第127話 市民団体の反対運動


 8月10日の昼過ぎ。


 異能学園のグラウンドには、美稲の【リビルディング】で作り上げたプチ闘技場が威風堂々と佇んでいた。


 というのは流石に大袈裟だけど、グラウンドの敷地には、土から作った石造りの円形階段席がぐるりと張り巡らされている。


 その姿は、ローマのコロッセオを彷彿とさせてくれた。


 観客は満員御礼。

 学園の正門で入場QRコードを確認してから入場してもらった客が席を埋め尽くして、試合の開始をいまかいまかと待っていた。


 その様子を、校舎の屋上から見下ろしながら、俺は感嘆の声を上げた。


「すげぇな。ネットじゃアンチコメントが多かったから、冷やかし客が多いかと思ったけど、着券率90パーセント越えるんじゃないか?」

「お客さんいっぱいなのです」


 嬉しそうに麻弥がぴょこぴょこ跳ねるとツーサイドアップの髪が揺れて可愛いかった。髪飾りの古銭がキラリと光る。


「これも茉美のおかげだな」

「別に。アイディアの大本は桐葉と美稲がほとんどじゃない。あたしはただ上手く形にしただけよ。それより問題は」


 茉美につられて、俺や桐葉たちも一斉に正門側へ視線を投げた。


「やっぱり、バカは湧くものねぇ」


 屋上の反対端へ歩いていくと、見たくもない光景が広がっていた。

 何十人ものハチマキを巻いたオッサンとオバサンたちが、MRプラカードを頭上に掲げながら、昔懐かしの物理拡声器を手に叫んでいる。




「超能力バトルはんたーい!」

「超能力による暴力を正当化するなぁー!」


「皆さん! 騙されてはいけません! 奴らはオリエンタル・ユニオンとの国交断絶の危機を作った独裁戦犯者です!」


「奴ら超能力者は、我々と同じアジアの友、オリエタンル・ユニオンと日本の友愛を挫く悪の手先なのです!」


「独裁政権である現与党と癒着し、経済破綻という未曽有の国家危機を悪用し、己が利益をむさぼる資本主義の豚! 軍国主義の犬! 今こそ奴らの洗脳工作から目覚める時なのです!」


「詳しくは、我らが地糸排郎(ちいとはいろう)先生の著書! 【世界が超能力者に支配される時】税別1000円に書いています! ここには政府が隠している社会の真実が書いてあります!」


「政府は超能力者軍隊を作り出し、世界侵略を企んでいる! おぉぉおぉおお軍靴の音が聞こえるぞぉおおおおおお!」




「ほんと、ああいうバカ共を見ていると無性に殴りたいわね」

「ハニー、あいつら全員刺していい?」

「気持ちはわかるけど我慢してくれ。気持ちはわかるけど」

「周辺の蚊たちに命令するっす。今夜、あいつらの鼻とまぶたと股間を刺すっす」

「地味に残酷だなソレ」

「周辺のゴキブリたちに命令するっす。今夜からあいつらの家を寝床にするっす」

「地獄かよ……まっ、無視していいだろ。客は無視して入場してくれているし、通行人は撮影しているし」

「ふふ、ほんとだね。あ、そろそろ始まるよ」


 美稲の言葉で、俺らはまた屋上の反対側へと戻った。


「じゃあ頼んだぞ詩冴」

「任せて欲しいっす♪」


 詩冴が消えた。

 同時に、闘技場中央のバトルフィールドに詩冴が現れた。

 何もない空間に突如として現れた美少女に、客は騒然。

 それから、詩冴がマイクアプリで観客のデイバスへと声を飛ばした。


『レディースエーンドジェントルメーン♪ それでは最初の試合をお届けするっす♪ まずは現代に蘇る狼男伝説♪ コロッセオに放たれた猟犬は本日誰を仕留めるのか♪ 赤コーナー、犬飼茂の入場っす♪』


 詩冴の声に合わせて、眼鏡をかけた男子生徒が入場して、拍手と歓声を浴びた。


『対するは、ロックはハート、ロックなアビリティを持つロック野郎♪ お前がワーウルフなら俺はゴーレム。ただし主人はいない。コントロール不能の暴走巨人、大原次郎っす♪』


 名前の通り、大柄な男子が力強い足取りで入場して、やはり大きな歓声と拍手で迎えられた。


 ――詩冴の奴、ノリノリだな。


 テレビ取材など見えない相手には緊張してしまう詩冴だけど、人前にはとことん強い。


『それでは時間いっぱい。二人とも準備はいいっすね? それでは、レディーファイトッ!』


 詩冴がバックステップで二人から離れると、両者は互いに変身した。

 犬飼茂は桐葉と同じタイプの能力者だ。

 その能力はずばり、狼の能力を狼以上に再現する。


 彼の体を覆うようにグリッド線が走り、テクスチャが張られ、厚みと実体を得ていくと、身長二メートルを超える二足歩行の狼に変わった。


 最初から完全変身を遂げる。

 出し惜しみのないインパクト抜群の展開だ。


 対する大原次郎も負けていない。


 いきなり手足から岩が生じて、体が飲み込まれ、こちらは3メートル近い岩の巨人に変わるや否や、土埃を巻き上げて駆けだした。


 二人がぶつかり合うと、客席は大いに湧いた。


 ワーウルフとゴーレムのぶつかり合い。


 まるで神話の一ページのような光景は大迫力で、最新のVRゲームが形無しだ。


「おぉ、観客気分で見ていると面白いな」


 俺にとって能力者同士のバトルは、不良同士の喧嘩など、怖いモノだった。


 けれど、こうして試合という形を取ると、見え方が180度変わった。


 まるでボクシングなどの試合を見ているような気分だった。


 しばらくして、ゴーレムのロケットパンチが炸裂してワーウルフは吹っ飛び、場外アウトとなった。


 両者が退場すると、交代するようにラウンドガール役の麻弥と舞恋が入場してきた。


 二人とも【第二試合】と表示されたMRボードを握り、頭上に掲げている。


 だが、注目すべきはボードではなく二人の格好だろう。


 麻弥はフリル付の愛らしいワンピース水着姿で、舞恋はチアガールみたいなへそ出しミニスカスタイルだ。


 誇らしげにぺたんこなお胸を張る麻弥と、赤面しながらやや前かがみの舞恋という対照的なふたりの姿は大ウケで、観客は大いに盛り上がった。


 早くも、二人の姿はネット上で話題になり、美少女ラウンドガールコンビとして、投稿された画像には1万以上のイイネがついている。

 

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー11739人 313万5324PV ♥45952 ★5778

 達成です。重ねてありがとうございます。

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