるかもしれないから、短時間にしようって配慮もできるなんて」
う。そこも読んだんだ。
「マーティンくんのことは、ちょいちょいもも叶の話で聞いてはいたけど? 男の子なのに字もきれいだったし、あの文面はいいわよ」
う、うん、まぁね。
カレを褒められて、悪い気はしない。
「ねぇもも叶。あんたもうすぐ誕生日じゃない?」
え? まぁそうだけど。
今年はプレゼントなにねだろうかと考え中だった。
なんて考えて油断してたら。
「今月末、カレシを家に連れてきなさいよ。正式に、ママとパパに紹介しなさい」
どかんと爆弾を落とされた。
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