第254話 選挙には確実に勝てるってどういうこと?

「まず、大前提として選挙には確実に勝てる」


 翌日の仕事終わり。


 いつもの執務室で、早百合さんはトンデモない爆弾発言をした。

 ソファに腰かけ、真理愛の淹れてくれた紅茶を飲んでいた俺は、あやうく噴きかけるところだった。


「え…………勝てちゃうんですか?」


 俺が愕然しながら尋ねると、早百合さんは執務机越しに当然とばかりに頷いた。


「政治家などどいつもこいつも多かれ少なかれ汚職やセクハラパワハラをしているものだ」


 ――酷い偏見だな。


「選挙期間が始まると同時に真理愛の力で証拠をばらまき他の候補者たちを刑務所に送れば良い。むしろ、この日の為に今まで政治家の逮捕は控えてきた」


 早百合さんの目がキランと妖しく光った。


「まぁ、言われてみればそうですよね」


 俺が納得しながらティーカップをテーブルに置くと、すかさず真理愛が新しい紅茶を注ぎ足してくれた。ありがとう。


 でもそのあと、俺の右隣に座る麻弥を持ち上げ、代わりに座り、麻弥は自分の膝に乗せることで俺の隣をちゃっかりキープしていることを、俺は見逃さない。


 ――真理愛め、なかなかしたたかになってきたな。


 長年、親の言いなりになって自分の意見を言えなかった彼女にしては、いい傾向だ。この辺の積極性は、舞恋にも見習ってほしい。詩冴は見習わなくていい。むしろ自重しろ。


「ただし、乱用は禁物だ」


 早百合さんは、俺らをたしなめるようにして言い含めてきた。


「どうしてですか? 犯罪者を逮捕するのは警察班の真理愛として当然ですよね? 相手が政治家だからと言って手心を加えるんですか?」


 早百合さんに限ってそんなことはしないだろうから、意味が解らなかった。


「もしも日本中の犯罪者が駆逐されればそれもいいだろう。しかし、対抗馬が一人残らず刑務所送りになれば国民はどう思う? 逆らうものは刑務所送りという独裁イメージがついてしまうだろうな」

「それだと、政権を取っても長続きしないだろうね」


 桐葉が感想を口にすると、不意に麻弥が言った。


「ところで与党とか野党ってなんなのですか?」


 沈黙が流れた。

 けれど早百合さんは柔和に笑った。


「ふふ、では簡単に説明しよう」


 言いながら、早百合さんは右手でこっちへくるよう手招きした。


 麻弥は真理愛の膝から降りて、てちてちと早百合さんのほうへ歩み寄った。歩き方が高校生に見えない。


 早百合さんは立ち上がり、執務椅子を引っ張り出すと、俺らの前で座り、麻弥を膝に抱いた。


 それから、優しい声音でレクチャーが始まった。


「まずは政治については国会議員が話し合いで決めている。この政治家たちはチームに分かれ活動している。それが政党だ。そしてメンバーの一番多い政党は与党、それ以外の政党を野党と呼ぶ。与党は一番偉い政党で政権とも呼ばれ、国を直接運営する権利がある。総理大臣を含める大臣は皆、この与党から選ばれるのが普通だし、国の細かいことを決める力もある。大きなことは野党たちとも相談せねばならんがな」


「何人いれば与党になれるのですか?」


 膝の上で、麻弥は早百合さんの爆乳に甘えた。

 早百合さんも麻弥のツーサイドアップヘアをもてあそんで愛でた。


「衆議院議員の定員は465人。過半数である233議席を取れば確実に与党になれる。過半数に届かなくても与党になれることもあるが、その場合は野党たちに団結されると法案が通らない」


「多数決の原理なのですか?」


「そうだ。仮に200議席で与党となれば、他の265人の野党たちが団結して反対に回れば、どんな法案も通らない」


 麻弥のほっぺをつまみながら、早百合さんは滔々と説明した。


「だから問題は仲間集めだ。私以外にも信頼できて実力ある仲間を最低でも232人集め、その全員を当選させなくてはいけない」

「そんな都合のいいあてがあるんですか?」


 俺が眉根を寄せて尋ねると、早百合さんは麻弥のほっぺをもみほぐしながら答えた。


「候補者は多いぞ。まず、今の所属政党でくすぶっている政治家や若手議員、それに、各業界で活躍するエキスパートや官僚だ。現場や実務をわかっている彼らを大臣に据えるとすれば、有権者も納得してくれるだろう」


「あー、確か大臣て総理の指名があれば誰でもなれるから、実力もない奴が身内びいきで選ばれるんですよね」


 それがいわゆるオトモダチ人事だ。


「うむ。故に英語の話せない外務大臣や、経済や法律は素人の財務大臣や法務大臣、それに、軍事や国際情勢に疎い国防大臣なんてものが誕生する。大臣はお飾りで実務は各省庁の官僚に任せきりだ」


 ほっぺを欲望のままにされる麻弥が頭上に疑問符を浮かべた。


「官僚ってなんですか?」

「政治家が国会で決めたことを実際に遂行する省庁の職員たちだ。その道のエキスパートで、大臣の取材に官僚が代わって答えることも珍しくない」

「大臣って役に立たないのです」


 無表情のまま麻弥が不機嫌な声を出すと、早百合さんは麻弥のほっぺから手を離してくすりと笑った。


「そうだな、困った大人たちだな。だから、役に立つ大人にすげかえるのだ。そして貴君は可愛すぎるぞ。あむ」


 麻弥のほっぺに、早百合さんの口がかじりついた。

 そして、ゆっくりと離して上を向いた。


「早百合さん、鼻血が出ていますよ?」

「ふっ、他人に流血させられるのは初めてだよ」

「え? 自分で流したことはあるんですか?」

「私も一応は女なのだが?」

「え? …………あっ!」


 月に一度、女の子が血を流すイベントを思い出して、俺は激しく動揺した。

 そして茉美が背後から俺の首を絞め、麻弥が駆け寄り俺のスネをしこたま蹴り続けてきた。


「うぐぐぐぐぐ、痛い苦しい真理愛は逆サイドのスネを蹴るな美稲はRECするな桐葉は助けてくれよ」


「え? どっちを?」

「俺をだよ! お前俺のボディーガードだろ!?」

「そういえばそんな設定もあったね」

「ハニーちゃん、その場所をシサエと代わるっす!」

「なら代われ!」


 俺はテレポートで詩冴と居場所を交換した。

 麻弥と真理愛のキックがスネに、茉美の首絞めが頸動脈に炸裂した詩冴は悲鳴をあげた。

 そして舞恋はこの波に乗れず何もできなかったことにしょんぼりしていた。


 ――いいんだよ舞恋。君はそのままの君でいてくれ。


「でも早百合さん。その人たちって俺らの味方になってくれるんですか?」

「そこが問題なのだ。選挙をすれば勝てる。信頼できる仲間を議席数分だけ集められるかどうか。確認だが真理愛、念写で人格診断はできるか?」


 詩冴からキックのお詫びに胸を揉ませるよう要求されていた真理愛は、スッと顔を上げた。


「できません。いま、考えていることなら念写できますが、深層心理、価値観など抽象的なものは無理です。それは、サイコメトリーの領分です」


 真理愛がチラリと視線を向けた先で、舞恋は自分を指さした。


「え? わたし?」


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 10月30日に数字+アルファベットの名前の方からギフトを頂きました。

 再びのギフトをありがとうございます。

 応援感謝です。


 次回更新予定は11月7日月曜日です。

今後の予定は

第255話 恋舞舞恋ちゃん大活躍!

第256話 黄金の魂をヘッドハンティング

第257話 えっ!?麻弥たんてインフルエンサーだったの!?

第258話 ロリの可愛さは世界を救う(確定)

第259話 総理にザマァアアアア!

第260話 糸恋の失言が可愛すぎる!

 です。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー20975人 867万9095PV ♥133517 ★8440

 達成です。重ねてありがとうございます。

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