② どぎまぎのショッピング

 当たり前の流れのように、彼と一つの傘の下、家まで送ってもらうことになった。

 お店の屋根たちが、濡れて光ってる。

 ジョニーの肩が触れるたび、心がゆらゆらする。

 雨、当分やみそうもないから、送るよって言われて……なり行きでこうなっちゃったけど。

 やっぱり、つきあってる彼の顔が浮かぶ。

 ちょっぴりいけないことしてるような。

 ぶんぶんと首を横に振る。

 でも、マーティンだって悪いんだから。

 大事な日を忘れてカノジョほっとくなんて。

 栞町ショッピングモールが見えてきたとき、あたしはジョニーに言った。

「ここまででいいよ。あとは走って帰るから。ありがとう」

 でも彼はちょっと怒ったように眉を上げて、

「だめだよ。女の子がそんなこと言ったら。この雨の中走ったら、風邪ひくかもしれない」

 あたしはにっと笑った。

「だーいじょぶ! こう見えてけっこう丈夫なんだから。それに、ジョニーだって、なんか用事があったから、わざわざメルヒェンガルテンからこっちに来たんでしょ?」

 もしかしたらマーティンと大切な打ち合わせとか?

 そこまで考えたとき、心がまた暗くなりかけて、自分の頭をぺしっとたたく。

「うん、じつは、大事な用があってきたんだ」

 ほら、やっぱり。

「それじゃ、早くさよならしなきゃ――」

「だからもも叶ちゃん、あそこに寄って行こう」

 へ?

 ジョニーはあたしの腕をとって、銀の雨の飾りのついたショッピングモールのエントランスに向かって歩き出す。

 ちょ、ちょっと。大事な用があるんじゃないの?

「そうだよ」

 当然のごとく答える彼は目を閉じて、あたしの耳に口を寄せた。

「もも叶ちゃんを、元気づけるっていう、大事な用事さ」

 あ、あー。なるほど。

 って。

 なんじゃとてーっ!?

 されるがままにショッピングモールに向かって歩きながら、あたしは心で叫んだ。

 とはいえ、ショッピングモールは大好きだから、いろいろ見ちゃう。

 雨の日デートにはもってこいだよね。

 マーティンとも、来たいな……。

 きゅんと痛む心を無視して、ずらりと並ぶファッションショップの中から、お気に入りのお店を見つける。

 カジュアルからちょっとお嬢様系まで幅広くそろえてる、かわいい服屋さん。

 値段も安いから好きなんだ!

 ジョニーを連れて入ったそのお店で手に取ったのは、ショートパンツに、さくらんぼ柄のTシャツのセットだった。

 かわいいな~。

 ま、今のお財布の中身的に、見るだけなんだけどね。

「素敵だね。こんなのも、どうかな」

 横を見ると、ジョニーが洋服を持って立っていた。

 薄紫で真ん中に細長い花のついたフリルTシャツ。

 ベージュのマーメイドスカート。

 アクセントに、桜色にレースのついたシュシュを腕に。

「似合いそうかと、思ったんだけど」

「あ、あたしに?」

 これは、センスいいな。

 人に選んでもらうと、自分ではふだん選ばない服がチョイスできたりするよね。

 こういうお嬢様っぽいのはあんまり着なかったから新鮮。

 服を受け取りながら、あたしは一人、ほくそえんだ。

 これって、いつも大人のジョニーをからかってやるチャンスかも。

「ジョニーこういうの好きなの? ん? カノジョにはやっぱ女の子らしい服きてほしいタイプかい? このこの!」

 だけど彼は超涼しげに微笑んで、ハンガーにかかったほかの服を見ながら、

「マーティンだって、嫌いじゃないと思うけどな?」

 どきっ。

 しっかりやり返された!

「か、彼のことは、今思い出させないでっ」

 ぷいっと横を向く。

「あれ?」

 ジョニーのきれいな顔が追いかけてくる。

「うまくいってないの? もしかしてケンカしてるとか?」

「そ、そうじゃないけど……」

 今日、ライン一つくれなかったのは、ちょっと……。

 いや、かなり残念というか。

 ぼやいていると、ハンガーにかかった服を次から次へチェックしてはおくりながら、ジョニーはやれやれって感じで首をふった。

「そういうこと、簡単に言っていいのかな」

 ちくりと、胸を刺すような痛みが走る。

「い、いいんだもん! 悪いのはマーティンなんだから!」

「そうじゃなくて」

 ジョニーが手を止めて、こっちを見た。

「僕にとってチャンスだって、みすみすばらしてるみたいなものだから」

 その目がどこか不敵で、どきりとしてしまう胸をおさえて、あたしは思った。

 やっぱあたし、いけないことしてる……?

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