第214話 今後、主人公の鈍感言動はすべて美方のせいだと思ってください


 善は急げと、俺らはすでに存在していたアビリティリーグの宣伝PVを生徒会長選挙用に少し加工して、PV第一弾として選挙サイトに投稿した。


 すると翌日。

 10月11日の木曜日の朝。

 教室では、早くも美方のPVが話題になっていた。

 前に撮影したアビリティリーグのPVがもとなので、既に見たことのあるシーンばかりだが、あらためて美方のカッコよさを認識した形のようだ。


「美方さんってカッコいいよねぇ」

「同じ戦闘系能力者としては憧れちゃうよね」

「美人でスタイルもいいし」

「聞いたけど、総理のせいで到着の遅れた針霧と内峰の代わりに戦ったんだろ?」

「口は悪いけど、なんだかんだでいい奴なんだよな」

「美方のロールヘアーをハスハスしたい」


 みんな、美方への印象がかなりアップしていた。

 最後のはF6なので気にしなくていい。

 クラスメイトたちの様子に、美方は機嫌が良かった。


「ふっ、どうやらようやくワタクシの魅力に気づいたようですわね」

「そうだね」


 言って、美稲は美方に寄り添った。


「投票日まで、私たちがサポートするから、一緒に頑張ろ」


 美稲が優しくほほ笑むと、美方はわずかに頬を染めて、恥ずかしそうにうつむいた。


「その、今からでも美稲さんが立候補すれば、当選確実ではありませんの?」


 美方の提案に、だけど美稲は、微笑と共に片手を左右に振って断った。


「あはは、私はいいよ。私は限界までリビルディングで海水から資源を生成したいもん。生徒会の仕事なんてしている暇ないよ」

「ですが……」

「それに、リーダーなら私よりもハニー君のほうが向いていると思うし」


 突然、水を向けられて、俺は苦笑いを浮かべた。


「柄じゃねぇよ。人気はどうか知らないけど、生徒会長としての最低限の能力もないしな」


 俺がやんわりと断ると、守方が「またまたぁ」と、からかうように笑った。


「聞いたよ。桐葉さんたちってみんな、はにーくんに助けられたんだろ? なら、生徒みんなも助けてあげられるんじゃないかな?」

「いや、俺は何もしていないよ。みんなは俺のお陰って言うけど、俺はきっかけを作っただけ。最後に選んだのはみんなで、みんな自分で勝手に助かったんだよ」


 俺はみんなに言葉をかけた。

 友達なんていらないと拒絶する桐葉に、友達を作ろうと言った。

 だけど、最後にみんなを受け入れ友達になったのは桐葉だ。

 毒親に縛られていた真理愛に、一緒に暮らそうと言った。

 だけど、最後にそれを選んだのは真理愛だ。

 それに、茉美や詩冴に関しては、普通に好いてくれただけで助けたなんて大袈裟過ぎる。


「美方だってそうだ。仮に美方が当選しても、結局はみんな美方に投票するんだ。俺にお願いされて投票するわけじゃない。他の誰でもなく、貴美美方に投票するんだ。なら、それは美方の力だ」

「ぅっ」


 俺が最後まで言い切ると、美方は頬を染めて言い淀んだ。

 それから、まるでばつが悪そうに視線を彷徨わせた。


 ――あ~、なるほどな。


 だいたい察した。

 たぶん、美方は、今まで俺のことを淫獣扱いしたことを後悔しているんだ。

 散々俺のことを淫獣だとか性犯罪者扱いしてきたのに、マンションで意外にも俺が本当に桐葉たちから愛されている姿を目にしたり、俺に選挙を手伝って貰ったりして、改心したんだろう。


 ――美方って、義理堅いんだな。


 その美方が、意を決したように顔を上げて、じっと俺を見つめてきた。

 両手は、ぎゅっと握り固めている。

 一世一代の告白でもするような面持ちで、美方はまっすぐ俺に歩みよって来る。

 その様子を、俺は余裕の態度で待ち構えた。

 俺の答えは決まっている。


 気にしなくていい。

 だ。


 そして、美方は俺の二歩手前まで距離を詰めて……美稲へと急転換した。


「感謝しますわ美稲さん。これも全て、アビリティリーグのPVを使うよう提案した貴女のおかげですわ」


 ぎゅっと手を握られて美稲は、謙遜してほほ笑んだ。


「そんな。私はたいしたことはしていないよ」

「でも美稲さん、その、本当にこれからも私の応援をしてくださいますの?」

「もちろんだよ。だって私たち、友達でしょ?」


 美方の目に、涙が浮かんだ。


「み、美稲さん」


 美方は感極まったように震え、美稲に抱き着いた。

 その隣で、二人の友情を祝福するように守方は笑っていた。



 うん。そうだな。

 美方の言う通り、アビリティリーグのPVを使うよう提案したのは美稲だ。俺じゃない。

 俺は、アビリティリーグのPVを使う事の有用性を長々と説いただけだ。

 なのに、どこの何様目線で美方の役に立ったつもりになっていたんだろう。

 さっきまでの俺、痛い奴だったよな。

 俺は海よりも深く反省しながら、桐葉に寄り添った。


「え、なになにハニーのほうから来てくれるの珍しいね。うれしい♪」


 今は、誰かに慰めて欲しい気分だった。


 ――もう、二度とイキらないぞ。


 俺は心に固く誓った。


天の声:今後、主人公の鈍感言動はすべて美方のせいだと思ってください。


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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー17520人 610万6955PV ♥93362 ★7338

 達成です。重ねてありがとうございます。

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