⑤ 夢ソンはお嬢様?
「やっぱりどう考えても、このももロックには、いつもの王子度全開の星崎王子にしか見えなかったけど」
「でも、まだ謎が残ったね」
ガラステーブルの上で、わたしたちは引き続き会議中だ。
「お父さんじゃないなら、あの預金通帳のお金はいったい誰が――」
ももロックは推理タイムに再び入っていく。
あちこち歩き回り、わたしの本棚や窓のカーテン、カーペットにまで視線をはわせたかと思うと、最後に、無言でテーブルの上に視線を落とし――。
「!!」
彼女は衝撃に目を見開いた。
「わかったぞ……真相が、わかったなり!!」
興奮のあまり変になった言葉遣いで口走ると、半信半疑の目をしているわたしに向かってびしっと人差し指をつきたてる。
「夢ソン。きみはじつは、超金持ちの令嬢なのだ!!」
……しーん。
「ももロック。いくら推理がむずかしいからって、妄想で真相をつくりあげるのは……」
「愚か者! ちゃんと証拠だってあるんだよ!」
ももロックはびしっとつきたてた指を、今度はガラステーブルの上にやった。
そこに並んでいるのはもちろん、さっき星崎さんがくれた三冊の本だ。
「バーネットさんの本がどうかしたの……あっ」
あろうことか、わたしにも、ひらめいてしまった。
『小公女』『小公子』『消えた王子』。
三冊の物語――そこに登場する主人公たちには、ある共通点がある。
女学院で召使をさせられていたセーラも、イギリスの貧民街にくらしていたセディも、そして、お父さんと二人、貧しい家に暮らすマルコも。
貧乏だった主人公たちは、物語のどこかで一転、お金持ちになってしまうのだ。
一般に、シンデレラストーリーと言われている物語の形が、ここにある。
「星崎王子はさっき、『今こそこれを夢ちゃんに』的なことを言っていた! つまりこのプレゼントは隠れたメッセージなんだよ。『夢ちゃん、じつはきみは……とーんでもない大金持ちのお嬢様なんだ』! すごい! 小公女夢ソン、誕生!」
しゃべっているうちに興奮してしまったようで、ももロックは使い終えたストローをぶんぶんふりまわしている。
「じゃ、じゃぁ、魔法の通帳のお金は、どこかにいるお金持ちの、わたしのほんとうの家族から……?」
「豪邸とか持って、毎日晩餐会開いて、庭に白い犬とかがいて! ひゃーっ、夢ソン、きみがあたしの助手でよかったーっ」
ももロックはそんなことを叫んでいるけれど。
「でも……それはいつかは、星崎さんと別れて、その人たちと暮らすってこと……?」
ももロックのふりまわしていたストローが、ぴたりととまった。
「そんなの。わたし。わたしは」
ずっと、星崎さんといたい。
さっき家族って言ってくれたとき、とっても嬉しかったのに……。
切なさいっぱいに浸っていたときだった。
リビングのほうから、がたがたがたっというものすごい音がして、わたしたちは同時に目を見合わせ。
「星崎さん、だいじょうぶですかっ!?」
一瞬あとには同時に、走り出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます