第236話 美稲を救う奇策!
OU国内にある超能力者管理委員会本部へ、美稲を引き渡すよう要求された総理は最初、あからさまに渋っていた。
あれだけ馬鹿にしていた6Gを持ち出す口ぶりから、6G社会を牽引する世界のリーダー国の総理になりたいという欲望が見え隠れしている。
だが、OU大使がノーベル平和賞に総理を推薦すると申し出た途端、総理は顔色を変えた。
何をもってして6G社会と呼ぶか基準がない。
後世の人が、総理の任期が終わった後の時代を6G社会の始まりと解釈したら、総理の名前は残らない。
何よりも、世間は内峰美稲個人を6G社会の立役者と解釈するだろう。
一方で、ノーベル平和賞は解釈もへったくれもない。
公式記録で、総理個人の名前が永遠に刻まれるのだ。
ノーベル平和賞を手にした総理大臣となれば、アメリカからの沖縄返還を成し遂げ【20世紀生まれ初の総理】【人事の佐藤】【政界の団十郎】【早耳の栄作】など数々の異名を持つ昭和の偉人、佐藤栄作総理以来、実に66年ぶりの快挙になる。
そう口説かれた総理は、頬をニヤけさせて、鼻息を荒くした。
早百合さんに吐き捨てたように、元から総理はデジタル嫌いのアナログ人間だ。
超デジタル社会の総理という抽象的なものよりも、ノーベル平和賞受賞者、というわかりやすくて権威に溢れたモノに惹かれるのは、至極当然なのだろう。
総理が、美稲をOUに売り飛ばした理由はわかった。
けれど、これは無理だと俺は絶望した。
「総理は名誉に目がくらんで盲目になっている。これじゃ説得できないぞ」
「え? そうなの!?」
よくわかっていない舞恋に、俺は説明した。
「総理はノーベル賞受賞者になることで頭がいっぱいだ。美稲をOUに引き渡すことを正当化するために、あらゆる曲解拡大解釈を駆使してイチャモンをつけてくるだけだ。実際、6G社会にもケチをつけていただろ?」
「あぅ……」
「それに、もしも総理を説得で来ても美稲の言う通り、もう契約は終わっている。総理がOUに契約の撤回を申し出ても、OUは了解しないだろうな」
「ぐぅっ! 万策尽きたっす!」
「諦めるな!」
詩冴が頭を抱えると、早百合さんが激を飛ばしてきた。
「万策が尽きたならば、一万一個目の策を考える! それが戦いというものだ! 白旗を振っても、勝負には勝てん!」
早百合さんの気高い意気込みに、俺は再び、挫けかけた心を奮い立たせた。
やっぱり、早百合さんは将の器だ。
生徒会長選挙の時に、俺はリーダーに必要なのは人気と部下を回す能力だと言った。
でも、実際にはもう一つある。
それが、皆の士気を上げる腕だ。
少なくとも、早百合さんがリーダーの組織なら、部下たちの心が折れることはないだろう。
俺も、早百合さんがいれば100年は戦える気がしてくる。
「ですね。じゃあ俺もちょっと頑張りますよ。えーっと、とにかく総理をどうにかするのは無理だから……」
「総理がダメなら誰を殺せば、血の制裁を誰に加えればいいんですの!?」
「姉さん、とりあえずモラルの勉強をしようか?」
美方の叫びに、俺はぴんとくるものがあった。
「待て、美方の言う通りだ。総理が駄目なら誰をどうすればいいんだ?」
みんなの視線が、俺に集まった。
次の瞬間、早百合さんもハッとしてくちびるに触れた。
「そうか、我らの目的は総理を説得することではない。美稲をOUへ引き渡さない事だ。総理の説得は、必ずしも必要ではない」
「はい。OUのほうから断る、あるいは美稲を引き渡さなくてもいい合法的な理由があれば、いいはずです」
生徒会選挙の時と同じだ。
目的をはっきりさせる。
早百合さんの言う通り、俺らの目的は総理を倒すことじゃない。美稲のOU行きを中止にすることだ。
「OUを説得するのは難易度が高いんで、合法的に美稲のOU行きを回避する方法、たとえば、OUが美稲を受け入れられなくなるようなことってなんでしょうか?」
「受け入れ予定の超能力者管理委員会本部の施設が火事、天災などで失われる、あるいは……」
桐葉が顔を上げた。
「治安の悪化!」
早百合さんが指を鳴らした。
「それだ。OUがテロや内紛で治安が悪化すれば、美稲の生命保護の名目で、OU行きを中止できるだろう」
その案に、俺は大きく賛同した。
「それで行きましょう! ただ、内紛が起きたら関係ないOU国民が犠牲になるし、犯罪行為は俺らがあとで裁かれかねません。ここは、OUにツケを払わせましょう」
「反政府組織を刺激した、デモ活動だな」
「なら、私の出番ですね」
膝の上に麻弥を抱きしめながら、真理愛がキュピーンと鋭いオーラを出した。
無表情で無感動な声なのに、やる気に溢れていた。
「美稲さんの引き渡しは四日後、11月3日の土曜日。それまでに、出来得る限りの情報を念写します」
「悪いな真理愛。いつも大事なところはお前頼みで。けどOUのスキャンダル、バラまいてくれるか?」
「お任せください、麻弥さんの探知と舞恋さんのサイコメトリーを合わせれば、私にわからないことなどありません」
「任せるのです」
「わたしも頑張るよ」
むふん、と息を吐く麻弥と一緒に舞恋が意気込むと、美稲が口を挟んできた。
「待って。そんなことをしたら、また真理愛さんが狙われるわ。ただでさえ、真理愛さんの存在は各方面から警戒されているんだから」
リビングの空気が、僅かに静まった。
美稲の言う通りだ。
この作戦が成功すれば、それこそ、真理愛の力は大国をも脅かすと証明することになる。
そうなれば、真理愛の存在は全世界から危険視されることになる。
だけど、俺にはある考えがあった。
「なら、情報の出どころが真理愛だってわからなければいいんだろ?」
俺の不敵な笑みに、美稲は頭上に疑問符を浮かべた。
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次回以降は
第237話 美稲を救うフローチャート
第238話 覇王早百合にサイコメトリーが通じない!
第239話 拉致された●●と美稲の親
第240話 もうダメだこの親早くなんとかしないと!
第241話 行け!僕らみんなの最強主人公!
第242話 拉致犯人は当然アイツら!
第243話 美方と琴石も参戦
第244話 救出作戦開始!
第245話 異能者VS異能者
第246話 ボルケーノ貴美美方様
の予定です。
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次回更新予定は7月25日月曜日です。
お待ちの間、ヒマがあれば同じくカクヨムに投稿した超邪気眼中二病作品
【現代召喚術士はシルフ、ウンディーネ、ノームの三大美少女精霊と事件を解決する】全44話
を読んでいただければ幸いです。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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