④ ばらの紳士の正体

「すてきなバラありがとうございます。お客様」

 ももちゃんが赤いバラの一本を頭のおだんごにさしながら言った。ちょっとがっくりきてるみたい。

「ほんと、きれいですこと」

 水色のバラを胸にさしながらそう言うせいらちゃんの声もどこか平坦。

「二人とも、そんな棒読みじゃ悪いよ。あの、わたしも、とっても嬉しい……です」

 わたしは赤、水色、黄色でできたバラの花束を大きな花瓶に差しながら、すわっているお客様に言った。

「いやぁ。ごめんね。きみたちの予測した王子様じゃなくて」

 大きな帽子をとって、くるくる回しながら、太めの眉毛で笑う、お客様の正体は。

「ケストナー先生てば、いらぬ期待持たせて登場するんだもん」

 ももちゃんてば、だからそんなにはっきり言ったら悪いって……。

「おや。それはいささか心外だな。期待外れかどうかは、ご褒美をよく確認してから言ってくれたまえよ」

 ご褒美を、確認?

 そのとき、バラの茎をきれいにととのえてたわたしの手に、なにか硬いものがあたった気がしたの。

 花束の中に、なにかある……?

 それも大きいみたい。

 花の中から出てきたのは、わたしたちの顔くらいのサイズがある、鏡。

 周りが、バラ模様の金で縁取られてる。

 ケストナーおじさんが、ぱちりとウインク。

「『美女と野獣』の美女が、囚われの城で愛する家族の様子を見るために使った鏡だ。一度だけ、好きな人の様子がのぞけるよ」

 えっ。それって。のぞき見じゃ。

 いいのかな?

 言うより早く、わたしの持ってる鏡の上に、ケストナーおじさんの帽子が飛んできて、かぶさる。歌うような、ケストナーおじさんの声がする。

「鏡よ。星降る書店の様子を、お嬢さんたちに見せてあげたまえ」

 せいらちゃんとももちゃんが、わたしの両側から、思わずって感じで鏡をのぞき込んで――。

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