⑪ 魔族のハロウィンパーティーにいらっしゃい
高級なお店のなかにところどころに、タピオカやジュースのかわいいワゴン。栞町大型ショッピングモールは、秋のセールで人がいっぱい。
となりを歩く星崎さんが手を握ってくれる。
えへへ。
今日はここでデートなんだ。
「疲れてない、夢ちゃん」
大丈夫です。
って言おうとしたのに。
「ほんとはちょっぴり、くたびれちゃった」
うう。
魔法のせいでずっとこんな調子なんだ。
ちらと星崎さんが持ってるたくさんの紙袋を見る。
中身はぜんぶ、わたしのもの。
いつもならこんなに頼んだりしないのに、身体や口が勝手に動いておねだりしちゃうんだ。
こんなの、だめだよ……。
焦ってるわたしの心を知るよしもない星崎さんは微笑んだ。
「少し休もうか」
ごめんなさい。その言葉は、
「わたし、あのワゴンのスペシャルキャラメルクレープが食べた~い!」
「驚いたな。今食べたくないって訊こうとしたんだよ」
い、いいです。星崎さん。わたし、そんな高いクレープなんて……。
「やったー。わたしたちって、以心伝心ですね」
はぁぁ。こんなんじゃこの先思いやられるよ。
❤
星崎さんと、コスモスが咲き乱れるベンチに座ってわたしはしばらくひざとにらめっこ。
なんとかもとのわたしに戻る方法を考えなくちゃ。
頭をひねっているとふと、細い影がさした。
「こんなとこで会うなんて」
目を上げると、そこには紙袋や箱をたくさん持った小夏さんがこっちを見てたんだ。
今日はかわいい白ふちのサングラスをダークブラウンのカットソーの首元にぶら下げて、肩にかけてる薄オレンジのアウターもおしゃれな小夏さんは星崎さんの幼馴染のお姉さんなんだ。
「幾夜、ちゃんとエスコートしてる?」
「心配いらないよ。喜んでもらえるよう最善を尽くしてる」
星崎さん、優しすぎるよ。
魔法にかかったわたしはほんとわがままだから、もうこれ以上甘やかさないでください。
そう言おうとする口は動いてくれない。
かわりに、ひょいっ。
あぁっ。
右手が勝手に動いて、持っていたクレープを投げる。それが星崎さんの紺のトップスに着地!
ご、ごめんなさい、わたしったらなんてこと。
もちろん、口は別のことを喋った。
「わたしを喜ばせてくれるなら、他の女の人と話さないで」
小夏さん、目がテン。
「夢ちゃん、どうしちゃったの? 今日は超大胆」
星崎さんはちょっと困ったように笑った。
「少し、こみ入った事情があってね」
「あー、わかった。ケンカ中だ」
小夏さん、当たらずとも、遠からずです。
さすがの星崎さんでも、これは怒るよね。
だけど彼は。
「いや、それどころか。すごく楽しんでるよ」
トップスについたクリーム拭く手も、ほんとうに楽しそう。
いやじゃ……ないのかな。
小夏さんは呆れたように手を振ると、
「なんか、今日は入りこむすきなさそうだから、大人しく退散するわ。じゃぁね、夢未ちゃん」
ハンドバッグを揺らして近くのブランドのお店に入って行った。
「ごめんね、夢ちゃん。小夏とはなんでもないから」
あっ。
また身体が勝手に……。
ちゅっ。
えぇっ!
わたし、星崎さんの頬についたクリームにキスした!?
ほ、ほんとに、ごめんなさいっ。
「特別に許してあげる」
うう。これじゃ思ってることと言ってることが正反対だよ。
それでも星崎さんは優しく頭を撫でてくれて。
ふと、切れ長の目が真剣になった。
「今夜だね。魔族さんとの仲直り会」
……!
わたしは、数日前のことを思い返したんだ。
先日はあなたがたの恋心を燃やそうなんて物騒なことをして
すみませんでした。
反省してます。
というわけで、メルヒェンガルテンの魔族行きつけ屋外居酒屋に
ご招待します。
仲直りがてら、宴会でどんちゃん騒ぎしましょう。
魔族一同代表 大魔法使い・大魔女
「罠だな」
昨日の夜、わたしと星崎さんのマンションに、みんなは集合していた。
テーブルの上の、魔族さんから届いた手紙をみんなで囲んでいるとき、マーティンが言った。
「夢未の恋心を灰にしようと狙ってるに違いない」
となりのももちゃんが首をかしげる。
「でもなんで宴会?」
「さぁ。それはわからないけど」
さらにそのとなりの神谷先生が言う。
「せっかくみんなで戻ってこれた矢先の、危険な誘いってわけか。――だが」
みんなが一斉にうなずく。せいらちゃんが続けた。
「答えは決まってるわ」
「夢ちゃんにかかった魔法を、解きに行こう」
星崎さんの言葉のあと、みんなが声を合わせる。
「鋼の誓い」
みんな……!
ありがとう。
感動してる心を表現できるはずもなく。
わたしはくたーっと星崎さんの腕にもたれた。
「べつに、わたしはこのままでもいい……。星崎さんに迫るのは魔法にかかったままのほうが都合がいいし……」
あぁもう、なんでおかしなことばっかり口から出てくるの。
早く魔法を解きたい!
「オレも、君にこういうふうにされるのは悪い気はしないけどね。やっぱり夢ちゃんはシャイではにかみ屋でなくちゃ」
星崎さん……。
今度は心から、わたしはぎゅっと彼の腕に抱き着いた。
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