③ 太陽系夫人宝石店
「ずいぶん漕いだみたいだけど、ここどのへん?」
「太陽系夫人宝石店まで来ちゃったみたいだね」
「宝石店?」
首をかしげるもも叶ちゃんに、説明する。
「このあたり、独特な色や形の星が多いでしょ? ぜんぶ、宝石として売ってるんだ」
ぱちくりとしばたたかれた目がぐるりとあたりを見渡す。
「ひぇー。あんなにきらきらで大きい宝石、ママが見たら卒倒するよ」
「せっかくだから、なにかプレゼントするよ。どれがいいかな」
「えっ、でも、超高そうだよ?」
「カレシの本気を、なめてもらっちゃこまるな」
「うーん、そう言われちゃうと、ほんとに遠慮しないよ?」
うきうきとあたりを見つめだす彼女の目がそれこそ一番高価な宝石のように光っている。
それだけで僕は、なんでもしたくなってしまうんだ。
「あのメロンみたいな緑のきれい!」
「海王星だね。値段はエメラルドの千倍ってとこかな」
「でも、あっちの暗いオレンジも落ち着いてていいな。いろんなファッションにあわせやすそう」
「土星か。オプションでリングがついててお得だよ」
「でも、やっぱり――あれ!」
彼女が指さしたのは、金色に輝く、微笑みの口元のような弧を描いた宝石だった。
「あれは、おとめ座の女神が予約済みらしい」
「なーんだ。売ってないのか」
「でも、いいよ。任せて」
「えっ」
ボートに横たえた弓を手に取り、構えて狙いを定める。
放った矢は命中して、三日月のトップのついたペンダントが落ちてくる――すとんと落ちたのは、彼女の胸元だった。
「似合うよ」
せっかくのプレゼントだというのに、彼女の笑顔はひきつっている。
「あ、ありがとう。でもさ、あたしたちがしたことってもしかして」
そのとき、どこからかサイレンの音が響いた。
「宝石泥棒。止まりなさい。銀河警察です」
やれやれ。
「もも叶ちゃん、ごめん。星空デートは切り上げだ。残念ながら、今度はほんとの法的機関らしい」
「あたしたち、つかまっちゃうの?」
肩をすくめて、オールをかまえる。
「まさか。打ち切りはあくまで星空だけ。デートの後半はこれからだよ」
方向転換すると、全速力で、ボートを漕ぎ出した。
「次のスポット、地球まで、今から逃避行だ」
「ひぇぇぇ。目が回る~」
へりにつかまる彼女に、心で囁く。
そういうおどけた顔も、好きだよ。
きみのためなら星一つ。
ううん、世界だって奪ってみせる。
もう、帰さない――。
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