第126話 異能バトルスポーツを作りたい!
その日の夜。
俺の家で異能力バトルについての会議を行った。
会議は大いに盛り上がり、良いアイディアがたくさん出た。
競技名は【アビリティ・リーグ】を仮名として、会議が終わった頃には、夜の10時を回っていた。
「ふぅ、やっと終わったね。じゃ、ボクちょっとシャワー入って来るよ。みんなもどう?」
桐葉が誘うと、
「わたしは自分の家で入るからいいよ」
と、舞恋は自分の大きな胸を抱き隠しながら断り、
「今日は眠いからもう家で眠るのです。明日の朝に入るのです」
と、麻弥は目をこすりながら断り、
「変態と一緒に入るほど無防備じゃないわよ」
と、茉美は詩冴のことをチラ見してから断り、
「シサエが人間スポンジになってキリハちゃんの爆乳爆尻ボディーを隅々まで――」
言い切る前に詩冴を自宅へテレポートさせた。
結果、同居人の真理愛と美稲が桐葉に付き従った。
「じゃ、ボクらはシャワー入って来るから、覗いちゃダメだよ、ハニー」
――NOZOKITAI!!!!
「ののの、のぞかねぇし」
めちゃくちゃ狼狽してしまった。
桐葉と美稲が笑っている。真理愛が虚空を一瞥してからちょっと頬を染めた。
「おい真理愛。いまAR画面に何を念写した?」
「答えられません」
「せめて目を見て言ってくれ!」
「それは恥ずかしいです。しかし」
真理愛の無表情が崩れて、控えめな口調で恥じらった。
「そのうち、一緒に入りましょう。恋人同士なのですから……」
「ッッ~~!?」
俺は独り、つつましく赤面した。
茉美のジト目が痛かった。
桐葉たちがシャワーへ向かうと、俺は舞恋と麻弥を家にテレポートさせてから茉美に向き直った。
「じゃあ次は茉美な」
「いや、あたしはまだいいわよ。アイディア、まとめないとね」
「手伝ってくれるのか?」
「それぐらい付き合うわよ」
有無を言わさず、茉美はソファに座り作業を始めてしまう。
今さら帰れと言うのも悪いので、甘えることにした。
俺もソファに腰を下ろし、深く座った。
最小化していたMRウィンドウをいくつも開きなおして、会議に出たアイディアをまとめていく。
すると、しばらくして茉美が声をかけてきた。
「ねぇ、育雄」
「ん? なんだ?」
手を止めず、てきとうに返事をした。
「あんたってさ、なんで他人のためにこんなに頑張るのよ?」
「どういう意味だ?」
「だって、桐葉のことが好きなのはわかるけど、恋愛ドラマじゃないのよ? なのにこんな大事にしてまで。桐葉を守りたいなら、メディアで自分の彼女だって紹介すればいいじゃない。ヒーローの恋人を悪く言う奴なんていないわよ」
最初は平坦だった声は、徐々に深刻そうな響きを含んでいく。
まるで理解できない、不可解なモノにでも遭遇したような態度だった。
だから、俺も真剣に答えた。
「……それじゃあ根本的な解決にならないだろ?」
作業の手を止めて聞き入る茉美に、俺も作業の手を止めた。
「桐葉以外の戦闘系能力者が差別されていたら意味がない。自分が無事でも、同じ能力者が差別される社会なんて息苦しいだろ?」
「……それは、そうだけど」
「それに戦闘系能力者以外の、俺ら超能力者全員が差別される社会になったら桐葉を守れない。それに、俺は第二第三の坂東を生み出したくないんだ」
「坂東って、美稲を襲った男子よね?」
わけがわからない、と言った風に、茉美は眉をひそめた。
「あぁ。あいつがあんなことをしたのは、自分の実力が認められない現状に鬱屈とした気分が溜まっていたからだ」
坂東に虐められ続けた小中学生時代の記憶に耐えながら、声のトーンを落として言った。
「坂東は昔から嫌な奴だったよ。わがままで、常に周りから肯定されて、賞賛されて、自分を中心に世界が周っていないと怒って、逆らう奴は徹底的にいじめ抜くし、暴力だっていとわない」
「何そいつ、最低じゃない」
お腹の底から侮蔑した声。オラオラ男子嫌いの茉美らしい反応だ。
「だけど警察沙汰を起こす奴じゃなかった」
坂東も、そこだけは明確な線を引いていた。
「厳密に言えばイジメは犯罪だけどさ。暴力は振るっても病院送りにする程じゃない。人の物は奪っても他人の家の物を盗まない。他にも怒鳴ったり罵ったり嘘をついて他人の貶めたりはしたけど、警察沙汰になるようなものじゃない。あいつも【イジメ】と【凶悪犯罪】の区別はついていたんだ。だけど、プロジェクトから外されて、あいつなりに追い詰められて凶行に走ったんだと思う。じゃあ、他の戦闘系能力者も同じじゃないのかな?」
他の超能力者が活躍する中、同じ超能力者の自分はのけもの扱い。
しかも、何もしていないのに危険視されて入場制限までされてしまう。
それはどんな気分だろう。
「美方の態度も、考えてみれば当然だろ? せっかく旅行に来たのに、炎系能力者ってだけで入場禁止だ。タバコ用にライターを持っている人は入れるのにだぞ?」
感じる部分があったんだろう。
坂東の話で不機嫌気味だった茉美は、くちびるを噛んで視線を落とした。
「学園のみんなは俺のことをヒーロー扱いしてくれる。だけど格差も感じていると思うんだ。同じ超能力者なのに、なんで育雄や美稲、詩冴や真理愛ばっかりって」
オーディションに落選した五人組も、ちょっとふざけて自虐的だったけど、内心、辛いに違いない。
「同じ能力者同士でも、能力によって格差が生まれる。そういうのってよくないと思うんだ。だから俺は、活躍する場が違うだけで、みんな同じ、みんな違ってみんないい、みたいな社会にしたいんだ」
どこまでも青臭くて甘ったれた理想論。
自分でもいつからこんなことを言うようになったのか、うつむきながら、自嘲気味な息を吐いてしまう。
だけど、それが俺の本心だった。
「……あんた、坂東って奴にイジメられていたんじゃなかったっけ? 桐葉だけじゃなくて、そんな奴のことまで助けたいの?」
「言っておくけど、俺は聖人君子じゃないぜ。俺がこう思えるのは、今が幸せだからだよ。もしも自分がテレポーターだと気づかずに今もボッチしていたら、それでもしも坂東がプロジェクトで勝ち組だったら、こんな風に思わなかったはずだ」
過去がどれだけ不幸でも、人は今が幸せなら不幸な過去を笑い話にできる。
逆に過去がどれだけ幸せでも、今が不幸なら嘆く。それが人間だ。
「衣食足りて礼節を知る。人は自分が幸せだと他人の幸せを歓迎できるんだ。俺は桐葉たちのおかげで今が幸せだからな。こうやって他人を気遣えるだけだ。言い換えると、誰もが幸福な社会を実現するために頑張れるぐらい、今が幸せってことだな」
「何よそれ」
視線を上げると、茉美は恋する乙女のように、ほんのりと可愛く頬を染めていた。
「やっぱりいい奴じゃん」
「え?」
「ねぇ、この宣伝方法にインフルエンサーたちを利用するってのだけどさ」
突然、話題を変えながら立ち上がった茉美は、俺の隣に座ってくる。
「インフルエンサーの人たちみんなを無料招待しましょう。あんたらはヒーローなんだから、みんなあんたとの繋がりを誇示したくて、SNSで勝手に宣伝してくれるでしょ? 『あの四天王から異能力バトルの招待チケットもらっちゃった』って。試合後は感想も書いてくれるわ」
「お、おう、そうだな」
「あと、いきなりどこかの競技場を借りるんじゃなくて、まずはちっちゃな場所で試合をして世間の反応を見ようって案があったでしょ?」
「桐葉の言っていた案だな」
「場所は学校のグラウンドでいいんじゃない? そのほうが、異能学園がより開かれた場所って感じがするし」
「そうだな。じゃあ明日の会議ではこの線で進めよう。でもどうしたんだ急に?」
茉美はソファの背もたれに体重を預けると、俺から視線を外した。
「別に、なんでもないわよ。たださ」
背もたれに預けた頭をころりと俺に回して、大きな瞳を好意的にやわらげながら、茉美はほほ笑んだ。
「やっぱ、あたしあんたのこと好きだわ」
その時の茉美はほんとうに可愛くて、思わず恋に落ちそうになった。
当然、俺は浮気性ではないのでキチンととどまった。
けど、その時の茉美はそれぐらい可愛かったのだ。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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