第196話 美女と野獣


 照明が落ちると、今度は村の背景が映り、桐葉がはけて、代わりに美稲と茉美が現れた。


 照明が点くと、俺は笑顔で身振り手振り、MRオブジェクトの村人たちに言って聞かせた。


「というわけで明日、俺と姫様の結婚式だからみんな来て欲しいんだ。母さん、俺、あの人と結婚するよ。そうしたら、姫様の呪いも解けるんだ」

「あらまぁ。怖い人だと思ったけど、貴方が選んだ人なら、きっとあのお姫様も素敵な人なのね」


 美稲が笑顔の一方で、ステージの端にいた狩人姿の茉美は吐き捨てた。


「森にすむバケモノの呪いが解けるだって? 冗談じゃねぇ。そんなバケモノがいるなら、このあたしの獲物にもってこいだわ! そうだ、いいことを考えたわ!」


 再びステージが暗転すると、今度は俺の部屋の背景だ。

 誰もいないステージの上で、俺は寝起きの演技をして、ドアを開けるパントマイムをした。


「ふー、よく寝た。さて、今日は姫様との結婚式だ……あれ? ドアが開かないぞ? かーさーん、ドアが壊れているみたいなんだけど? あれ? 窓も開かないぞ?」


 すると、外から美稲の申し訳なさそうな声がする。


「ごめんなさい。貴方を外に出すことはできないわ」

「え? どうしてだい母さん」


「狩人さんから聞いたわ。森の化物は、人の心を操り食べるって。貴方はあの化物に騙されているのよ」

「そんなことないよ母さん。俺は騙されていなんかいないよ!」


「心配しないで、今夜、村の人たちがあの化物を退治しに行くから。そうしたら、貴方の目もきっと覚めるわ」

「な、なんだって!?」


 ステージが暗転すると、俺と美稲は舞台袖へ。

 ステージは屋敷の謁見の間に戻るも、BGMに人々の喧騒が流れている。

 桐葉の元へ、舞恋が駆け込んだ。


「お逃げください姫様! 大挙した村人たちを門を破り、ここへ押し寄せるのも時間の問題です!」

「そんな、彼は? 彼はどうしたの?」

「あの男なら来ねぇよ」


 弓矢を構えた茉美が、舞台袖から踊り出した。

 極上の獲物を前によだれを垂らす肉食獣を思わせる声で、茉美は弓に矢をつがえた。

 殺意のこもった鋭い矢じりは、桐葉へと向けられている。


「姫様!」

「邪魔だ!」


 放たれたMR映像の矢が、舞恋に当たった。

 舞恋は胸を抑えて倒れ、動かなくなる。

 桐葉は怯え、ハチの巨躯であとずさった。

 茉美は、弱者をいたぶり楽しむ支配者のようにゆっくりと歩み寄りながら、背中の矢かごから新しい矢を手に取り、弓につがえた。


「さぁ、これで最後だな!」

「やめろぉ!」


 俺が飛び出し、茉美を背後からはがいじめにした。


「なっ、てめぇは家に監禁していたはずなのに!?」

「母さんを説得して出してもらったんだ! 俺の愛する姫様を殺させないぞ!」

「えーい離せ! あっ、あっ、あぁあああああ!」


 俺と茉美は舞台袖近くまで下がってから、茉美は舞台袖に向かって転んだ。

 ごろごろと、まるで人が階段から転がり落ちるような交換音が流れて、最後にバタリと音がした。


「姫様!」


 力無く床に座り込む桐葉に、俺は駆け寄った。

 けれど、俺が桐葉に触れる直前、遠くから深夜0時を告げる、鐘楼の鐘の音が鳴り響いた。

 すると、桐葉が床に両手をついて悲嘆に暮れた。


「もうダメよ……16歳の誕生日を過ぎてしまった……もう私は人に戻れない。ずっと、このバケモノのまま……」


 その姿はあまりにも可哀想で、俺は胸をぎゅっとしめつけられるような、いたたまれない気持ちになった。


 彼女は何も悪くない。


 桐葉だって、好き好んでハチの能力をもって生まれたわけじゃない。


 ハチの能力を持っていたって、その力で誰かを傷つけたわけじゃない。


 なのに、どうして桐葉が傷つかないといけないんだ。


 何も悪いことをしていない人が、どうして傷つかないといけないんだ。


 俺は硬く握りしめた拳をほどいて、泣き崩れる桐葉を抱きしめた。


「姫様、結婚しましょう」


―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回以降の【スクール下克上】は、

第197話 ウエディングエンド

第198話 ミスコン開催!

第199話 トイレが渋滞しちゃう……

第200話 ミスコン結果! 初代ミス異能学園は?

第201話 学園祭の打ち上げ

第202話 10種類の揉み方をすれば10種類の幸せがある

第203話 ヒーリングドロップキィィック!

の予定です。お楽しみに。

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—

 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー16890人 558万2427PV ♥84408 ★7031

 達成です。重ねてありがとうございます。

 ★が7000を超えたのは自分史上初で大変うれしく思います。

 これもみなさんのおかげ(物理)ですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る