第242話 美方と琴石も参戦

 俺らはテレポートでマンションの玄関に戻ると、靴を脱いでリビングに向かった。


 そこには、部屋着姿の美方と守方、それに、寝るところだったのか、白と紺色の浴衣姿の琴石が立っていた。


「ハニー、美方から聞いたわぁ。美稲の妹さんが誘拐されたってほんとやの?」

「あぁ、本当だ」


 俺は美方と琴石に、今回の事件について説明した。

 すると、三人とも剣呑な表情で、怒りをあらわにした。


「なんて国ですの。まさに愚国、三等国家未満ですわ!」

「それ、ジョークじゃすまないよ?」

「ハニー、すぐ警察へ行きますえ」

「いや、日本警察は外国に弱い。きっと無力だろう」

「シサエたちは明日、ミイナちゃんの引き渡し交渉をするって言って大使館に潜入して直接ミミちゃんを取り返すっす。でもテロ国家相手だから戦力が足りないっす」

「いや計画バラすなよ……」

「あ、口が滑ったっす!」


 詩冴が手で口を抑えると、美方は険しい表情で前に進み出てきた。


「ならワタクシと守方も同行致しますわ!」

「OK」


 さも当然とばかりに申し出る美方と守方に、俺らは驚きを隠せなかった。


「いや待て美方、明日は投票日で選挙前演説があるんだぞ?」

「関係ありませんわ!」


 迷いなく、美方は力強く即答した。


「ワタクシと弟守方の戦力は現行兵器以上。これ以上の人材はいませんわ。ワタクシの力で救える命があるのに見過ごし己が野望に走るなど愚民の所業! この世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方様のポリシーであるノブレスオブリージュに反しますわ!」

「まっ、そういうわけだからさ、姉さんの選挙を応援してくれたみんなには悪いけど、協力させてよ」


 言って、守方は笑顔で俺の肩を叩いた。

 断ろうと思うも、肩に感じる守方の手の重みと笑顔に阻害された。

 この二人が、伊達や酔狂で言っているわけではないと、肌で感じ取ったのだ。


「そ、それにオトモダチである美稲さんの妹ならそれはもう実質ワタクシの妹みたいなものですし、うふふっ」


 ――あ、こいつ人生初めての友達に浮かれているな。


「美方さん、ありがとう!」


 美稲に抱き着かれると、美方は頬を染めてもじもじしながら美稲に熱い視線を注いでいた。


 ――そして守方の眼差しが娘の入学式を見守る父親みたいになっている……。


 俺は、ちょっと複雑な気持ちになった。


「ま、待ちぃや。こないなことで生徒会長になったかてウチも嬉しゅうないわ。ウチも行かせてもらいますわ。潜入なら、この琴石糸恋に任せてぇな」


 意味がわからず、俺らがそろって無言になると、糸恋はいやらしく笑った。


「ウチの能力、忘れたわけやないやろ?」


 その一言で、誰もが深く納得した。


「それとハニー、いい加減、ウチのことも下の名前で呼んでな」

「お、おう」


 琴石、いや、糸恋の笑みに、俺はちょっと照れた。



 琴石糸恋の能力:クモの能力をクモ以上に発現できる。

 音もなく壁や天井を高速走行。

 クモ糸を使ったワイヤーアクション。

 周囲の色に合わせて体色を変える。

 正直、忍者以上だ。



   ◆


 翌朝。

 11月5日月曜日。

 早百合さん経由で、お俺らはOU大使館にメッセージを送った。

 くだんの美稲引き渡しについて話し合いがしたい、と言えば簡単に釣れた。

 本日の午後一時、すぐに来て欲しい返信が来た。


 話し合いのメンバーは俺、桐葉、美稲、美方、守方、琴石、早百合さんの七人だ。


 OU大使から正式に入館許可を貰い、俺らは大使館の門をくぐった。


 大使館の中へ入ると、さっそく桐葉と糸恋が行動に移った。


 俺らを案内する秘書さんに、糸恋が親し気に声をかけた。


「あのぉすんません。ちょこーっとお手洗い借りたいんやけど」

「あ、ボクも」

「……こちらです」


 一瞬、渋い顔をするも、女性秘書は二人を別の廊下へと案内した。


 二人が美見のいる部屋へ行く間、俺らは時間稼ぎに徹する。


 俺、美稲、美方、糸恋、早百合さんが応接室へ通されると、数人のボディーガードを連れた初老の男性が待っていた。


 どうやら、彼がOU大使であり、超能力者管理委員会にも籍を置いているらしい。


「これはどうも。本日は内峰女史をOU,いや、超能力者管理委員会へ引き渡してくれるとか? いやはや、殊勝な心掛けですな」


 どうも、とは言いつつ、頭を一ミリも下げない。

 上から目線に、むしろ威圧するような表情と声音だった。

 大使の態度には、OU国民の自負と日本への差別意識があらわれていた。


「初めまして。私は日本内閣異能大臣の龍崎早百合です」


 早百合さんは敵意を隠して、和やかな挨拶に始まり、着席を促されると、ソファに腰を下ろしてから軽く世間話を口にした。


 桐葉と糸恋が美見を確保する時間稼ぎのためだ。


 二人はトイレから帰るときに迷子になり、偶然入った部屋で何故か日本人少女を見つけた、というていで行動する予定だ。


 俺がテレポートでいきなり部屋の前に連れて行ってもいいけど、OU国内として認識される大使館内でテレポートを下手に使えば余計な外交カードを与えかねない。


 使わずに済むなら、それに越したことは無い。


「それで、内峰女史はいつ、引き渡してくれますかな?」

「そのことなのだが、貴国の治安回復と我が国の世論が納得するまでは無理ですね。逆に尋ねますが、現在OU国内の情勢はどのように?」


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 次回更新予定は8月29日月曜日です。


 今月10日電撃文庫から【僕らは英雄になれるのだろうか2巻】発売です。

 以下、1巻から勝手に名言集。


 ――試験本番に緊張して本来の実力を発揮できずに落ちる奴なんてザラにいる。落ち着け。


「ていうかギリBカップあるし! 貧乳じゃないし! て、言わせんなゴルァ

ッ!」

「テメェが勝手に言ったんだろ。つかテメェは心が貧乳なんだよ!」

「どういう意味よ!?」


「人生のためにシーカーになりたいんじゃない、シーカーになるための人生なんだ。シーカーになれないなら、俺に生きている意味なんてない。お前に負けて、それがよくわかったよ。だからありがとうな蕾愛」


「命は数字じゃないからね」


「誰も傷つかない。傷つけさせない。君も味わった恐怖を私は駆逐する。それがシーカーだ!」

 

 ――ごめん、みんな。でも違うんだよ。俺はシーカーになりたいんじゃない。

「ッ、俺は、怖くて辛くてどうしようもない人を助けたいんだ!」


「あはは♪ 大丈夫ですよ♪ 大事なのは才能でも努力でもなく、やる気と環境。努力できる環境、才能を活かせる環境は私が用意します。君は、やる気だけ持ってきてください。中学浪人してでもシーカーになりたいという、熱いやる気をね」


「はい。それにね、磨かれぬセンスを磨くこと、閉じた才能を開花させること、それが私たち、教師の役目ですから。心配しなくても、君の才能は、私が見つけてあげますよ」

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー19816人 780万0776PV ♥119632 ★8100

 達成です。重ねてありがとうございます。

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