夢もも探偵事務所 事件ファイル1 ~黄色いトラ~
① 探偵事務所の優雅な昼下がり
わたしの親友であり、名探偵のももロック・ホームズには困ったクセがいくつかある。
その一つが、突然物事を思いつくことだ。
そしてもう一つが、その思いつきを実行せずにいられないこと。
「あたし今、シャーロック・ホームズシリーズにドはまり中なの! てわけで、名探偵ごっこしよ。あたしが探偵のホームズで、夢は助手のワトソンね」
というわけで、わたしは今、名探偵の助手として、ワトソンよろしく、名探偵の活躍ぶりをここに書きとめんとしている。
のは、いいけど……。
「でも、ももちゃん」
わたしたちの事務所、ロンドンのベーカー街、ではなく栞町駅近くの星崎さん宅のマンションのわたしの部屋のクッションの上で、A4ノートを前にわたしはぼやく。
「書き留めるって言ったって、解決した事件がないんじゃぁ、どうしようもない気がするんだけど」
おずおずそう言うと、事務所の管理人(ということにわたしたちのあいだではなっている)星崎さんが出してくれたオレンジジュースを飲み干して、名探偵は言った。
「わかってないなぁ! それに今からがっつり取り組んじゃうんじゃん」
「うーん、でもどうやって?」
ももちゃん、もとい、ももロックは落ち着きはらって、あごに手の甲をあてると、
「それはもち、依頼人をじっと待って……」
そのとき、部屋の扉が開いた
「夢ちゃん」
ちょっぴり困った顔をのぞかせたのは、パーカーに黒ぶちの眼鏡という、お休みの日スタイルの管理人星崎さんだった。
「オレのスマホ知らないかな。いったいどこに置き忘れたんだろう」
途方に暮れる顔もすてき。
と思っていると、がばっとももロックが立ち上がった。
「調査します!」
するとうつむき加減で腕をくみ、ゆっくりと部屋を歩き回り始めた。
「うむ、現代社会において、スマホを探し出す最良の道具とは……」
目を閉じてじっとみけんにしわをよせると、
「夢ソン。わかっているね」
「無論さ、ももロック」
察しのいい助手(?)のわたしは、机の上に置いてある自分のスマホを手に取っては、アドレス帳から星崎さんの番号を呼び出し、発信ボタンを押した。
とたんに、部屋の外からきこえてくる、電子音。
星崎さんはその音を頼りに自分の部屋に行き――。
「あっ、あったあった。机の下に落としたんだ。これじゃ気づかないわけだ。夢ちゃんももちゃん、ありがとう!」
……。
「って解決しちゃったやないかい!」
つっこむももロック。
しまった。肝心な事件がなくなっちゃった!
「ねぇももロック。わたしたち、シャーロックさんたちとちがって、知っている人も少ない探偵だから。いっそ、自分たちで依頼人さんのところに出向くとかどうかな」
ぽん、と手をたたき、ももロックはわたしを指出した。
「さすがは我が助手だ! あたしたちかけだし探偵は、依頼人が来るのをのんびり待ってちゃだめなんだよ!」
かくして、お散歩兼依頼人探しに、わたしたちは玄関へと向かった。
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