第215話 メゾネットってどんなマンション?


 翌日。

 10月12日の金曜日。

 仕事終わりの夕方。


 俺らは、引っ越し作業を始めようとしていた。

 以前は、高級官僚用のタワマン官舎の部屋三つを、美稲の【リビルディング】でくっつけていた。


 そこで、俺、桐葉、美稲、茉美、真理愛で暮らしていたのだが、詩冴も加わることなったため、最上階のメゾネット部屋へ引っ越すことになったのだ。


 メゾネットとは、集合住宅の間取り形式のひとつだ。


 一部屋で二階分の空間を使い、一戸建ての内装がそのままマンションの中に入っていると思えばいい。

 

「えーっと、最上階の3104号室だからここだな」


 俺、桐葉、美稲、真理愛、茉美、詩冴の6人は、手荷物一つ持たずに、身ひとつでエレベーターに乗り、最上階へ移動した。


 そうして、早百合さんから伝えられた部屋番号の前に立つ。


 ドアが俺のデバイスを検知したのだろう。


 開錠のARダイアログが視界に表示された。


 【OPEN】を指でタップすると、カシン、と電子ロックが解除された音がした。


 ドアを開けると、まず玄関の広さに驚かされた。


 玄関だけで、四畳半はありそうだ。

 靴を脱いで上がりかまちへ上がってから、靴をシューズボックスへ片付ける。


 灰色の絨毯が敷かれた廊下を進むと、廊下の右手にはトイレのドアと、バスルームへ続く引き戸がひとつずつ。


 奥のドアを開けると、贅沢なリビングその全貌を明らかにした。


 内装は写真で確認済みだが、肉眼で確認するとつい感嘆の声が漏れた。


 30畳のリビングは二階までが吹き抜けで開放感があり、白を基調とした清潔感溢れる内装だった。


 壁も天井も白く、一方で要所要所が明るい色のウッド調で、床も同じく明るい色のフローリングなので、無機質な印象は一切受けない。


「わおっ、前の部屋よりも広いっすぅ♪」


 はしゃぎながら、詩冴は背の高いベランダ窓へ駆け寄った。

 地上100メートルの眺望は最高で、東京の街並みが一望できた。

 左手の壁からは廊下が伸びて、左右にドアが並んでいた。

 さらに、リビングから伸びる階段上のロフトにも、ドアが並んでいる。


 ――あの個室が顔を出すと、そのままリビングを見下ろせるわけか。


 個室は一階が八部屋、二階が四部屋の合計十二部屋だ。


「ひとつは寝室でひとつはハニーちゃんの部屋だから、嫁の最大枠は10人っすね」


 悪い顔の詩冴を無視して、俺は、リビングを見回した。


 キッチンは広々としたアイランドタイプだ。リビングでくつろぎながら、桐葉たちが調理する様子を、好きなだけ眺められる。


 彼女が自分のために料理を作ってくれるのは、見ていて幸せだ。きっと、全男子の夢と言っても、過言ではないだろう。


 さっそく、桐葉、美稲、真理愛、茉美が台所周りをチェックしている。

 遅れて、詩冴も台所周りを調査する。


「ここで茉美ちゃんがハニーちゃんのために料理を作るんすねぇ」


 詩冴は目を細めて、しみじみと言った。


「べ、別にあいつのためじゃないわよっ」

「裸エプロンで」

「着るわよ!」


 俺の真似をして寸止め空手チョップを浴びせてから、茉美を俺のことを尻目にしてきた。


「み、水着エプロンぐらいならしてあげてもいいわよ」


 くちびるを尖らせる茉美がべらぼうに可愛い。


 ――茉美が彼女で良かった。


「そうだね、ハニーのためにマイクロビキニエプロンしようね」

「マイクロじゃないわよ!」


 桐葉にも寸止め空手チョップを浴びせた。


 ――普通のビキニは着てくれるんだ。


 なんだかんだで、茉美ってサービス精神旺盛だよなぁ、と納得した。


「申し訳ありません……あまりセクシーなのは、私の立場が……」


 真理愛は申し訳なさそうに赤面しながら、自分の両胸に手を当てた。

 視線は、チラリと俺に向けられている。

 慌てて、真理愛をフォローした。


「いや、真理愛も十分大きい、ていうかそのほら、真理愛には桐葉にはない魅力があるというか。大ボリュームもいいけど真理愛ぐらいのも愛でたいというか」


 しどろもどろになりながら俺がまくしたてると、真理愛はまつ毛を伏せた。


「気遣わせてしまい申し訳ありません」


 強引にでも真理愛を元気づけたくて、俺は衝動のままに声を張り上げた。


「俺は真理愛の胸も好きだから!」


 沈黙が流れた。

 沈黙の中、真理愛の、


「ハニーさん」


 というささやかな照れ声だけが聞こえた。

 俺は恥ずかしさで顔を覆った。


「こ、この話は忘れようか。とりあえず家具をテレポートするぞ」

 みんなに背を向けて、俺は粛々と引っ越しの準備をした。




電撃オンラインにインタビューを載せてもらいました。

https://dengekionline.com/articles/127533/

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー17549人 612万9736PV ♥93712 ★7354

 達成です。重ねてありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る