第190話 美稲と詩冴とデート 前半戦


「じゃあ、今日テレポートした人たちは、みんな一般人だったんだね」

「ああ。OUからの刺客、とかはいなかったと思うぞ」

「今日という日をブチ壊したらOUの大統領をゴキブリの海に落とすっす!」


 美稲、詩冴と一緒にお化け屋敷の中を歩きながら、そんな世間話をしていた。

 気が付けばもうお昼を過ぎて、学園祭も終わりに近づいている。

 徐々に、今日はOUが来ないのではないか、という期待が膨らむ。

 一方で、最後の最後で襲って来るのではないか、という不安も膨らんでしまう。


「うらめしやぁ!」

「わーこわいっすぅ、ミイナちゃんたすけてっすぅ~」


 下心しか感じない声で美稲に飛びかかってきた詩冴を、俺の目の前にテレポートさせた。

 詩冴の顔面は俺の胸板にぶつかり、しくしくと涙を流し始めた。


「硬いっす、ハニーちゃんの胸板が硬いっす。シサエはたゆんたゆんが欲しいっす」

「黙れ。お前に与えられるのは俺の硬くて冷たい大胸筋だけだ」

「あ、でも下の方に行けばやわらかくてあたたかい、いなり寿司が」

「女子がそう言うことを言うなするな」


 俺の下半身へと顔をスライドさせる詩冴を突き放し、空手チョップのジェスチャーを作った。

 その様子を、美稲は楽しそうに眺めていた。



 お化け屋敷から出ると、 詩冴と美稲は次はどこへ行こうかという相談を始めた。

 その背中に、俺はずっと引っかかっていた、そしてさっき確信した想いを投げかけた。


「なぁ詩冴、脚本、書き直してくれないか?」

「ほえ? キスシーンを増やしたいっすか?」

「あらまぁ」

「あらまぁじゃなくて」


 美稲にツッコミを入れてから、俺は詩冴に真摯に向き合った。


「詩冴の書いてくれた美女と野獣は良かったぞ。でもラストシーンて、ハチの姫が人間に戻って幸せになる、だろ?」

「はい。だって美女と野獣ってそういうお話っすよね?」

「あっ」


 どうやら、美稲は気づいてくれたらしい。

 俺は頷いてから、話を続けた。


「原作はな。でもこれだと、結局は桐葉のハチの部分を否定していると思うんだ。でも桐葉は俺に言ったんだ。ハチの自分を愛してくれてありがとうって」


 中庭で桐葉が見せた色々な種類の笑顔をひとつずつ思い出しながら、俺は願った。


「でも、ハチの能力も針霧桐葉っていう女の子を構成する要素の一つなんだ。ハチは幸せになれないじゃ駄目なんだ。ハチでもいい。ハチがいい。お姫様はハチのまま愛されて、幸せにならないと駄目なんだ」


 とりとめがなく、自分でも上手くまとめられたかわからない。


 それでも、これが俺の本音だった。


 俺が緊張しながら返事を待っていると、詩冴は呆気に取られるようにぼーっと俺の顔を見つめ続けた。


 でも、ぱちんとまばたきを合図に、笑顔をはじけさせた。


「OKっす! 流石はハニーちゃん、桐葉ちゃんへの愛がデカすぎるっす♪」


 俺が安堵すると、詩冴は腰をひねってランニングポーズを作った。


「公演まではあと一時間。じゃ、詩冴は超特急で最高のハッピーエンドを用意するから、30分後に中庭に来て欲しいっす!」


 その言葉を最後に、しゅばっと駆け去った。

 相変わらず俊敏な女子である。


「まったく、ずっとあの感じならいいのにな」


 お化け屋敷でのお下品な詩冴を思い出しながら、俺は呆れて嘆息を漏らした。


「でも詩冴さんていい子だよね」


 妹を可愛がる姉のように優し気な語調に、俺も同意した。


「まぁ、な」


 詩冴は、男子の俺に最初から人なつっこく甘えてきた。


 だけど男好きなわけではなく、むしろ美少女好き。


 それに、誰もが恐れるハチの桐葉と友達になろうとした。


 どれだけ人の倫理が進んでも消えることのない差別意識。


 それは、赤ん坊の頃から備わった人の本能だ。


「なぁ美稲、こんな話を知っているか?」


 美稲の瞳が注視してきてから、俺はゆっくりと語り始めた。


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次回は、

第191話 美稲と詩冴とデート 後半戦

第192話 OUからの刺客!

第193話 ハニー!第二の能力に目覚める?www

第194話 下水道シュートの二次被害

第195話 舞台公演

第196話 美女と野獣

第197話 ウエディングエンド

第198話 ミスコン開催!

第199話 トイレが渋滞しちゃう……

第200話 ミスコン結果! 初代ミス異能学園は?

第201話 学園祭の打ち上げ

第202話 10種類の揉み方をすれば10種類の幸せがある

第203話 ヒーリングドロップキィィック!

の予定です。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー16656人 540万5657PV ♥80932 ★6941

 達成です。重ねてありがとうございます。

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