⑦ 女流作家が経営します! カフェ『秘密の花園』

 四時になって、わたしはももちゃんと一緒に、星降る書店の少女文学の棚の前に立っていた。

 すぐとなりには、少年文学の棚がある。

 本屋さんのジャンルのくくりかたとしては、珍しいんじゃないかな。

 名作の部屋にあるような有名な作品の中から抜きだした、親しめるイラストつきの本から、有名な作家さんの伝記漫画、ちょっと考えさせられる絵本まである。大人への第一歩を踏み出した子たちにわくわくしてもらえる棚を作りたかったんだって星崎さんが言ってた。



 その仕掛けにはまんまとはまっちゃう。この棚の前に来るとつい、目移りしちゃうんだ。

 へぇ~。『若草物語』を漫画にした本が出たんだ。登場するあの四姉妹はどんなキャラクターで描かれてるんだろう。

 あっ。『少女ポリアンナ』のその後のお話もある。絶対読みたかったんだ。



「おっかしいなぁ」

 棚に見惚れていると、ももちゃんが不満そうに言った。

「約束の時間、もう五分過ぎてるのに、なんにも起こらないって」

「あ……」

 そっか。わたしたち、モンゴメリさんに会いにきたんだっけ。

「しっかりしてよ、夢。あんたの相談に来たんでしょうが」

 えへへ。ももちゃん、いつもながらナイスつっこみ。

「ごめん、本が並んでるとついつい」

「もう」

 謝りながらも、やっぱり目線は棚にいっちゃう。

 ふいに、本がぎっしりつまっている棚の一番上の段のちょうど真ん中くらいにあった一冊に目がいった。



「きれいな背表紙……!」

「あ、夢、またぁ」



 ももちゃんの注意を聞きながらも、その本を手にとってみたい衝動をわたしは抑えきれなかった。

 茶色の背表紙のほんの狭いスペースの中、黄金の唐草模様の中にとてもたくさんの種類のお花が小さく描かれている。

 すごい。

 こんな細かいこと人の手でできるのかな。

 唐草模様とチューリップやかすみ草で囲まれたその中にはやっぱり黄金の丸いゴシック体でタイトルが書かれている。わたしも読んだことのある、大好きな本だったけれど、こんな装丁、あったかなぁ。

 新しく出たのかもしれない。

 挿絵も描かれてるかな?

 きれいな風景がいっぱい詰まってる物語だから、きっとすごくきれいに違いないよね。

 見たい――。



「ん? ねぇその本、ちょっと光ってない?」



 ももちゃんが言ったときには、わたしはもうその背表紙に手を触れてた。

 まばゆい光が辺りを包みこんだ。

 夜なのに月っていうより、太陽の光って感じ。

 周りが見えなくなるくらい強くて、そしてあたたかだった。



「なに? え? なにが起きたの?」

 ももちゃんはびっくりしているけど、わたしは驚かない。

 なんとなく、予感がしてたの。

 この本も、ブーフシュテルンなんだ。

 目の前が真っ白になったとき、声がした。

 密やかで、優しい、女の人の声だった。

 まるで、内緒の楽しいお話を聴かせてくれるように、その声は言ったの。

「ようこそ、秘密の花園へ」

 棚が扉のように、真っ二つに分かれた――。


 そこはさっきいた庭園と同じ場所だった。

 そこここにやっぱり、透明な百合やすずらんが咲いている。

 遠くに、六角形の屋根をしたガラスの小さな家が見える。あれがさっき、わたしたちがいたところ――星降る書店でいう、名作の部屋があったあたりかな。

 そんなことを考えていると、後ろからももちゃんの歓声が耳に飛びこんできた。

「なにこれ、めっちゃラブリー」

 振り向いて、わたしも思わず、

「わぁ」

 と声を漏らしちゃった。

 そこには、とってもかわいいおうちがあったんだ。

 薄ピンクの屋根に、ミルクティー色の壁。目の高さには二つの窓がある。赤いギンガムチェックのレースカーテンは、茶色のレースのついたリボンでしばられてる。

 暗くてもその姿は、入口に立っている街頭に照らされてはっきり見えた。

 チョコレート色の扉には、木でできた丸い看板がかけられていて、ピンクと白のポインセチア(ポインセチアって、こんな色あったっけ。でも、造花じゃないみたい)に囲まれている。そこには英語でなにか書いてあった。



 “The Secret Garden《ザ シークレット ガーデン》”



 その意味にはすぐにピンときたんだ。

 さっき見惚れた、唐草模様の本のタイトル。

 『秘密の花園』。



 そのとき、扉が開いて、中から姿を現したのは、まとめ髪に眼鏡をかけた――。

「遅かったわね。待っていたわ」

 モンゴメリさんは、眼鏡の奥の目を細めてどうぞ、ときれいな手を中に向けた。



 そこはカフェみたいな場所だった。

 入ってすぐ左には茶色くて長いカウンターがあって、紅茶のハーブやドライフルーツが細長いガラス瓶に入って並んでいる。コーヒーを淹れる丸いガラスのついた機械まである。

 奥にあるショーケースのなかには、表面のフルーツが光るケーキやサンドイッチ。

 カウンター奥には優しい色合いの木で囲まれた黒板があって、白い文字でメニューが書かれている。

 右側には、白い小さなテーブルが三つ並んでいて、それぞれ三つずつ白い椅子がついている。



 一見するとカフェかと思ったけど、この空間の奥にもさらに部屋があって、開け放した緑のドアの奥に、女の子用のふりふりの洋服や、かわいい文房具や雑貨が見える。



 目を奪われて呆然とするわたしとももちゃんに、モンゴメリさんは三つのテーブルのうちの一つを勧めた。

 「ここは、わたしがやっているショップアンドカフェ。『The Secret Garden《ザ

 シークレット ガーデン》』。日本語で『秘密の花園』よ。本当はあと二人、女店主がいるけれど、なにせそろって活発な女性たちで、しょっちゅう冒険に出かけては留守にするものだから、実質店を守っているのは誰か一人になることが多いわね」

「すっごい。すてきなお店ですね。これじゃ儲かってるでしょ?」

 ももちゃんったら。

「それが、経営主はみな伝記の中から気まぐれに出てきた女流作家だから、生活の糧なんて必要ないの。気の向くまま、自分たちの楽しみのためにここを営んでいるだけ」

「え、じゃぁお客さんは、あんまり来ないんですか」

 遠慮のないももちゃんの質問を注意するのも忘れてわたしも思わずモンゴメリさんを見てしまう。

 そういえば、このお店にはわたしたち以外誰もいない。

「悩める女の子だけが、ここに辿りつくことができるようになっているの」

 さ、好きなものを注文してと、カウンター奥の黒板を示すモンゴメリさんに倣って、わたしとももちゃんはじっとメニューに目を凝らす。

 日本語で書いてある。ほっ。



「見て、ももちゃん!」

 わたしは、メニューの一番最初を指さした。そこにはこんなことが書いてあったの!


 ティーセット・メニュー

 アンが憧れの女性をおもてなししたときのメニューを厳選

 あなたもすてきなお姉さんに近づけるかも


 1 ケーキをお選びください。


 A 三段重ねのレイヤー・ケーキ

 B ホイップクリーム添えレモンパイ


 2 お好きなプリザーブをお選びください。

 

 A さくらんぼ

 B 黄色いプラム

 C ひめりんご


 3 お飲み物をお選びください


 A いちご水

 B ワイン


 とってもおしゃれでおいしそう。

 赤毛のアンに出て来たメニューそのまんまだ!

 ももちゃんとわたしはさっそくティーセットを注文。

 モンゴメリさんはあっという間に注文の品を持ってきてくれた。

 ももちゃんの前に置かれたのは、レイヤー・ケーキ。小さなパンケーキが三段も重なっていて、一段目に黄色いアプリコット、二段目に赤いいちごのジャムがごろごろした果肉と一緒に入ってる。ポップですっごくかわいい! それに、プリザーブっていうものがついてる。これは、フルーツをお砂糖で煮たものなんだよ。『赤毛のアン』を読んだとき、何度も出てきて、気になって調べたから知ってるんだ。底の丸い器に入った、ももちゃんが選んだ黄色いプラムのプリザーブは、きらきらしててまるでトパーズみたい。



 見惚れてるうちに、わたしの前にもティーセットが置かれてく。メインのケーキは、レモンケーキをセレクトしたんだ。黄色い生地の上に乗った生クリームに、オレンジの皮が添えられててすっごくおしゃれ。プリザーブはさくらんぼにしてみたよ。黒の混じった赤が大人な感じ。

 仕上げに、モンゴメリさんがガラスのポットからいちご水を、いちご柄のグラスに注いでくれて……もう完璧。



 モンゴメリさんの声と、いちご水が注がれる音が小川のせせらぎのように重なる。

「アンがすてきな女性に成長していったように、憧れの自分に近づけるエキスがたっぷりのティーセットをお試しあれ」

 いっただきまーす。



「『赤毛のアン』の最後、アンが故郷で学校の先生になろうって決意するところ、わたし好きだな」

 思わず呟いちゃったら、わたしの心を見越したって感じでももちゃんが言った。

「あの時のギルバートはイケメンだよね」

 ギルバートはアンの学校のクラスメイトの男の子。

 アンの赤毛をからかったことからずっと険悪状態だった彼も、最後、故郷の学校の先生になるんだ。でもその学校の先生にアンもなりたがってることを知ると、自分から先生の席を断って、アンに譲ってしまうの。そうなれば自分はもっと大変になるのに。



「ギルバートとアンは、最後に仲直りしたけど、そのあと進展はなかったじゃない? なんかそれがちょっと残念だなー」

 パンケーキで口の中をいっぱいにしながらももちゃんが言う。

 ももちゃん、だめだなぁ。

 わたしはレモンケーキが倒れないようにフォークで一口分をとり分けながら言った。

「アンのその後の物語も読まなくっちゃ」

 ももちゃんがもぐもぐさせてたお口をぴたっと一瞬とめた。

「え、『赤毛のアン』って続編もあるの?」

 モンゴメリさんはにっこり笑った。

「昔がんばって書いたのよ。ぜひ次は『アンの青春』にチャレンジしてちょうだいね」

「読む読む! ぜったい読みます!」

 いちご水をごくっと飲んで、ももちゃんは笑った。

「やっぱり。昔も女の子の普遍問題と言ったら恋愛だったんだよ!」

 ももちゃん、かわいいケーキを前にテンションが上がっちゃってる。



「アンもきっとそうだし、『若草物語』のジョーだって、『少女ポリアンナ』だって続編で恋してたじゃない?」

 うっとりするももちゃんはそれでも、ここにきた目的を忘れていなかった。

「モンゴメリさん、恋が叶うメニューとかないんですか?」

「ももちゃん、そんなメニュー……」

 あはは。無理なこと言うなぁ。

 ところがモンゴメリさんは含んだようにその白い頬をちょっぴりあげて笑った。

「絶対に叶えてあげられるようなものはさすがの女流作家達の知恵をもってしてもまだ開発中だけれど。お手伝いするものならあるわ」

「え」

「マジで、ダメ元で言ったのに」

 ちょっと待っていて、と言ってモンゴメリさんはカウンターの奥に引っ込んで、しばらくして戻ってきた。



 緑に白いペンキでチューリップの描かれたかわいいお盆を持って。

 お盆には二つ、対照的な赤と青の、光るものが乗ってた。

 右側に立ってる細長いスティックには、透明のきらきら光る液が入っていて、たくさんの赤いバラの花びらがその中をくるくる回ってる。

「きれい……。大人の女の人が使う、香水みたい」

「その通り。これは香水よ」

 モンゴメリさんはスティックを大きく振ってみせた。

「ここの店主の一人、バーネットが考えた、人気グッズなの」

「バーネットって、『秘密の花園』を書いた……」

「そう。このお店の名前をつけたのも彼女よ」

 『秘密の花園』は、女の子がきれいなお花のお庭を作って元気になっていくお話なんだよ。お花が好きな子に特におすすめ。読んでみてね。

「彼女は庭園造りが趣味でね。メルヒェンガルテンのあちこちに出かけては、不思議な植物の栽培にいそしんでいるから、あまりお店を手伝ってくれなくて困るの」

 へぇぇ。

 そうだよね。『秘密の花園』にはお花たちがすてきなお庭を造る様子がとっても上手に書かれている。

 あれを書いたバーネットさんが実際に植物を育てるのが好きって言われても納得だなぁ。



「これも、そんな彼女の庭に咲く珍しいバラで作った香水よ。『ジュリエットの唇』という名前がついているの」

「ジュリエットってあの、『ロミオとジュリエット』の?」

 ももちゃんがいちはやく反応した。

『ロミオとジュリエット』は、タイトルを聞いたことがあるって人も多いかな?

 わたしも、小学生向けに書き直された本なら読んだことある。

 イタリアのヴェローナっていう街で、敵同士の家に生まれた恋人たちのラブストーリー。ちょっとうっとりするよね。

「もちろん。なんでも、ロミオがジュリエットに愛を託して送ったバラを培養して作っているのだとか」

 えぇっ。すてき!

 ももちゃんはスティックを手にとってフタを開け、香りを嗅いでいる。

「あま~い。いい香り!」

「ただの香水ではないのよ。これを体の一部につけて好きな人に会うと」

 内緒話をするように、モンゴメリさんは口元に手を添えて、小さな声で言った。



「つけたところに、キスがもらえるの」



「きゃーっ」

 叫んだのはももちゃん。わたしは……うぅ。恥ずかしくて声が出ない。

「夢、使いな! これをつけて星崎さんと」

「そんなの無理だよ! 絶対に」

 わたしはあわてて両手を振った。

 だって。

 ほんとに彼にキ、キスなんてされちゃったら。

 わたし倒れちゃうよ。

 そのあとデートどころじゃなくなっちゃう。

「なに言ってんの。チャンスじゃん」

 わたしの肩をたたくももちゃんにぱちんっ! と手を合わせた。

「お願い、この香水はももちゃんが持ってて」

「え、あたし?」

 ももちゃんはびっくりして、それからうーんと微妙な反応。

「好きな人もいないのに、こういうの持ってるって」

「持っているだけでも、すてきな恋を引き寄せると言われているのよ」

 モンゴメリさん、ナイスフォローありがとですっ。



 ももちゃんはちょっと残念そうに受け取った香水スティックを鉛筆みたいに振った。

「夢が使えば超便利グッズなのに。持ち主があたしじゃただのお守りかぁ」

「あら。一見実用性のないものが、一番肝心なとき、人を救うということだってあるわ」

 わたしはももちゃんに向かって大きくうなずいた。

 この香水を持つ勇気はとてもないから、ももちゃんに持っていて欲しかったから――それだけじゃない。

 今のモンゴメリさんの言葉にはとってもすてきなエッセンスが入ってる気がしたから。

「わかった。せいぜい未来のデートで使いますよ」

 ももちゃんはポシェットに香水のスティックをしまってぽんぽんとたたいた。

「ももちゃんなら、きっとすてきな人に会えるよ」

 まぁ期待半分てとこかなと冷静に言って、ももちゃんは話題を変えた。



「ところでモンゴメリさん、こっちの青いドリンクは、なんですか?」

 ももちゃんが指差したのは、モンゴメリさんが持ってるトレイに乗ってるもう一つ――大人がお酒を飲むときに使うような、逆三角のおしゃれなグラスだった。すぐ隣には、どういうふうに使うつもりなんだろう、空の小さな瓶が乗っている。

「ほんとうは大人むけのカクテルとして作ったんだけど、特別にノンアルコールのジュースでご提供するわね」

 グラスに入っていたのは、青いきれいなジュースだった。

 深い深い海の色のような。



「これはね、秘密の花園の裏メニュー、『ヴァランシー』っていうジュースよ。わたくしモンゴメリの作品といえば赤毛のアンが一番知られているけど、他の作品にもすばらしいものがあると自負しているの。大人の女性たちに共感を得ているのが『青い城』よ。主人公のヴァランシーは、三十才近くになっても結婚できない女の人として周りにばかにされているの。言い返したい気持ちもがまんして飲み込んでいるのね。ところがあるとき、自分はもう長くは生きられない病に侵されていると知ってから、どうせ残り少ない命ならとひらきなおって、自分をばかにしていた人たちに言いたいことを堂々と言おうと決心するのよ。これはそんな彼女のようになれるジュース。飲むと、思ってることが口からどんどん出るの。大丈夫、寿命が縮まるって副作用もなしよ。物語の中でも彼女、はいそうですかって簡単に死ななそうでしょ」

 モンゴメリさんのウインクを受けて、ももちゃんが言った。



「それってさ、ひょっとすると、愛の告白にも最適なんじゃないの?」

 なにも言わずに微笑むモンゴメリさんのほうから、ももちゃんはわたしへと向き直った。

「ねぇ夢。これは使っちゃいなよ」

「えぇっ。そんな!」

 告白なんてまだまだっ。

 でも、そのジュースはすごく欲しいと思った。

 わたしいつも言いたいこと言えなくて、あとでああ言えばよかった、こういえばよかったって後悔するから。

「持っていって。夢未。きっと、あなたが必要な時、助けてくれるはずよ。このジュースはね、わが主人公ヴァランシーの心から作ってるから、とっても質がいいの」

 モンゴメリさんはグラスから小瓶の中にジュースを移し替えて、金の鎖で縛ると、わたしの首にかけてくれた。

「うわぁ。ありがとうございます」

 深い青は、まるで誰かが好きな人と一緒に行きたいって思い描く海みたいに、わたしの胸できらきら光ってる。

 となりでももちゃんがプリザーブをつつきながら力強く言う。

「今度の水曜の夢と星崎さんのデート。このチャンスを逃す手はないね。告白はともかくとしても、まず第一に、探りをいれなくちゃ。今の彼の気持ち」

「そんな、星崎さんの気持ちもなにも、わたしのこと好きなわけないよ。二十代の大人の人がわたしなんか」

「あー、これだから」

 ももちゃんは手を広げ、モンゴメリさんは眼鏡に手をあてて、それぞれ首を横に振った。

「そういうのは案外わからないものよ。物語の語り手としては、すてきな彼がヒロインを愛していることを明かすのは物語後半になってからという手法だってざらに使うわ」

 ふわぁ。

 恋を物語を書く作業に例えるなんて、なんだかすてき。それって、星崎さんがわたしのことを好きかもしれないってこと……?  



 彼の優しい笑顔が浮かんで、切れ長の深い黒の目の中、そこに恋する心を探してみる。わたしは考えを打ち消すように首を振った。 

 やっぱり、ないないっ。

 そんなことをしているあいだにももちゃんがテーブルから身を乗りだしていた。

「もしモンゴメリさんがロマンスを書くとしたら、どうします? ヒロインが好きな人の自分への気持ちを知りたがっているという場面設定まで作ったとして、あとはどんなふうにキャラクターを動かしますか?」

 うう、すごい、わたしよりやる気まんまん。

 でもさすがはももちゃん、冴えてる質問だなぁ。

 すてきなロマンスがどういうふうに生まれるのか、わたしもものすごく知りたい。

「そうね……」

 薄ピンクの唇に人差し指を当てて数秒間目を閉じると、モンゴメリさんはズバリ言った。



「ヒロインが彼に、恋愛相談をもちかけるというのはどうかしら」



「「……へぇぇ?」」

 ももちゃんとそろって、変な声出しちゃった。

「ちょっと待った。恋愛相談って、恋愛がうまくいくようにアドバイスをもらうってことですよね。それを、好きな人ご本人に、しちゃうんですか? それにはちょっと問題があるような気が。彼が好きってこと、ばれちゃいますよね」

 ももちゃんの疑問にわたしがこくこく頷いていると、モンゴメリさんは眼鏡の奥の右目を静かに閉じてもう一度ウインクする。




「では、好きな人が誰かを秘密にして相談したのなら?」

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