④ ふつうの人と違う道

 冬休みに入って、今日はクリスマスイブ。

 定められた日の一日前。

 夜になっても今日は友達がいるんだ。

 マンションのわたしの部屋で、かわいいエッフェル塔や凱旋門の、パリ柄カーテンの前のソファの上に、二人の芸人さんは舞い出た。

「園枝もも叶と」「露木せいらの」

「「ショートコント~」」

床に敷いたクッションに座ったわたしはぱちぱち手を叩く。

わたしだけのための、お笑い芸の始まりなんだ。

まずはももちゃんがおおげさには溜息。

「ねぇせいら~、あたしの悩みを訊いて~」

せいらちゃんはちょっと意地悪な笑顔。

「ももぽんに悩み? そんなのあるの?」

べしべしっと、せいらちゃんの肩をたたくももちゃん。

「失礼だな。このももは、めちゃくちゃハイレベルなことで悩んでるんだよ。……勉強しようと思って、ある有名な詩について考えてるとき、思ったの」

「あら。ももぽんが詩をねぇ? どんなふうに思ったの?」

「今がすっごく楽しくて、いつでも心の中に夢いっぱいの世界地図を描いてるって感じなの」

「ふんふん」

「空を飛んだり、時間を超えて遠い国にでも行けちゃいそうな気がするんだよね」

「そんな万能感に浸っているのに、どうして悩むの?」

「そういう気持ち、大人になったら忘れちゃうのかなって思うんだ。ある有名な詩にそう書いてあったの……」

 肩をすぼめてしょぼんとするももちゃん。

 はっとしたように深刻な顔をするせいらちゃん。

「その有名な詩って……」

 ぱーんと、せいらちゃんのハリセンがももちゃんの頭をたたく。

「とある有名アニメの主題歌じゃないのっ」

 最後の決め台詞を、ももちゃんが叫ぶ。

 せいらちゃんももちゃんはのりのりで頭をぺこり。

「「どうもありがとうございました~」」

 わたしは声を出して笑った。

 どうしてだろう、なんかすごくおかしくて、おなかをかかえて笑っちゃったんだ。

 二人が戸惑い顏するほどに。

「あの。夢っち。一生懸命考えたネタではあったけど」

「ここまでうけるとは、さすがに予想外」

 涙をぬぐいながらわたしは言ったんだ。

「わたし。二人と友達になれてよかった」

 すかさず、ももちゃんがせいらちゃんの手からハリセンをとってわたしの頭をパチン。

「って、なんでどうしてもシリアスムードにもってくねん!」

「ねぇ、夢っち」

 ソファから降りてきながら、せいらちゃんが言う。

「やっぱりなにか悩んでるんじゃないの? 星崎さんが出張で寂しいのもそうかもだけど。もっとほかにも――」

 気が付くと、ももちゃんと二人、クッションに座ってるわたしを挟んで寄り添ってくれる。

 困ったなぁ。

 わたしの心は泣き笑い。

 こんなふうに大切にされたら、言いたくなっちゃうよ。

「……ももちゃんとせいらちゃんは、運命って信じる?」

 びっくりしたようにももちゃんが目を大きくする。

「神様が生まれる前に用意してくれる道みたいなもの。わたし最近感じることがあるの。そういう道がすぐ近くにあるって」

「わかった! 星崎さんに運命感じるとか」

 ももちゃんの言葉は元気づけようとしてくれたものだってわかったけど、わたしは黙っちゃった。

 一気に悲しい気持ちがこみ上げてくる。

「……ごめん、あたしなんかまずいこと」

「ももちゃんのせいじゃない」

 小さく、でもはっきりと言う。

「わたしの道のせいなの。わたしの道は、普通の人と違ってるの。普通の人が通って拾っていくものがわたしの道にはなくて。代わりに険しい坂がいっぱいあって。もっと普通がよかった。神様はなんで、わたしの道をそういうふうにしてくれなかったんだろう」

「夢……」「夢っち」

 ももちゃんもせいらちゃんも黙っちゃった。

 でも、伝わってくる。

 二人とも、わたしのつらい気持ち、感じてくれてる。

 それだけで、話してよかったって思う。

「ごめんね。急に。今日はいっぱいはしゃいで疲れちゃった。もう寝るね。二人ともきてくれてありがとう」

 わたしはベッドの横に敷いてある布団に入る。

 ももちゃんがほっぺを押さえてる。

「夢、正気? お泊り会の日に9時に寝れるっておぬしほんとに小学生?」

「二人は、話してていいから。おやすみ」

 目を閉じる間際、ももちゃんとせいらちゃんが顔を見合わせるのが見えた。

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