第259話 総理にザマァアアアア!
翌日。12月9日木曜日の放課後。
昨日で期末テストが終わり、今日は異能省での仕事は休暇が出たので、俺らは久しぶりに昼間から家でのんびりと過ごさせてもらっていた。
詩冴と茉美はMRの対戦ゲームに興じ、舞恋は麻弥の髪形を色々いじっては美稲がスクショして、俺は右に桐葉、左に真理愛という布陣でテーブルに着いて、数学の勉強を見て貰っていた。
期末テストは終わったけど、そんなものは関係ない。
何せ、俺らの勉強は他の高校生よりも1年遅れているのだから。
異能学園では新プログラムと称して、勉強を小学校一年生からやり直している。
四月、五月中に小学校レベルの勉強を終わらせ、六月、七月中に中学一年生レベルの勉強を終わらせた。
そして二学期からは9月10月に中学一年生レベルの勉強を終わらせ、11月からは中学三年生レベルの勉強をしている。
俺は高校生一年生だけど、高校受験レベルに匹敵する勉強は、流石に簡単じゃない。
「あ、ハニーってばここ間違っているよ。ふふふ、これでボクとのお風呂五日連続だね」
「ハニーさん、桐葉さんと一緒にお風呂に入りたくてわざと間違っていませんか?」
「そんなわけないだろ!」
ちなみに二人はとっくに今日の分の宿題を終えている。
二人に限らず、女性陣は全員元から秀才ぞろいなので、勉強は余裕である。
こうして俺が嬉し恥ずかしい想いをしていると、美稲が声をあげた。
「あ、そろそろ時間じゃない?」
「おう、忘れるところだった」
俺はMRを最大サイズで壁一面に展開すると、国営放送に繋いだ。
その横には、詩冴がネットの選挙実況版を開いた。
今日は公示日。
出馬する人たちが、立候補届を提出する日だ。
MR画面には、立候補届会場の入り口が生放送で中継されていた。
大物政治家や、以前から出馬を表明していた有名人、芸能人たちや、その後援者が続々現れて、カメラの前で決意表明をしていく。
ネットの選挙実況版には、日本中の人が思い思いの感想を書き込み、早くも非応援候補者の罵倒合戦が始まり、盛り上がっている。
MR画面の方は、三〇分もすると主役は遅れてやってくる、と言わんばかりに、総理率いる現与党【日の丸党】の現役議員たちが、大名行列のような威厳をまとい現れた。
マイクを向けられると、総理を含め、誰も彼もが、勝利を確信しているように自信に満ちた顔で受け答えた。
中には、「国民に見せてあげますよ。経済破綻を救った我々の実力を」などと、失言スレスレの発言をする議員もいた。
そもそも日本が経済破綻したのは総理で日の丸党党首のせいで、解決したのは早百合さん率いる俺ら超能力者たちだ。
なのに、それを自分たちの力だと誤認しているらしい。
以前、美稲が言っていた通りだ。
普通の人は、他人の手柄を横取りしたり自分との共同だったことにしようとする。
他人の手柄は自分の手柄、他人の力は自分の力、というわけだ。
この後に起こる地獄も知らずにイキっているおっさんたちの姿は、哀れ過ぎたが涙は一切誘われなかった。
そう、すべては自業自得なのだから。
日の丸党の議員たちに遅れて、新たな一団が現れた。
敵地へ赴くバトル漫画の主人公たちのように、勇ましく、力強く、凛とした眼差しで、彼女彼らはカメラに歩み寄る。
一団の先頭を歩くのは、みんな大好き龍崎早百合さんだ。
その横に並ぶのは、20台から30代の若い官僚を中心に、長年省庁の中で飼殺されてきた40台の官僚や、長きにわたって政治経済の書籍を書いてきた50代くらいの専門家がちらほら見受けられる。
彼らの存在を訝しみながらも、日の丸党の議員たちは、早百合さんのことを笑顔で迎える。
「おぉ、これは龍崎大臣、遅かったですな。彼らは後援者かな?」
ニュースキャスターも興奮した。
「皆さん、今、日本復活の立役者、龍崎異能大臣が現れました。やはり、彼女が国会議員に出馬するという噂は本当だったようです!」
ネットの選挙掲示板もさらに盛り上がる。
日の丸党の議員は、今話題の大臣、早百合さんとの蜜月関係(あるのかそんなもの)をアピールするように、カメラに向かって笑顔を振りまき、早百合さんに握手を求めた。
対して、早百合さんは女武者もかくやという頼もしい笑顔でその握手に応じた。
「我々は新しく【青桜党】を結党致します。今日からライバルですね。選挙では正々堂々、力の限り戦いましょう」
『ッッッッッッッ~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッっッッッッ!!!!??????????????????』
その時、総理たち日の丸党の議員たちが作った表情は、筆舌に尽くしがたいものだった。
どのような日本語を並べても、彼らの心境と表情を的確に説明することはできないだろう。
きっと、あの場では世界の時が止まっているに違いない。
そう思えるくらい、みんな固まっている。
ネットの選挙掲示板も、書き込みが途絶えている。
ネット民も、今の日の丸党の議員たちみたいな顔をしているんだと思う。
「では、健闘を祈っていますよ」
言って、早百合さんは手を離すと、立候補届会場へとつま先を向けた。
それに、他の候補者たちも続いた。
日の丸党の議員たちは我に返った。
総理たちは咳ばらいをして泳ぐ目を固めてから、冷静さを取り繕い平静を装い、カメラに苦笑いを浮かべてから、立候補届会場へとそそくさ逃げる。
その背中は、マイホームのローンを組んだ次の日、リストラを言い渡されたサラリーマンのように小さく見えた。
テレビからは、消え入りそうな声で「これは違う、これは違う、これは違う」と聞こえてくる。
彼らは早くも現実逃避に入っているらしい。
ネットの選挙掲示板は大盛り上がりどころか大炎上だ。一瞬で1000スレたまって次の掲示板が立てられた。
某有名動画投稿サイトで新着動画を検索すると、早くも今のシーンだけが切り取られた動画がアップされている。
投稿者は【UNKNOWN】。
「いやこれ真理愛かよ!」
「皆さんが見たがるかと思いまして」
「マリアちゃんグッジョブっす!」
念写能力で投稿された動画は、本来のプログラムに則った投稿ではないため、あるべきはずのデータがいくつかない。
投稿者不明の動画は、超能力者の力だと思っていい。
「もしかして最初からそのつもりだったのか?」
「はい。本日のことは知っていたので」
無表情無感動に平然と答える真理愛。
動画は、すでに1万回以上再生されていた。
――日銀総裁みたいにまたおもしろ動画の素材にされるんだろうなぁ。
だけど同情はしない。
連中は、今まで、それでもなお温すぎるほどのことをしてきたのだから。
「マヤちゃん、明日にはいっぱいのおもしろ動画が投稿されるから楽しみにしているっすよ♪」
「楽しみなのです」
麻弥たんが嬉しそうならもう全てなんでもいいと思ってしまったのは内緒である。
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今後の予定、
12月 8日木曜日 第260話 糸恋の失言が可愛すぎる!
12月14日水曜日 第261話 老人政治家に国を良くする気などない!
12月20日火曜日 第262話 殺しなさいよぉおお!(赤面)
12月27日月曜日 第263話 シサエのおっぱいはいつでもフリーっすよ!
1月 1日お正月 第264話 政治家の待遇ってチート過ぎないか?
です。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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