第136話 なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいっすか?

 2040年現在。テレビ番組と言えば、テレビ局が制作した動画、という意味で使われることが多い。


 動画はテレビとネットの両方で配信される。


 テレビを見るのはお年寄りが中心なので、テレビ局が配信する動画の中でニュースとドラマ、お年寄り向け動画だけをテレビで放送している傾向がある。


 その例に漏れず、俺らの討論番組は緊急特番として、テレビとネットの同時配信されるらしい。



 二日後の8月15日の夜。

 俺らはテレビ局のスタジオに入っていた。

 番組は生放送。

 桐葉たちは付き添いとして、ADなどスタッフさんたちに紛れて立っている。

 俺、美稲、早百合次官が座る席の向かい側には、二人の男と一人の女が座っている。

 三人とも、嗜虐的な笑みを浮かべ、舌なめずりをするような眼差しでこちらを眺めてくる。

 実に気持ち悪い奴らだ。

 まるで美稲が視姦されているようで不愉快だった。


『みなさんこんにちは。ではこれよりアビリティリーグの是非を問う討論会を、緊急生放送でお送り致します』


 番組が始まるとMCの人が視聴者に挨拶をして、俺らと相手側3人の簡単な紹介をしてくれた。


『さぁ、それではまず、発起人である【異能社会を考える会】の会長で【世界が超能力者に支配される時】の作者、地糸排郎(ちいとはいろう)さんの意見を聞いてみましょう』

「どうも、ご紹介に預かりました、超能力評論家の地糸排郎です」


 ――胡散臭い評論家だな。ていうか。


 地糸と名乗る中年男性は顔がパンパンにむくんでいた。

 まぶたなんて、ふくらみすぎて糸目になっている。

 太っているわけではない。

 体型はいたって普通だ。

 太っているというよりも、むしろ腫れている。

 まるで、虫に刺されたように。


 ――あ。


 思い出した。そういえば試合の日、廃絶主義団体に向かって詩冴が言っていたな。



「周辺の蚊たちに命令するっす。今夜、あいつらの鼻とまぶたと股間を刺すっす」

「周辺のゴキブリたちに命令するっす。今夜からあいつらの家を寝床にするっす」



 ――刺されすぎだろ……。


 顔をかきながら犯罪者スマイルをする地糸に、俺はちょっと哀れみの視線を向けた。


 ――毎晩ゴキブリ食ってるのかなぁ……。


「まずだね、君たちのやっている異能プロレスがどれだけ危険なものかわかっているかい?」

「異能プロレスではなくアビリティリーグですよ」


 いきなり美稲がカウンタージャブを喰らわせた。


「伝われば名前なんてどうでもいいだろう? そうやってあげあしを取ることしかできないなんて幼稚だね。これだから子供は。やっぱりこういう大人の世界に君みたいなお子様がしゃしゃり出てくるのは早いんじゃないのかな?」


 地糸には一切効いていなかった。

 そして己のミスを指摘されれば年齢マウントで逆襲。

 あまりの低俗ぶりに開いたが口がふさがらない。


「間違った名称を使ったから教えただけでムキになり過ぎですよ。伝われば名前なんてどうでもいいならじゃあ私は貴方のことを丸顔ポコ太郎と呼びますね」

「何故学生時代のあだ名を知っている!?」


 ――奇跡のストライク!?


「ぐっ! 人をバカにしているのかね!?」

「バカにしているのは貴方ですよね? 人のコンテンツを間違った名前で呼んで指摘されたら年齢マウントを取って恥ずかしくないんですか? 指摘とあげあし取りの区別もつかない程度の国語力で討論の場にしゃしゃり出て来るのは早いと思うんですけど違うんですか?」


 ――美稲さんキレッキレ!


「なんて失礼な子供だ! これだから若い奴は駄目なんだ! 今日は私が大人の見識というものを教えてあげようじゃないか!」


 ――あ、逃げた。


 地糸が鼻息を荒くする一方で、美稲は今日の天気を答えるくらい平坦な声を返した。


「あー、アビリティリーグの危険性の話ですよね? アビリティリーグに野球観戦を超える危険性はありませんよ」


 地糸が勝利の笑みを浮かべた。


「ふっ、やっぱり考えが浅いね。能力者の攻撃が観客に当たったらどうするんだい?」

「告知通りVR観戦に切り替えたので客席にお客さんはいませんよ?」


「異能バトル観戦はマンガでよくある展開だけど、あれはフィクションだからできること。実際には空ぶった攻撃は客席に届くし下手をすれば死人が出る。なのにそれを君はなんて言った? 野球を超える危険性はないだって?」


「VR観戦で客席にお客さんがいないのにどうやってケガをするんですか?」


 美稲は理路整然と説明するも、地糸は無視して、なおも調子よくまくしたて続けた。


「まったく、マンガと現実の区別もつかないなんて幼稚だな。死人が出てからじゃ取り返しがつかないのに」

「なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいですか?」


 俺は噴いてしまった。

 不意打ちだった。

 美稲があまりにも平坦な声で言うものだから、心の準備ができていなかった。

 地糸は顔を真っ赤にして逆上した。


「私はもしも客を入れたら危険だということを言っているんだ!」

「じゃあその時に言ってください。観客を入れると危険だからやめてVR観戦にしているのにわざわざありもしない危険な状況を設定して批判する意味がわかりません」


「その時になってからじゃ遅いだろ! そもそも異能者に戦闘をさせるのがおかしい。犯罪性を助長させてしまうじゃないか!」

「何かデータとかあるんですか?」


「え? ……いや、ないけど」

「じゃあ、あなたの感想ですよね?」


「もしもが起こってからじゃ困る。絶対に犯罪が起きない証拠を持ってこい」

「じゃああなたが犯罪をしないという証拠を持ってきてください。持ってこられないなら貴方には管理が必要ですよ」


「このクソガキが!」


 地糸は蚊に刺された顔をかきむしりながら立ち上がった。

 それを、仲間に制されている。


『で、では続いて、日の丸未来組合の会長、判日嫌造(はんにちけんぞう)さんの意見を聞いてみましょう』


   

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー11933人 327万2032PV ♥48647 ★5879

 達成です。重ねてありがとうございます。

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