第137話 それは貴君の感想だろう?
『で、では続いて、日の丸未来組合の会長、判日嫌造(はんにちけんぞう)さんの意見を聞いてみましょう』
反日団体の代表である白髪交じりの男性が、眼鏡の位置を直しながら、インテリぶった口調で言った。
「確か、近接戦闘は客を入れるんだろ? なら、その時の地面の破片とかが客に当たるアクシデントもあるんじゃないかな? 監督役としてどうお考えですか龍崎さん」
美稲を無視して、矛先を早百合次官に向けた。
どうやら、美稲には勝てないと思ったらしい。
だが、それは悪手だ。
「貴君は野球のホームランボールが客に当たったら困ると野球を中止に追い込む手合いか?」
「ッ、今はアビリティリーグの話をしているのです。話を逸らさないでください」
「逸らしていないぞ? 野球は許されるのに何故アビリティリーグは許されないのだと聞いている。無論、貴君が野球や相撲、プロレス、安全性が100パーセントでない全ての競技は一律禁止にすべきと考えているなら話は別だが?」
「そ、そうです。野球も全部危険なものは禁止すべきです!」
――こいつ、勝つためなら手段を選ばないな……。
その時その場の都合だけで即興の主義主張をブチ上げる幼稚さに、俺は呆れた。
「そうか。だが貴君は野球ファンのはずだが?」
言って、早百合次官がMR画面に表示したのは、判日のSNSだった。野球グッズをフル装備して客席から満面の笑みでビールを飲んでいる写真が投稿されている。
「うぐっ」
ばつの悪い顔になった判日はしばし黙ると、不意に声を荒らげた。
「それ以前に未成年を戦わせるなんて不健全だ。学生の本文は勉学ですよ!」
――うっわ、今までのことをまるまる無かったことにしようとしているぅ!?
あまりの卑劣さに、一周回ってすがすがしさと恐怖すら感じた。
「少年法で15歳以上は働けるぞ?」
「それでも高校生でしょう? 中卒で就職しているのとはわけが違う!」
「高校生もアルバイトはするだろう? そして我が異能学園はアルバイトを許可している」
「だとしても不健全だ!」
「それは貴君の感想だろう?」
「ぐぅううう、この政府の手先め! 子供を金儲けと政争の道具にして恥ずかしくないのかぁ!」
「彼らは自らの意志で働いてくれているぞ?」
判日がテーブルの上に乗り上げ唸った。
――なんなんだこいつら? さっきから言っていることがなんの根拠もない妄想っていうか、ネットのアンチコメントレベルのことばかりじゃないか?
てっきり、凄い捏造素材や一見すると論理的に見える理屈で攻撃してくると思い身構えていた俺は、すっかり肩透かしの気分だった。
――こいつら、本当にただ攻撃的な妄想を叫ぶしかできないんだな。
こんな奴らに桐葉たちの未来を邪魔されているかと思うと、だんだん腹が立ってきた。
三人目の敵が判日を押しのけたのは、その時だった。
彼女はMCの紹介も待たず、真打登場とばかりの表情で名乗り上げた。
「アジア友愛会日本支部部長、折柄愉二(おりえゆに)です」
―—確か、オリエンタルユニオンことOU系の団体だったな。
その中年女性は背筋を伸ばし、胸を張り、俺らを指さしながら、まるで舞台役者のように堂々と高らかに声を張り上げた。
「OUからの禁輸措置を受け、OUとの友好の道が閉ざされたのは貴方がたのせいです! このグローバル社会において、アジアを統一しようというOUの崇高な理念に従うのが世界の望みであり流れなのですよ。それに逆らい国民を危険にさらしたことに対する謝罪と賠償を要求します!」
フンス、と鼻息を荒くしながら、折柄はドヤ顔をキメた。
俺はたっぷり三秒間、頭が空白になってしまった。
おもわず、カメラさんの隣に立つ桐葉に視線を向けてしまった。
――え? これってどういう状況? ねぇ、教えて桐葉。
桐葉も、眉間にしわを寄せて首を傾げていた。
全学試一位の頭脳で、理解できないらしい。
早百合次官は、不思議そうに答えた。
「ここはアビリティリーグについて討論する場なのだが、何故OUの話が出てくる?」
「へ?」
まるで予想外、とばかりに、折柄は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「いや、だから私はアビリティリーグを推し進める貴方がたの問題を糾弾しているのではないですか! 人の話を聞いていますか!?」
「いや、だからアビリティリーグの討論をするのであり、アビリティリーグを推し進める我々について討論する場ではないのだが、伝達ミスか? 生放送だがこれは放送事故ではないのか?」
淡々と事務的に処理する早百合次官に、折柄は顔を真っ赤にして歯ぎしりをした。
「ぐぎぎぎっぎいぎ!」
――死屍累々じゃねぇか……。
流石は我らの論破王。
早百合次官と内峰美稲に討論で勝てる人なんてきっといない。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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