第260話 糸恋の失言が可愛い過ぎる!
五分後には、早百合さんが結党した【青桜党】のことはネットのトップニュースとなった。
国営放送も画面の上にニュース速報として『龍崎大臣 衆院選に出馬 政党名は青桜党』と報道された。
その様子を、詩冴たちはやや興奮気味に眺めていた。
一方で、俺は心臓の鼓動が一段階早くなるのを感じ、軽く奥歯を噛み締めた。
――いよいよ、早百合さんが総理に一歩踏み出したんだよな。
今までは、部長から局長、事務次官、そして大臣になっても大した変化はなかった。
俺らの上司は早百合さんで、早百合さんの指示に従って、早百合さんのお願い事をしてきた。
それでも、早百合さんもまた総理の部下で、俺らは総理を中心とした上層部に振り回されてきた。
一度は美稲を失いかけた。
早百合さんのおかげで好転した俺の人生は、だけどとても不安定なものだった。
だけど、早百合さんが総理になればその不安もなくなる。
俺は、俺の大切の人みんなとずっと一緒にいられるはずなんだ。
早百合さんが正式に出馬して、日の丸党に宣戦布告したのを目にして、そのことを強く実感した。
こうして俺らの国盗り、いや、日本攻略の火蓋は、切って落とされた。
ついに、選挙活動が始まる。
投票日は12日後の、12月21日だ。
俺の人生は、この選挙で決まる。
◆
一方で、総理の選挙事務所は混乱の極みにあった。
「総理、関係各所から説明を求めるクレームが殺到しています!」
「我が党の応援で一本化していた企業も、辞退するとの声が!」
「クソっ、あの女ふざけたまねを! だが安心しろ。支持母体がある限り、私の負けはない!」
そこへ、あらたな秘書が駆け込んできた。
「大変です! 我が党から出馬予定のインフルエンサー三名が、突如無所属で出馬すると!」
「なん、だと!?」
総理は愕然として頬を引き攣らせた。
「そんな馬鹿な話があるか! どういうことだ!?」
総理にむなぐらをつかまれて、秘書は泣き叫ぶ。
「仕方がないですよ! 彼らはもともとアビリティリーグに関する動画配信もしている人で、異能省とのコネが目当てだった部分がありますし」
「ぐぐぐぐぐっ、なんでもいいから良いニュースはないのか!?」
「立候補届会場で総理を素材にした動画が某動画サイトで日間ベスト3を独占しています!」
【1位】最終鬼畜総理
【2位】総理のグルメレース
【3位】総理・オブ・ナイツ
「私をフリー素材にするなぁッッ!」
総理が投げた灰皿が秘書の額にクリティカルヒットした。
「いけません総理、今の暴力シーンも有馬真理愛に念写されてしまいますよ!」
「鏡銀鉢のラノベじゃあるまいしそんな雑な展開あるか!」
「たった今UPされました!」
「クァッーーーー!!! おいお前、灰皿を投げられたことはないとマスコミに、むっ、奴はどこだ?」
灰皿を額で受け止めた女性秘書の姿を探して視線を彷徨わせると、男性秘書が開いた窓の外を指さした。
「あっ、もうあんな遠くに!」
「すぐに捕まえろ!」
「無理です! 彼女の趣味はパルクールとボルダリングなんですよ!」
「なんであいつそんなアクティブなんだよ!?」
「くそっ、もうあんな暴力総理の秘書なんて辞めてやる! こうなったら私の持つ全ての情報と引き換えに早百合総理の秘書にしてもらうのよ! ていうかあんなジジイよりも推定Jカップ美女の秘書のほうがイイ!」
女性秘書は百合の花のように美しく華麗にパルクールとボルダリング技術で街中を駆け抜けた。
◆
翌日。12月10日の金曜日。
俺らが登校すると、教室は大賑わいだった。
美方や糸恋と目が合った。
「あら、来ましたわね奥井ハニー育雄」
「昨日のニュース、見ましたで。早百合はんは流石やね」
糸恋があまりにも自然に駆け寄ってきたけど、彼女は2組である。
そう、廊下から成り行きを見守っている2組の。
――何この参観日スタイル? お前らは糸恋の保護者か?
「これで選挙活動を始められますわね。ワタクシも、SNSでガンガン拡散させていただいていますわ!」
美方が自慢げに背を反らすと、大盛りの胸がたぷんと揺れた。
「ウチも、早百合はんのことをフォロワーはんらにアピールしといたで」
糸恋が誇らしげに背尾を逸らすと、特盛りの胸がどたぷんと揺れた。
――フォロワーの差ってこの差じゃないよな? みんなFよりもHが好きなのか?
「ところでハニーはんはSNSやらへんの?」
糸恋からの問いかけに、他のクラスの連中も気を引かれていた。
みんなも気になるらしい。
「俺は元からSNSはやる気ないんだよ。4月まではいわゆるボッチだったし別に俺の情報をネットに晒そうとも思わないしな」
もっとも、SNSをやらなかったからボッチだった、と言った方が正しいかもしれない。
そもそも、俺が前の学校でアイスキネシストの坂東からいじめられていたのは、小学生時代に俺があいつのSNSをフォローしなかったからだ。
とはいえ、もうそんなことはどうでもいい。
「桐葉たちとは一緒に暮らしているから、言いたいことがあれば口で言えばいいし」
「ボクも興味ないね」
「私は4月まではやっていたけど、異能学園に転校した時にやめちゃった。ネットのフォロワーよりもリア友のほうが大事だし」
家に居場所のなかった美稲は、学校に居場所を求めて以前は八方美人だった。
でも、俺らと知り合ってからは、もう八方美人はやめると言って、遠慮なく悪党相手には敵対するようになった。
SNSをやめたのがその証のようで、俺は嬉しかった。
「う~ん、あたしも興味ないわね、詩冴は?」
「シサエは恥ずかしいからやっていないっす……」
茉美に話を振られた詩冴は、意外にも赤面して肩を縮めていた。
――そういえばシサエってメディアに出るのも恥ずかしがっていたっけ?
24時間かまってちゃんなシサエだが、無数の人の前では気後れするらしい。
――でも前にアビリティリーグの司会やっていたし、顔の見えない相手と話すのが嫌なのかな?
「おそらくSNSをやっているのは舞恋さんと麻弥さんだけです」
「わたしは一応、みんながやっていたから」
「麻弥は自撮りを上げているのです」むふん
――それだけで800万人からフォローされているのか。なんて恐ろしい子だ。
「はにーくんたちのおかげで青桜党は常にネットのトレンド入り。大人気だね」
そう声をかけてきたのは、俺の唯一の男友達の貴美守方だ。舞恋と並んで、数少ない良心でもある。(姉の美方にはちょっと以上に辛辣だけど)
「でも、選挙で勝つ見込みはあるの? 与党ってここ数十年不動の日の丸党だろ?」
少女漫画クオリティの美形で眉根を寄せて心配してくれた。
「それなら大丈夫だ。まず、俺らは日の丸党を含めた全政治家が捨てている若者票を独占するんだ」
「それだけで足りるのかい? 若年層は数が少ないから捨てられたんだろ?」
「あぁ。守方の言う通り、残念だけど政治家は若者に関心がない」
自然と、俺は声のトーンが落ちた。
「有権者は高齢者が圧倒的。政治家が自分の地位と支持率を守るには高齢者優遇措置が一番だからな。前にある政治家が『赤ん坊が投票権を持つのは16年後じゃないか』って言って物議を醸していたけど、あの失言は多くの政治家の共通認識だ」
「それ、本当に文明人の言葉かな?」
守方は渋い声を漏らした。
「随分頭の悪い人ですわね。赤ん坊を大切にしたら子育て世代から支持されますのに」
「せやなぁ。ウチやったらハニーはんとの子育て支援してくれるおっちゃんいたら投票するわ」
その場の全員の視線が一点に集まり、廊下の2組生たちがガッツポーズを取った。
例外は、たった一人だけだった。
つまりは糸恋である。
「ん? みんなどないしたん? なんかウチおかしなこと……」
俺と視線が合った途端、糸恋は目が正円になるくらいまぶたを開けながら、一気に顔を赤く熱した。
「ち、違う! いまのは言い間違いや! ウチも桐葉みたくハニーはんと一緒に暮らしたいとか結婚したいとか子供が欲しいとかそんなに思ってへんから!」
――ちょっとは思っているんですね。はい。
「ちょっとは思っているということですの!?」バチッ「ウッ!」
「はうぅぅぅぅッッ!」
守方の電気ショックで美方は倒れたが、糸恋のほうが重傷だった。
糸恋はその場にしゃがみこんで、両手で顔を隠して、かつてないほど可愛くなっていた。
生徒会副会長といういかめしい肩書を持つ女子の弱々しい姿がもつ愛らしさは致死量レベルで、俺はしんぼうたまらない気持ちだった。
そしてしんぼう耐えられなかった詩冴がコンマ2秒で跳びついていた。
そしてそのコンマ1秒前に茉美のアッパーカットが詩冴のアゴを打ち上げた。
「ハニー、ボクと麻弥と糸恋を家にテレポートしてくれる?」
「わかった」
いたたまれない気持ちになった俺は、すぐさま三人を家にテレポートさせた。
あとは、桐葉がうまくやってくれるだろう。
10分後。
始業ギリギリに戻ってきた糸恋は、麻弥を抱きすくめながら満足げだった。
桐葉は何をしたんだろう?
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12月2日にギフトを頂きました。今年はお世話になりました。ありがとうございます。
来年も本作を読んで頂けるよう、楽しんで頂けるよう頑張ります。
今後の予定は
12月14日水曜日 第261話 老人政治家に国を良くする気などない!
12月20日火曜日 第262話 殺しなさいよぉおお!(赤面)
12月27日月曜日 第263話 シサエのおっぱいはいつでもフリーっすよ!
1月 1日お正月 第264話 政治家の待遇ってチート過ぎないか?
です。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
フォロワー21280人 903万5894PV ♥138044 ★8598
達成です。重ねてありがとうございます。
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