⑮ カレにぴったりなヒーロー
無事人間に戻ってから、ちょうど1週間が経った日。
わたしたちは『秘密の花園』に集合していた。
今日もモンゴメリさんは留守。
白いテーブルに、色とりどりのきれいな包装紙やリボンを残して行ってくれたんだ。
今日集まったのは、プレゼントをラッピングするためなの。
「このうさぎ柄の包装紙超かわいい! あ、こっちのお花柄も」
はしゃいで包みを選ぶももちゃんに、せいらちゃんがいつものごとくつっこみ。
「ももぽん。渡す相手を考えなさいよ。あんまりラブリーなので包んだんじゃマーティンくん困っちゃうわよ」
えへへとももちゃんはポニーテールのうしろをかく。
「そ、そっか」
でも、男の人にあげるプレゼントって悩む。
星崎さんなら、何色かな? 空のような青? ゴージャスに星屑のような金?
首を傾げていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
また、セールスじゃないかって?
大丈夫。今回は、だれかわかってるんだ。
「はーい」
1ミリの警戒もなしに、せいらちゃんが戸口に立つ。
現れたのは、緑の制服と帽子をかぶった、とかげのお兄さん。
「ちわーっす。『キャッツ・ヒロインズ』様より、チーム・文学乙女様へお届け物でーっす」
「ご苦労様。ハンコウ、こちらでいいかしら?」
とかげさんが差し出した領収書に、せいらちゃんが、ハートマークでかこまれた、「せいら」というスタンプを押す。
「どもっす」
「ありがとう~」
わたしたちは手を振って、業者さんを見送る。
玄関には、三つの贈り物が。
「せいらちゃん、わたしの重いでしょ。運ぶの手伝うよ」
「だいじょうぶよ、これくらい」
誰からのお届け物かって? それはね。
わたしたち、一つずつ通販で買い物をしたんだ。
メルヒェンガルテンで突如始まった会社『キャッツ・ヒロインズ』を営んでいるのはなんと、わたしたちを猫に変えたあの泥棒猫娘さんたちなの。
あれから、今までの悪事を反省して、悲劇のヒロインだった過去を活かして、ひたむきに文学恋魔法商品のセールをはじめたんだ。
わたしたちはいちばんのお客さん。ひどいことをしたお詫びに、カレとさらにラブラブになれるおすすめギフトを選ぶのを手伝ってくれたの(アドバイスも、今度はちゃんとしてたよ)。
さて、テーブルの上には、三つの贈り物が運ばれた。
「あれ。商品ぜんぶに手紙がついてる」
ももちゃんが言って、ほんとだ。
せいらちゃんとももちゃんの小さなプレゼントは、それぞれピンクと黄色のリボンがかかった紙で包まれてる。そしてわたしのにも。わたしは、深い赤の液体が入った瓶に貼ってあった赤いカードをはがして、読んでみた。
本野夢未様
このたびはお買い上げありがとうございます。
強くならざるをえなかったスカーレットのそばにいつもいて、いちばんわかってくれた、あなたのカレはレッド・バトラーのような人。
海賊紳士のちょっと危うげな要素を、ルージュなワインに封じ込めて。
『キャッツ・ヒロインズ』スカル
海賊さんていうのはちょっといきすぎかもだけど。
でも案外あってるかも。
星崎さんって、たまにどきっすること言ったり、してきたりするんだよね。
でもそれがいやじゃなくて――嬉しくて。
もっとされてみたくて、思いきってこんなプレゼントを選んじゃったんだ……。
そう。
スカルさんに相談した結果、わたしは星崎さんへのプレゼントにお酒を選んだの。
カレ、いつも遠慮して、わたしがいるところではお酒飲まないから。
でも、わたしがあげたものなら、飲んでくれるかな。
ハロウィンのときみたく、酔って王子様度が加速しちゃうかも。
たまにでる、わたしへの呼び捨て。
『夢未』
って、あれ、出るかな。
きゃっ、そしたらどうしよう~。
一人で想像してもりあがっていたら、ももちゃんがわたしの心を読んだように、
「いっそ、夢も飲んで誘惑しちゃいなよ。『おつまみは、わ・た・し』」
ええっ。なにそれ?
「わたし枝豆でもお刺身でもないよ」
ももちゃんはなぜか呆れ顔。
「そういうんじゃなくて……。ああ、だめだわこりゃ」
「もちろん、だめよ。お酒は20歳になってから」
せいらちゃん。そ、そうだよね。
「えーつまんないの」
そう言うももちゃんの手には、とかげちゃんが伸びをしてる形のキーケースがある。
「ももちゃんのそれ、すごくかわいいね」
話をふると、ももちゃんは嬉しそうににっこり。
「でしょでしょ。カタログで見たよりいいよ、これ」
「マーティンくん喜ぶわね。手紙にはなんて?」
せいらちゃんに言われて、ももちゃんはケースを包んでいた紙を開いた。
園枝もも叶様
障害がある恋にもかかわらず、カチェリーナを愛したイワン。別の世界の素敵な彼には、ちょっとコミカルなキーケースを。本の外と中の壁もこえられるでしょう。
『キャッツ・ヒロインズ』チェリー
「そう言ってもらえると、元気出るね。カレと幸せになれる気がしてきた」
えへへ~と照れながら言うももちゃんを、せいらちゃんがつつく。
「そのキーケース、いずれはももぽんのものにもなるかもね」
「え、なんで?」
本人のももちゃんと違って、わたしはすぐにピンときた。
「学生結婚!? もしかして、近い未来……」
わたしの言葉に、ももちゃんはかぁぁっと赤くなっちゃって。かわいい~。
「羨ましいわよね~夢っち。歳の差のあるあたしたちじゃどうがんばても無理なハナシだもの」
ほんとほんと!
「それでせいらちゃんは、神谷先生になにを選んだの?」
せいらちゃんはびしっとした笑顔で、
「マネークリップよ」
マネークリップ?
せいらちゃんの手元にあるのは、カタカナのコの形のような、薄い不思議なプレゼント文房具みたい。
「お金を束ねておくものだけど、書類も束ねておけるの。……彼には、少し部屋を整理してもらわないとね」
ちなみに、添えてある手紙にはこうあった。
露木せいら様
数ある結婚話を断って、マリー・アントワネットに愛を注いだフェルゼンのような一途な彼には、マネークリップでお礼を。あなたの恋心も束ねてもらっちゃって!
『キャッツ・ヒロインズ』トワネ
「でも、歴史の中でも超がつくイケメンキャラに例えたりしたら、カレ、『なにかと忙しくてちらかっちゃうんだよな。いやなんたってオレ貴族だから』とかおどけてごまかしそうだけど」
額を抱えるせいらちゃんに、
「いいじゃんそれで、神谷先生のとこには、ゆくゆくは整頓好きのお嫁さんが行くんだから」
うんうん。
「そそ、それはそうだけど、やっぱり身の回りを整えるのは大事であって」
せいらちゃんしどろもどろ。あはは。否定はしないんだね。
和んだところで、わたしは二人に呼びかけた。
「さぁ、仕上げ、始めちゃおうか」
ももちゃんとせいらちゃんが笑顔で頷く。
わたしたちはさっそく、ラッピングにとりかかった。
テーブルの上には、カレからもらったギフトのホワイトチョコを、透明のお皿に乗せて置いてある。それをちょこちょこつまみながら。
これが終わったら、ホワイトデーにカレからもらった本の続きを、じっくり読む予定なんだ。
そうやって心を落ち着けて、いよいよそれぞれの相手に、渡すの。
一生懸命選んだプレゼントを。
いつもありがとうの言葉と一緒に、口に出して言えるかはわからないけど。
わたしだけの王子様でいてください。
とっておきのその気持ちを込めて。
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